夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、事態は混迷する

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 待てと、言いたかったのだろう。ところが、男たちの車のすぐ前に銀色の車が滑り込み、そちらを凝視する。駆け出そうとしていた私の足も止まった。
 紙が数枚通せるだけの空間を空けて止まった車の運転席には、見慣れた顔がある。

ヒビキ。どうしてここに?」
「迎えに来いと言っただろう」
「ああ、そこを切り抜いてくれたの。ありがとう」

 迎えるために、場所を探って来てくれたのだろう。安堵して、笑いかけていた。
 響に私を守る義務はなく、むしろ早く死ぬことをこそ望んでいるのだろうから、放置されることが当然と思っていた。だからか、やけに嬉しい。
 早速後部座席に座ろうとして、ポケットの車の鍵に気づき、ぽかんとこちらを見る青年めがけて放り投げた。
 上手く窓から入り、青年は、咄嗟に手を伸ばして受け止めたものの、鍵の先端が当たりでもしたのか、うめいて突っ伏してしまう。

「すみません、私も用事があるので失礼しますね。響、…何してるの?」

 見やった運転席では、ナイフを持って飛びかかろうとしていたらしい、後ろの車の運転席にいたはずの男が、響の開け放ったドアにぶつかり、もんどりうって道路に転がっている。
 車道で危ないなあと見ていると、さすがに気付いたのか、男はどうにか立ち上がると、車によりかかった。

「響?」
「向こうが来たんだ」
「そうだろうとは思うけど、どうしてこうなったのか、わかる? あ、まだ車は出さないでね」

 個人的に恨みを買っているとなれば、中途半端に放置するのは厄介だ。私がまた狙われることもだけど、それは響を巻き込むということでもある。
 悪魔である響がどのくらい人間らしいのかは知らないけれど、ナイフで刺されても痛みも感じないということはないだろう。家でたまに、頭や足をぶつけて顔をしかめている。
 自分の車にぐったりと寄りかかる男に、弟分なのか実の弟なのか、二十歳前後の青年が車を回り込んでおろおろと近付く。
 つい、溜息をついて私も回り込んで歩み寄る。ナイフは車道に落ちたままだから、捕まらなければ大丈夫だろう。今は、響もいる。

「怪我はありませんか?」
「く、車っ、電話っ、110番!」
「救急車なら119番ですけど。パトカーを呼んでしまっていいんですか?」
「え。あ。ちがっ、兄貴が死ぬ!」
「………勝手に殺すな」

 どうしようコントだ、という感想は、苦笑の下にしまっておく。憎めない人たちだと思っていると、男に、ぎろりと睨まれた。生真面目な表情を作る。
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