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Ⅰ章「分身鳥の恋番」
side:小坂涼⑭大学編
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<繁殖期>
四月から通い始めた大学。世の中に急に出た緊張でとても疲れる。人が多くて怖い。
高校の時は同級生の中型分身鳥でも怖かったけれど、大学は本当に様々な分身鳥を持つ人が通っているからビクビクしてしまう。そして、皆がチラリと僕のピアスを見て分身鳥のアンクレットを見る。
「最高位の保護種だ」「初めて見た」「あれ、なんて鳥? 海外種? 知らないね」と囁く声が聞こえると、悪い事をしているわけじゃないのに逃げたくなる。
どうしていいか分からなくて、いつもルイの影に隠れる。ルイはそんな僕を優しく包み込んで、大丈夫だよって伝えてくれる。僕の気持ちが筒抜けみたいで、ちょっと恥ずかしい。
学部も学科もルイと同じ。一緒で安心する。周囲に声をかけられると、全部ルイが穏やかに対応してくれる。僕のタヒチヒタキは、ルイのオウギワシの足元に居ることが増えた。羽に包まれて温かそう。さすがに外ではオウギワシの頭に乗ることは控えている。
「涼、飲み物買ってくる。すぐ戻るね。座っていて」
わかった、と返事をして待つ。構内には学生の自由に過ごすスペースがいくつかある。高校の時と違って授業の空きがあるから時間を潰すのに大切な場所だ。履修授業がルイと同じだから、空き時間も一緒。座って待ちながら、周囲をそっと見る。
私服で大人っぽい人たち。高校と違う風景。
「珍しいね。一人?」
急に声をかけられて、驚いて見上げる。大型のオウムを肩に乗せた男性二人。一人のオウムは真っ白だ。
「いつもオウギワシの彼がついているから、可愛い小坂君に声がかけられなくて。よく怖くないね」
話しながら同じテーブルの椅子に座ってくる。
「あ、あの、ルイは怖くないよ」
僕のタヒチヒタキをじっと見つめる二鳥のほうが怖くて下を向く。僕の鳥も僕の首元にそっと寄り添ってくる。
「本当に可愛いね。小坂君の鳥は、海外種? 羽、どうしたの?」
「えっと、鳥はタヒチヒタキ。タヒチ島に生存する海外種。羽は、ちょっと事故で……」
「タヒチ島か。フランス領だよね。羽は生まれつきじゃないんだ。それは大変だったね」
にこやかに心配する言葉をかけられて、この人たち悪い人じゃないかも、と顔を上げる。そっと二人を見る。
「なんていうか、小坂君は中性的な魅力があるよね。引き寄せられる」
これ、女性を口説くようなセリフじゃないかな? もしかして、僕はナンパされているのかな? ちょっと考えてしまった。
「涼に何か用だった?」
飲み物を買って戻ったルイ。にっこり穏やかな顔をしているけれど、少し不機嫌。
「あぁ、良ければ友達になれたらと思ってさ」
オウムを肩に乗せた人が焦ったようにルイに言う。
「そうか。それなら、俺にも声をかけてよ。涼は俺の番鳥なんだ。横取りされるかと勘違いしたら、俺のオウギワシが衝動行為おこしちゃうだろ?」
ゆっくり優しく、とんでもない事を言う。オウギワシが番を守る衝動を起こしたら、例え殺人をしても許されてしまう。
大型オウムを乗せた二人が、顔をこわばらせて「そうだよな、ごめんな。それじゃ」と、立ち去っていくのを見送った。ふと、名前も聞いていない事に気が付いた。
「どうしよう。ルイ、彼らの名前も聞かなかった。友達になりたいって言ってくれたのに。失礼なことしちゃった」
「涼、あれはただのナンパだから」
「やっぱりそうなの? ちょっと女性に言うようなことを言うから、もしかしてって思ったんだ。あれが、ナンパかぁ。僕の両性ホルモンのせい?」
僕を見て、ひとつ溜息をついてルイが囁く。
「今日は、帰ろう。春は鳥の繁殖期だからね。ちゃんと涼にマーキングしなきゃ、だめだ」
