分身鳥の恋番

小池 月

文字の大きさ
21 / 57
Ⅰ章「分身鳥の恋番」

side:小坂涼⑭大学編

しおりを挟む
<繁殖期>

 四月から通い始めた大学。世の中に急に出た緊張でとても疲れる。人が多くて怖い。

高校の時は同級生の中型分身鳥でも怖かったけれど、大学は本当に様々な分身鳥を持つ人が通っているからビクビクしてしまう。そして、皆がチラリと僕のピアスを見て分身鳥のアンクレットを見る。

「最高位の保護種だ」「初めて見た」「あれ、なんて鳥? 海外種? 知らないね」と囁く声が聞こえると、悪い事をしているわけじゃないのに逃げたくなる。

どうしていいか分からなくて、いつもルイの影に隠れる。ルイはそんな僕を優しく包み込んで、大丈夫だよって伝えてくれる。僕の気持ちが筒抜けみたいで、ちょっと恥ずかしい。

学部も学科もルイと同じ。一緒で安心する。周囲に声をかけられると、全部ルイが穏やかに対応してくれる。僕のタヒチヒタキは、ルイのオウギワシの足元に居ることが増えた。羽に包まれて温かそう。さすがに外ではオウギワシの頭に乗ることは控えている。


「涼、飲み物買ってくる。すぐ戻るね。座っていて」
わかった、と返事をして待つ。構内には学生の自由に過ごすスペースがいくつかある。高校の時と違って授業の空きがあるから時間を潰すのに大切な場所だ。履修授業がルイと同じだから、空き時間も一緒。座って待ちながら、周囲をそっと見る。

私服で大人っぽい人たち。高校と違う風景。

「珍しいね。一人?」

急に声をかけられて、驚いて見上げる。大型のオウムを肩に乗せた男性二人。一人のオウムは真っ白だ。

「いつもオウギワシの彼がついているから、可愛い小坂君に声がかけられなくて。よく怖くないね」
話しながら同じテーブルの椅子に座ってくる。

「あ、あの、ルイは怖くないよ」
僕のタヒチヒタキをじっと見つめる二鳥のほうが怖くて下を向く。僕の鳥も僕の首元にそっと寄り添ってくる。

「本当に可愛いね。小坂君の鳥は、海外種? 羽、どうしたの?」
「えっと、鳥はタヒチヒタキ。タヒチ島に生存する海外種。羽は、ちょっと事故で……」

「タヒチ島か。フランス領だよね。羽は生まれつきじゃないんだ。それは大変だったね」
にこやかに心配する言葉をかけられて、この人たち悪い人じゃないかも、と顔を上げる。そっと二人を見る。

「なんていうか、小坂君は中性的な魅力があるよね。引き寄せられる」

これ、女性を口説くようなセリフじゃないかな? もしかして、僕はナンパされているのかな? ちょっと考えてしまった。

「涼に何か用だった?」
飲み物を買って戻ったルイ。にっこり穏やかな顔をしているけれど、少し不機嫌。

「あぁ、良ければ友達になれたらと思ってさ」
オウムを肩に乗せた人が焦ったようにルイに言う。

「そうか。それなら、俺にも声をかけてよ。涼は俺の番鳥なんだ。横取りされるかと勘違いしたら、俺のオウギワシが衝動行為おこしちゃうだろ?」

ゆっくり優しく、とんでもない事を言う。オウギワシが番を守る衝動を起こしたら、例え殺人をしても許されてしまう。

大型オウムを乗せた二人が、顔をこわばらせて「そうだよな、ごめんな。それじゃ」と、立ち去っていくのを見送った。ふと、名前も聞いていない事に気が付いた。

「どうしよう。ルイ、彼らの名前も聞かなかった。友達になりたいって言ってくれたのに。失礼なことしちゃった」

「涼、あれはただのナンパだから」

「やっぱりそうなの? ちょっと女性に言うようなことを言うから、もしかしてって思ったんだ。あれが、ナンパかぁ。僕の両性ホルモンのせい?」

僕を見て、ひとつ溜息をついてルイが囁く。

「今日は、帰ろう。春は鳥の繁殖期だからね。ちゃんと涼にマーキングしなきゃ、だめだ」
マーキング? 何? 買って来たばかりの飲み物をそのまま手に持ち、ルイに促されるように大学を後にした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鳥籠の中の幸福

岩永みやび
BL
フィリは森の中で静かに暮らしていた。 戦争の最中である。外は危険で死がたくさん溢れている。十八歳になるフィリにそう教えてくれたのは、戦争孤児であったフィリを拾ってここまで育ててくれたジェイクであった。 騎士として戦場に赴くジェイクは、いつ死んでもおかしくはない。 平和とは程遠い世の中において、フィリの暮らす森だけは平穏だった。贅沢はできないが、フィリは日々の暮らしに満足していた。のんびり過ごして、たまに訪れるジェイクとの時間を楽しむ。 しかしそんなある日、ジェイクがフィリの前に両膝をついた。 「私は、この命をもってさえ償いきれないほどの罪を犯してしまった」 ジェイクによるこの告白を機に、フィリの人生は一変する。 ※全体的に暗い感じのお話です。無理と思ったら引き返してください。明るいハッピーエンドにはなりません。攻めの受けに対する愛がかなり歪んでいます。 年の差。攻め40歳×受け18歳。 不定期更新

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...