発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅷ 変わるべきは……<Sideライ>

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 ドアが閉まったことを確認し、サードが口を開く。

「ウルイ様のご家族は一歩も家から出ておりません。今回のライ参謀とウルイ様の失踪について国から調査団が派遣され、軍部も動員されてオアシスに入りました。オアシスの長が対応すべきでしたが、ウルイ一家は説明一つできず、オアシスの内政も説明できず、全てさきほどの副長が対応しました。調査団から状況調査でかなり厳しく追及があり、管理力が問われて自宅謹慎となっています」

「そうか。国の調査団では誤魔化しもきかないだろうな。ウルイ一家は失脚となるかもな」

「おそらくは、そうなるかと」
 悪い人たちではないのだ。急に降りかかった幸運に踊らされただけのような気もする。

「ウルイと共に話し合いの場を設けるか」
「そうですね。それから、ライ参謀についても国王陛下より指示がございます」

 サードの言葉に(だろうな)と納得する。ライは自由に動きすぎたと思っている。単独行動をし過ぎた。これも、この件の要因でありライの反省点だ。

「王都に戻るまで、私がライ参謀の監視役です。『あの放蕩アルファを十分に見張っておけ』と陛下より承りました」

 監視と聞いてガリイ国の作業現場を思い出す。

「ははは。放蕩アルファときたか。ガリイ国のことを軍部と国王陛下に報告しなくてはいけないな」
「はい。王都で報告をするように、とのことです」

 ガリイ国を思うと切なくなる。あの作業の無意味さにガリイ国の支配層が気付くと良いのだが。
 そう考えて、そうか、と思う。

 ガリイ国は支配層が全てだ。支配層が変わればあの不幸な労働者たちが救われるかもしれない。ライの中にピンと閃くものがあった。

 文明の差と軍力の差を見せつけて、支配層にアドレアと手を組んだ方がいいと思わせれば、国境の壁などと言う無意味な事が終わる可能性はある。上手くいかなければ現状のままだが、やらないよりいい。

 それに国交が始まるならアドレアのためにもなる。百年以上周辺国との国交を持てなかったアドレアの新たな一歩になる。

「ライ参謀?」
 声を掛けられてハッと顔を上げた。つい考え込んでいた。今はオアシスで出来る事を優先して考えなくてはいけない。

「大丈夫だ。そろそろウルイのところに戻る」

 病室に戻ると、ウルイがベッドで上体を起こそうとしていた。

「ウルイ、支えるよ。眩暈とか無い?」
 駆け寄って支えるとウルイがニコリと微笑む。はっきりと覚醒した顔つきだ。

「ライ、夢じゃないよな」
「ウルイ、夢じゃない」

「すごい! ライ、戻った。アドレアに、戻った! ライは凄い! ありがとう!」
 無邪気に喜ぶウルイが愛おしかった。

「もう足は痛くない?」
「うん。ライは、痩せたままだ」

「え? 俺、痩せたかな?」
「痩せたよ。ガリイ国に行ってから見る間にやつれた。ちょっと怖かったくらいだ」

 ウルイの発言に驚いて、壁掛け鏡に映る自分を見た。
 自分になど興味なく過ごしていたが、確かにライの顔が締まったように感じる。

 ただ、もともと大柄であり通常男性より筋肉も多いため、痩せたという表現が似合うとは思えない。

「ライ参謀は痩せましたよ。それくらい過酷な時を過ごしたのだと思います。よくご無事で帰ってくださいました」
 声が聞こえてサードを見た。

「サード。お前、いたのか」

「ええ。お邪魔虫しています。つい一緒に入室してしまいましたが、いつ退席していいのかタイミングが分からなくなっていました。お二人の世界に入ってしまわれる前に出たいのですが」

 サードの堅い部分に笑いが込み上げる。ウルイはサードとライを交互に見ていた。

「ウルイ様、私は国防軍情報部のライ参謀直属部下のサードと申します。簡単な挨拶で申し訳ありません。ライ参謀、お出かけになるときには声をかけてください。では失礼します」

 流れるようにスムーズに退席するサードを見送った。奔放タイプのライとは性格が真逆だと感じる。


 室内に二人になると、ウルイが布団をめくり足に当ててあるガーゼを触り始める。

「えっと、五日間治療してくれたんだよね。あの痛みが取れるなんて凄い」
「ガーゼの上から触れるだけでも痛かったってことかな?」

「うん。じっとしていても、足の骨をトンカチで殴られ続けているような痛みがあった」
 ウルイの表現に相当我慢していたのだと理解できた。

「そっか。よく耐えてくれた。ウルイ、ありがとう」
「僕の軽作業の方は、僕みたいに怪我をした人たちがいた。だから、働けなくなって消えていく人がいた。僕はアドレアに生まれて良かった。貧しいって底辺の存在だと思っていたけれど、それよりも底を知ったよ。生きる自由が無い怖さを知った」

「うん。そうだね」

 生きる自由、と聞いてライは納得した。あの国の人たちには希望が無かった。哀れな国だと思う。

「ここは僕の住んでいたオアシス?」
「そうだよ」

「僕は、僕の家族に会おうと思うけど、いいかな?」
 ウルイに相談しようとしていた話をウルイから持ち掛けてくれてホッとした。

「その先の話は、起きてお茶でも飲みながら、どう?」

 ウルイがコクリと頷いた。お茶の支度を準備してもらう間に、立ってみて異常は無いか、歩けるかなどウルイの状態確認をした。

 軍医からは「もう大丈夫でしょう。しばらく、内服薬と塗り薬は続けてください」と言葉をもらえた。
 ウルイは「治療をしてもらえるって有難いことだって分かりました。ありがとうございます」と礼を言っていた。

 ガリイ国に行ったことでアドレアの普通が幸せな事なのだと分かった。
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