北へ、とにかく北へ

甘茶一郎

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TOKYO

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「ナカザワ自殺だって。」

「マジで。」

「シマちゃんから今朝連絡きてさ。こっちも仕事中だったから、あとからちゃんと聞いたんだけど、首吊りらしいよ。」

竹田豊はゴアテックス素材のウィンドブレーカーのポケットから、iPhoneを取り出そうとしたが、出てきたのはクシャクシャのレシートとミントタブレットケースだった。

結局、ズボンの後ろポケットからiPhoneを取り出し、大学の後輩の福井にLINEをした。

「久しぶりー。元気?ナカザワ自殺したって本当?」

竹田は自分で書いた文面をみて、(なんか軽すぎるな、、)とは思ったが、この緊急事態に実感が湧かないのも本当のところだった。

しかも、目の前に大学の同期の唐沢がいて、ナカザワの自殺情報をくれているのに、なんだか変なことをしているなぁと思った。

「竹田はお通夜行く?こういうのっていくら包めばいんだっけ?」

スタバの本日のコーヒー(クリスマスブレンド)を飲んでいる唐沢は乾いた目で話しかけてきた。

(まだ本当かどうかわからないのに、なんて薄情な奴だ、、)と思ったが
目の前のマンゴーフラペチーノのクリームを早く食べなくちゃ溶けちゃうなとも思った。


(キティさんも、りんごちゃんも、ジャンバラヤもいる、みんなちゃんと来るんだなぁ。)

結局、ナカザワの死は本当だった。

唐沢とスタバにいる間に福井より先にシマちゃんからLINEが来た。『唐沢さんと会っていることと思いますが、ナカザワくんが昨日亡くなりました。お通夜は明後日、ナカザワくんの実家の近くの〇〇斎場で行われます。竹田さんも来られますか?』



斎場には懐かしい顔ぶれが並んでいた。

ナカザワと最近まで会っていた人間と竹田のように10年くらい連絡を取っていない人間との間に悲しみの温度差はあったと思うが、一応に皆神妙な顔をしていた。

竹田もナカザワとの蒼い思い出に、なんとも言えない気分になったが、それよりも列席者の顔ぶれが気になっていた。

キティさんは一つ上の学年で、キティちゃんに似ていてカワイイからだと本人は信じているが、顔面が横長で色白で目が離れていているということでそうなった。

りんごちゃんは、新入生歓迎会で集合場所のサークルの部室に登場した時に、ズボンの「おまた」の部分がピタピタすぎて、りんごの形になっていたからそうなった。

ジャンバラヤはデニーズでたまたまジャンバラヤを一度注文しただけでそうなった。

それぞれのアダ名の由来を思い出していた。すべて竹田がつけた愛着のあるアダ名だ。

みんなは俺と違って人の死にちゃんと向き合っているのかな。そんなわけないよー。多分俺みたいな感じなはず。でも本当か?

そもそも自分は人生に向き合ったことがないかも、、

モノクロの風が吹いた。



さっきまで小雨が降っていたはずなのに、外は目が痛くなるくらいお天気だった。

目の前でナカザワの親戚の子供が転んで泣いていた。
ツインテールを黒いリボンで結んだ女のこどもだった。

女のこども オンナノコモド コモド島行きたいと思った。
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