回りくどい帰結

来条恵夢

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会合

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「お帰りなさーい」

 入口からの目隠しの衝立ついたて越しに笹倉がのんびりと声を上げて、山本がちらりと顔をのぞかせて会釈するように頭を下げる。葉月ハヅキは、何かを口に入れていたのか、ややあってから「おかえりー」と声がした。
 三人で、来客スペースで昼食を広げていたようだ。よく見る光景だ。匂いがこもるのを避けるためだろう、窓が開いていて、時折冷たい風が吹く。

「ただいまー。俺あてに連絡なかった?」
「虹橋さんからなら、机に添付の資料一式置いてます」
「ついでに電話するって言ってたんだけど…あ。かかって来てた」
河東カトウ

 そのまま仕事に切り替えそうなアキラに小さく声をかけて、雪季セッキは、自分の机の下に置いていた紙袋を持ち上げて見せる。軽くうなずいて、個室になっている、応接室の扉に手をかけた。

「話あるから雪季も来て」
「はい」

 山本の視線を感じながら、紙袋を持ったまま応接室に入る。紙袋には、着替え一式と消毒液が入っている。

「着替えるくらい別にいいんだけど、そこまでの用心、いる?」
「必要ないとは思うし、この程度では用心にもならないかも知れないが、念のため。…悪かったな、面倒なことを頼んで」

 それぞれのてのひらに消毒液を落とす。ジェルになっているので、一通り塗り広げてからティッシュでぬぐう。すでに一度水洗いはしているが、これも念のためだ。ついでに、先ほど触った携帯端末も借りてく。

「そのへんは別にいいんだけど、俺としては、そんな面倒って認識してることをわざわざ頼んできた理由の方が知りたい。後輩みたいなもんだからってほだされた? それとも、罪悪感? 勝手な勘違いなのに」

 着替えをローテーブルに広げ、代わりに、脱いでいく服を受け取って紙袋に仕舞っていく。丸ごと、以前からの知り合いのクリーニング店行きだ。
 脱ぐごとに、消毒を繰り返す。

「…後ろ暗いところに関わらず生きていくことを望んでいて、そうしていけるならその方がいいと思ったんだ。巻き込んで悪かった。仕事になるなら、依頼人は俺にしてくれ。費用は払う」
「だからそういうのはいいって。雪季は、あー…前の仕事、やってたこと後悔してる?」

 わざわざそうする必要など何一つなかった。当面、困窮することもなく様々な未来を選べたはずだった。それでも、雪季はえらび取った。

「…後悔、するべきなんだろうな」
「なんで?」

 脱いだシャツを差し出した英は、無表情に雪季を見た。受け取り、わずかに目をらす。

「人なんて、どれだけ長生きしたってせいぜい百年程度で死ぬんだし、そこまで気にする必要もないんじゃないか? 後悔しようがしなかろうが、もう終わってるんだからどうにもならないんだしさ」
「…お前が持ち出したんだろ」
「俺は知りたいだけだから。どっちでもいいと思うよ? ただ、後悔に引っ張られてあの子の面倒を見ようとするなら面白くないなーって思っただけ。違うなら別にいい」

 なんだそれは、と思うが、聞いたところで雪季にはわからないだろう。
 着替え終えた英は、無表情なままに雪季を見遣った。

「あの子は多分俺の同類だし、あんまり雪季が心配してやることもないと思うけど」
「…同類?」
「うん。雪季、結構そういうのに好かれるよな。俺のことより、自分の心配した方がいいって」
「…それは。俺も同類だから、か…?」

 一度首を傾げ、英は無造作にソファーの背もたれに腰かけた。見透かしたような感情のうかがえない眼は、雪季にえられたままだ。
 雪季は、半ば反射的に、抱えた紙袋を強く握ってしまう。

「いやー? 天然と養殖ものくらいに違うっていうか、先天性と後天性の違いっていうか。一緒ではないと思う」
「…ブレーキが壊れてる、とは言われたことがある…」
「あー。うん、そういう感じ。俺はほら、ブレーキないって言うか、どうにかブレーキらしきもの持って来て据え付けてるっていうか。雪季は、壊れても元々はちゃんとしたのがあっただろ。それって結構大きな違い」

 似たようなことを言われたな、と、雪季は思い出す。進士シンジだ。いつだったか、進士に似たようなことを言われた。
 本当にそうだろうかと、ひどく心許こころもとないような気分になる。人は群れる生き物だという言葉を思い出す。
 ややあって英は、首を傾げた。

「着替え、雪季はいいのか? 上着脱いだだけだろ。俺のは靴下まで用意してたのに」
「ああ…そもそも、ただの用心だし」
「人の身ぐるみ剥いどいてそういうこと言うか」
「昼飯どうする」

 やや恨みがましいような視線を無視して、紙袋を抱え直す。考えるのは後で、と頭の隅に追いやる。

「どうするって?」
「長引くかと思ったけどそうでもなかったから、時間に余裕がある。店寄って軽く食べるくらいなら。虹橋さんの資料、移動中で大丈夫だろ?」

 三十分とは言ったが素直に従うかどうかはわからず、午後の予定は余裕を取ってはいたが、昼食には移動中でも摂れるようつまめるようなものを用意していた。おにぎりとサンドウィッチと、あとは唐揚げと玉子焼きとミニトマトで、要は簡単なお弁当だ。ラップやピックを使って、直接は触れずに食べられるようにしてある。
 移動中に資料を読むならさすがに今回は運転を譲るだろうと、待ち合わせ場所へのルートをざっと思い浮かべる。
 そう言えば虹橋への折り返しの連絡をまだしていないな、と、返事の遅さとともに気付いて英を見遣ると、先ほどよりもずっとはっきりと、いじけたような目で見返された。

「…何だ」
「雪季のご飯があるのに他食べたいとか言うわけないだろ。気がくのに、なんでそういうとこスルーなんだよ」
「…温かいものの方が嬉しくないか?」
「…雪季一人で食べに行けば?」

 何故か半ば睨み付けられ、雪季は首を傾げた。
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