分身鳥の恋番

小池 月

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Ⅰ章「分身鳥の恋番」

side:藤原ルイ②

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 一週間、衝動行為について再教育。管理局の人間から、厳しく指導を受けた。教室にはいかず、個別指導だった。

そして俺の鳥が襲ってしまった小坂涼と分身鳥は、生死の境にいる。

悲しくて、苦しくて毎日様子を見に行った。集中治療室で窓越しに数分だけの面会。
俺の鳥がうなだれて、死にそうなほどの後悔と悲しみを訴えていた。

胸を張った堂々たるいつもの姿勢は消え失せ、頼りなげに大きな身体を俺に寄せている。大丈夫。お前の罪は俺の罪だよ。俺は一緒に罪を償うから、一緒に頑張ろう。俺の鳥に声をかければ、涙を流して遠慮がちに頬にすり寄ってきた。

今は、生きてくれることを祈ろう。そう声をかけた。


 衝動行為についての再教育が終了した。教室に戻ったとき、クラスメイトの非難の目線がすごかった。
心が串刺しにされるような、苦しさ。迷わずに、皆の前で土下座した。

これまで、衝動行為を全て押さえていた俺の鳥のことを話した。被害者の彼を見た時に、彼こそが番の鳥だと実感した思い、番への愛衝動がこれほどだと思わなかった後悔。正直に全て話した。もう二度と誰も傷つけない、と誓った。

 数日は、誰も話をしてくれなかった。それでも、掃除やクラスの事を積極的にこなした。俺から皆に声をかけた。俺の鳥は、申し訳なさそうにうなだれていた。その姿に、鼻がツーンと痛んだ。

 被害者の彼と小鳥が目を覚ました。すぐに病院に駆け付けた。だけど、病院のスタッフから、面会はダメだと言われた。本人がお見舞い品も全て拒否している、と。

その場に立ち尽くした。

心がぽっかり空洞になったような寂しさ。俺の鳥が頬にすり寄り、自分が涙を流していることに気が付いた。番の相手に拒否をされる辛さ。心が悲鳴を上げる。いや、この悲鳴は俺の鳥の思いも、だ。

泣きながら寮に帰った。

 教室では少しずつ俺が受け入れられた。
すごく優しいクラスの人たちだった。

大型猛禽類の衝動について学習時間を作ってくれた。愛の衝動行為についても、しっかり認識を共有してくれた。暴力衝動とは違うことも分かってくれた。嬉しかった。非難されて仕方ない事をしたのに、受け入れてくれる皆に感謝した。

「俺たちも協力するから、まず小坂と分かり合いなよ。あと、生涯をかけて小坂を守って欲しい。小坂が、かわいそうだ」
宮下君の言葉が嬉しかった。そしてすぐに応えることができた。
「うん。必ず」

温かさに包まれて、俺の鳥も徐々に落ち着きを取り戻した。いつもの堂々たる俺の鳥に戻っていった。


七月に入っても、小坂涼は退院しなかった。

左上肢に後遺症が残ったと聞いた。

俺の行為は大型猛禽類のため不問となった。小坂君に申し訳なかった。

小坂君の鳥はタヒチヒタキ。左羽の付け根損傷が激しく、二度と空を飛べないと聞いた。俺の鳥が激しいショックを受けているのが分かった。分かるよ。俺も辛い。俺たちは、償いをしていこう。お互いに誓い合った。


 七月中旬。小坂涼の退院が決まった。

精神的に不安定、と報告を受けた。管理局の人に全面的に俺がサポートすることを伝えた。

分身鳥同士が鳴き合うと、鳥同士は番の相手と認識して惹かれ合う。今回のように強制的に鳴かせてしまっても、惹かれ合う相手になる。

だからこそ、愛の衝動行為も無くならない。

けれど、人は違う。まず、態度で誠意を見せなければ。小坂君が俺の謝罪を受け入れる気持ちになるように。大切にしよう。


 寮に帰ってくる日。会いたくて、寮の前でウロウロしていた。

驚かせないように、俺のオウギワシは二階自室の窓から見るよう声をかけた。本当は近くで見たいよね。でも、どんな反応になるか確かめないと。説得するのも大変だったけど、分かってくれた。さすが俺の鳥。悲しい気持ちもわかるから。俺たちが誠意を見せていこう。そう伝える。

すり寄る大きな俺の鳥を「いい子だな」とたくさん撫でた。


 小坂君を乗せた車の到着。ドアを開けた小坂君。骨折したときのように、左腕を首から吊っている。小坂君の背中にも、共有痕と呼ばれる痣が出来ているらしい。共有痕は痛みも共有する。

ほっそりとした姿を見て、分身鳥の垂れ下がった羽を見て、心がズキンと痛んだ。震えながら自分の鳥を隠す小坂君。ごめん。そうだよね。俺のことが怖いよね。そっとその場から離れ、遠くから様子を見た。

小坂君は慎重に動いているけれど、左上肢が使えないのは不便そう。物にぶつかりそうになり、心がヒヤッとする。部屋までたどり着き、入室するまで見守った。

俺の部屋では「どうだった? どうだった?」と興奮気味のオウギワシ。
俺の鳥を抱き締めて「償うしかないんだ」と伝えた。シュンとうなだれる大きな鳥を抱き締めた。


 それから、できるだけ小坂君の邪魔にならないように、刺激しないようにサポートした。俺の鳥は小坂君の分身鳥を見つめる。隠されてしまっても居るだろう場所を、じっと見ている。

他の友達とは分かり合えた。けれど、一番分かり合いたい相手が、遠い。気持ちが届かない。謝る隙も、ない。

能面のような表情で心を閉ざしている小坂君。傍に居ると、痛々しくて、苦しくて、時々涙が溢れそうになる。そうすると俺の鳥が「ごめんね」とすり寄る。大丈夫だよ、と撫でさする。

どんなに拒否されても、償うって決めたよね。いつか、小坂君と小鳥の綺麗な目が俺たちを見つめてくれることを願い、誠心誠意尽くし続ける。


 夏休み。ゆっくり一緒に過ごして、少し距離を縮めていきたい。そう思っていたのに。

小坂君が、フランスに呼ばれた。ぞっとした。

その意味を、きっと小坂君は知らされていない。

成人するまでは、呼ばれないはず。鳴き声を交わした番の鳥が居る事が、知られたからだ。番の相手と結ばれれば、その後は番の相手の子しか産まない。

絶滅危惧種最高位の者は、望まない妊娠を強要されることがある。

男性でも、種の保存のため最高位の者は両性で生まれる。これは最高機密。本人にも成人するまで知らされない。そして、国同士の種の保存の取引に使われる。そのための保護管理でもある。

俺は番鳥となったため知らされた。性行為は絶対にいけないと釘を刺された。でも、取られたくない。譲りたくない。俺のだ。燃えるような思いが沸き立つ。俺の分身鳥も、頭の上の扇に例えられる飾りを奮い立たせていた。

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