桜花の道理

来条恵夢

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短編 ――過去――

迷い子1

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 利根川成一トネガワセイイチの家庭事情は、多少込み入っている。充分に漫画の主役を張れる、と友人に言われたことがある。
 まず、成一は利根川家の三男で、女きょうだいはいない。ちなみに、兄二人の名は総一ソウイチ優一ユウイチだ。命名者は父の勝利カツトシ。二代に渡って、なんとも凄い感覚をしていると、成一は思う。
 そんな父は、「一番」が好きだった。
 だが、体力の優れた総一と学力の優れた優一に比べ、成一は、器用貧乏だった。そして何より、やたらとのんびりとした性格から、父とは合わなかった。
 家を出たのは、小学校卒業の少し前。
 高熱で受けた小学校で最後のテストが、散々な点だった。それまでの成績からして、同じ付属の中学校に進学する事は出来たはずだった。だが、このときに色々と言われ、成一は公立の中学校へ行くことを決心した。
 当然のように父に反対され、母方の祖父母のところへ転がり込んだ。家事の手伝いや自営業の文具屋を手伝う事で、学費その他を出してもらった。
 高校に行くつもりはなかったのだが、祖父母の願いもあり、やはり公立の高校に通う事になった。大学のときにもそういった運びになり、成一は、高校に通うと同時に詰め込むように始めたバイトの傍ら、勉強に励む事になった。
 大学入学後、それまで以上にバイトをするようになった成一は、卒業後もその生活を続けていた。
 そんな成一が、奇妙な友人にはじめて出会ったのは、中学校に入ってすぐだった。
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