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夢戦 2003/4/14
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「全く。こんな能力があるなんて知ってたら、もの書きなんて職業選ばなかったのに」
溜息をひとつ。
司は、うんざりしたように周囲を見渡した。辺り一面血に染まり、それなのに不思議と死体らしきものは転がっていない。
「今更遅いよ。司ちゃんの本が読まれる以上、もう辞められないしね?」
「書くの止めたら飯の食い上げだしな」
司同様に血の海に立ち尽くす二人の少年を、司は軽く睨みつけた。そしてふいと視線を逸らし、軽く溜息をつく。
「夢の案内人って言ったら獏なのに、どうして狐と猫なんだよ」
「知らない」
期せずして答えの声が重なった。
司は、そんな二人を面白そうに見やってから、右腕を一振りした。何もなかったはずの空間から、一振りの日本刀が出現する。
慣れた手つきで軽々と抜き身の刀を下げ持って、もう一度周囲を見渡す。そうしていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「やっと来たね」
「なあ司、今日は簡単そうだから、俺、先に帰って寝てていい?」
「夾。よくもまあそんなことが言えるな? 人がこうやって無料奉仕してるってのに」
「俺だって無料奉仕だろーが」
「でもずるい。よって却下」
「ひでえ!」
司と夾がそんなやり取りをしている間にも、悲鳴は近づいてくる。今では、少年が映画の「エイリアン」に出てくるような怪物に追われているのが視認できる。
少年は、すがるようにして、必死に司たちの元へ駆けて来る。その様子を見て司は肩をすくめると、特に気負いもなく淡々と、少年に向かって歩を進めた。
「颯、弱点」
「特になし」
「はあ?」
思いきり不服そうに、司は声を漏らした。しかし足を緩めることもなく進み、少年は無視して怪物と向き合った。
少年の方は、夾が保護している。その近くで颯が、少し面白がるように首を傾げ、怪物を見ていた。
「こんなの出した覚えないんだけどなー?」
今にも襲い掛かってきそうな怪物を前に、呑気に呟く。その呟きを耳にした颯が、一瞬考えるように視線をさまよわせ、手を打った。
「無限華だよ。最後の方に出てきた獏の慣れの果てが、これじゃない?」
「えー。もっとこう、かわいいの考えてたんだけどな」
「いや、こんなもんだろ。ってか、司のかわいいって定義がわからん」
「夾もかわいいよ?」
笑いを含んだ返答に、夾が憮然とし、颯が笑いを堪えるように口元に手をやる。
「さて、冗談はこのくらいか」
急激に、司を取り巻く空気が変わる。一気に気温が下がったかのようだった。
冷たい空気に、何度もそれを目撃しているはずの颯爽や夾までが、思わず息を呑む。夾の傍に逃げ込んだ少年は、力いっぱい身を縮めた。
無造作に、提げていた刀を構える。飽くまで片手で、斜めに怪物に向き合う。
そして流れるように、刀を動かして怪物を切り刻んでいく。その際の返り血も、気にする素振りは見せなかった。代わりかのように、安全圏に居る少年が幾度も体を強張らせていた。
最後に、怪物が燃え上がった。
「…さいころステーキ?」
その一言と共に空気が緩み、気温を取り戻す。
今や夾は腹を抱えて笑い転げ、颯も堪え切れずに噴出している。少年一人、呆気に取られていた。
そんな少年に、司が歩み寄る。
返り血を盛大に浴びた姿に反射的に体を強張らせた少年だったが、あやすような優しい笑みに、思わず見惚れた。
「また随分と、若返ったな?」
「…え?」
わけがわからず訊き返した少年に、司は小さく肩をすくめて応じた。少年に向かって、右手を伸ばす。いつの間にか、その手からは刀が消えていた。
「本にのめりこむのもほどほどに。特に、夢幻彼方の本はね」
司は、掌で少年の目を覆った。
溜息をひとつ。
司は、うんざりしたように周囲を見渡した。辺り一面血に染まり、それなのに不思議と死体らしきものは転がっていない。
「今更遅いよ。司ちゃんの本が読まれる以上、もう辞められないしね?」
「書くの止めたら飯の食い上げだしな」
司同様に血の海に立ち尽くす二人の少年を、司は軽く睨みつけた。そしてふいと視線を逸らし、軽く溜息をつく。
「夢の案内人って言ったら獏なのに、どうして狐と猫なんだよ」
「知らない」
期せずして答えの声が重なった。
司は、そんな二人を面白そうに見やってから、右腕を一振りした。何もなかったはずの空間から、一振りの日本刀が出現する。
慣れた手つきで軽々と抜き身の刀を下げ持って、もう一度周囲を見渡す。そうしていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「やっと来たね」
「なあ司、今日は簡単そうだから、俺、先に帰って寝てていい?」
「夾。よくもまあそんなことが言えるな? 人がこうやって無料奉仕してるってのに」
「俺だって無料奉仕だろーが」
「でもずるい。よって却下」
「ひでえ!」
司と夾がそんなやり取りをしている間にも、悲鳴は近づいてくる。今では、少年が映画の「エイリアン」に出てくるような怪物に追われているのが視認できる。
少年は、すがるようにして、必死に司たちの元へ駆けて来る。その様子を見て司は肩をすくめると、特に気負いもなく淡々と、少年に向かって歩を進めた。
「颯、弱点」
「特になし」
「はあ?」
思いきり不服そうに、司は声を漏らした。しかし足を緩めることもなく進み、少年は無視して怪物と向き合った。
少年の方は、夾が保護している。その近くで颯が、少し面白がるように首を傾げ、怪物を見ていた。
「こんなの出した覚えないんだけどなー?」
今にも襲い掛かってきそうな怪物を前に、呑気に呟く。その呟きを耳にした颯が、一瞬考えるように視線をさまよわせ、手を打った。
「無限華だよ。最後の方に出てきた獏の慣れの果てが、これじゃない?」
「えー。もっとこう、かわいいの考えてたんだけどな」
「いや、こんなもんだろ。ってか、司のかわいいって定義がわからん」
「夾もかわいいよ?」
笑いを含んだ返答に、夾が憮然とし、颯が笑いを堪えるように口元に手をやる。
「さて、冗談はこのくらいか」
急激に、司を取り巻く空気が変わる。一気に気温が下がったかのようだった。
冷たい空気に、何度もそれを目撃しているはずの颯爽や夾までが、思わず息を呑む。夾の傍に逃げ込んだ少年は、力いっぱい身を縮めた。
無造作に、提げていた刀を構える。飽くまで片手で、斜めに怪物に向き合う。
そして流れるように、刀を動かして怪物を切り刻んでいく。その際の返り血も、気にする素振りは見せなかった。代わりかのように、安全圏に居る少年が幾度も体を強張らせていた。
最後に、怪物が燃え上がった。
「…さいころステーキ?」
その一言と共に空気が緩み、気温を取り戻す。
今や夾は腹を抱えて笑い転げ、颯も堪え切れずに噴出している。少年一人、呆気に取られていた。
そんな少年に、司が歩み寄る。
返り血を盛大に浴びた姿に反射的に体を強張らせた少年だったが、あやすような優しい笑みに、思わず見惚れた。
「また随分と、若返ったな?」
「…え?」
わけがわからず訊き返した少年に、司は小さく肩をすくめて応じた。少年に向かって、右手を伸ばす。いつの間にか、その手からは刀が消えていた。
「本にのめりこむのもほどほどに。特に、夢幻彼方の本はね」
司は、掌で少年の目を覆った。
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