マーキング? 何? 買って来たばかりの飲み物をそのまま手に持ち、ルイに促されるように大学を後にした。
四月から通い始めた大学。世の中に急に出た緊張でとても疲れる。人が多くて怖い。
高校の時は同級生の中型分身鳥でも怖かったけれど、大学は本当に様々な分身鳥を持つ人が通っているからビクビクしてしまう。そして、皆がチラリと僕のピアスを見て分身鳥のアンクレットを見る。
「最高位の保護種だ」「初めて見た」「あれ、なんて鳥? 海外種? 知らないね」と囁く声が聞こえると、悪い事をしているわけじゃないのに逃げたくなる。
どうしていいか分からなくて、いつもルイの影に隠れる。ルイはそんな僕を優しく包み込んで、大丈夫だよって伝えてくれる。僕の気持ちが筒抜けみたいで、ちょっと恥ずかしい。
学部も学科もルイと同じ。一緒で安心する。周囲に声をかけられると、全部ルイが穏やかに対応してくれる。僕のタヒチヒタキは、ルイのオウギワシの足元に居ることが増えた。羽に包まれて温かそう。さすがに外ではオウギワシの頭に乗ることは控えている。
「涼、飲み物買ってくる。すぐ戻るね。座っていて」
わかった、と返事をして待つ。構内には学生の自由に過ごすスペースがいくつかある。高校の時と違って授業の空きがあるから時間を潰すのに大切な場所だ。履修授業がルイと同じだから、空き時間も一緒。座って待ちながら、周囲をそっと見る。
私服で大人っぽい人たち。高校と違う風景。
「珍しいね。一人?」
急に声をかけられて、驚いて見上げる。大型のオウムを肩に乗せた男性二人。一人のオウムは真っ白だ。
「いつもオウギワシの彼がついているから、可愛い小坂君に声がかけられなくて。よく怖くないね」
話しながら同じテーブルの椅子に座ってくる。
「あ、あの、ルイは怖くないよ」
僕のタヒチヒタキをじっと見つめる二鳥のほうが怖くて下を向く。僕の鳥も僕の首元にそっと寄り添ってくる。
「本当に可愛いね。小坂君の鳥は、海外種? 羽、どうしたの?」
「えっと、鳥はタヒチヒタキ。タヒチ島に生存する海外種。羽は、ちょっと事故で……」
「タヒチ島か。フランス領だよね。羽は生まれつきじゃないんだ。それは大変だったね」
にこやかに心配する言葉をかけられて、この人たち悪い人じゃないかも、と顔を上げる。そっと二人を見る。
「なんていうか、小坂君は中性的な魅力があるよね。引き寄せられる」
これ、女性を口説くようなセリフじゃないかな? もしかして、僕はナンパされているのかな? ちょっと考えてしまった。
「涼に何か用だった?」
飲み物を買って戻ったルイ。にっこり穏やかな顔をしているけれど、少し不機嫌。
「あぁ、良ければ友達になれたらと思ってさ」
オウムを肩に乗せた人が焦ったようにルイに言う。
「そうか。それなら、俺にも声をかけてよ。涼は俺の番鳥なんだ。横取りされるかと勘違いしたら、俺のオウギワシが衝動行為おこしちゃうだろ?」
ゆっくり優しく、とんでもない事を言う。オウギワシが番を守る衝動を起こしたら、例え殺人をしても許されてしまう。
大型オウムを乗せた二人が、顔をこわばらせて「そうだよな、ごめんな。それじゃ」と、立ち去っていくのを見送った。ふと、名前も聞いていない事に気が付いた。
「どうしよう。ルイ、彼らの名前も聞かなかった。友達になりたいって言ってくれたのに。失礼なことしちゃった」
「涼、あれはただのナンパだから」
「やっぱりそうなの? ちょっと女性に言うようなことを言うから、もしかしてって思ったんだ。あれが、ナンパかぁ。僕の両性ホルモンのせい?」
僕を見て、ひとつ溜息をついてルイが囁く。
「今日は、帰ろう。春は鳥の繁殖期だからね。ちゃんと涼にマーキングしなきゃ、だめだ」
マーキング? 何? 買って来たばかりの飲み物をそのまま手に持ち、ルイに促されるように大学を後にした。
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