夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、手がかりは語られる

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 溜息が、白く曇る。
 カバンに入れておいた、壊してしまいそうに思えるくらい薄い携帯端末を取り出す。何かのときにと、ヒビキに借りたものだ。
 仕事用のものではないから、登録されているのは個人名がほとんど。女の人が多いと、苦笑をこぼす。
 誰とどう付き合おうと、私がどうこう言えるものではない。本当に、愛人だのヒモだのと言い立てる人たちの目は節穴だとしみじみと思ってしまう。
 着信履歴を見ると何件か、私が借り受けてからのものがある。かばんに入れたまま、着信音を切っていたせいで気付かずにいた。
 急ぎはかかってこないと断言していたけれど、女性の名前ばかりずらりと並ぶと、放っておいていいのかと少し気にかかる。
 その中にぽつんと、登録されていない番号があった。着信の長さもそこそこある。

「…かけてきてくれたのかな」

 誘拐に失敗した二人組を思い浮かべる。楽しそうな人たちだった。後で、かけてみようと決める。この長さなら、ワン切りの悪質業者ということはないだろう。
 メール表示に切り替えても、未読はない。
 今までのメールも全て響からのものだけど、誰にもアドレスを教えていないのかたまに私が借りるために小まめに消しているのかまではわからない。電話番号だけでもメールは送れるはずだから、消しているという方が可能性は高いかもしれない。
 どちらにしても、響の私生活にまで立ち入るつもりはないのだから、盗み読みの誘惑に誘われないで済むのは助かる。

「待たせたな。ん? ケータイ持ってるなら教えてくれよ」
「秘書から臨時に借りているんです。私は持ってません」

 わざわざ作らせたのか、差し出された生クリームのトッピングされたホットココアのカップを礼を言って受け取り、携帯端末は元通り小型のバッグに仕舞う。
 ハンカチや簡単な化粧品程度しか入らないようなこの種のバッグは、ポケットのないことが多いドレスの外付けポケットと、装飾用の小道具をねるらしい。
 秋山アキヤマ先輩は、残念、と爽やかに言い置いて椅子に座りなおす。

「秘書ってどんな奴?」
「うーん。人間離れした働き者、ですかね。おかげで助かってます」
「いやそういう…いいや。行方不明の奴らの話な」

 自分で振っておきながら流して、秋山先輩は、断ってから私に貸してくれたジャケットから小さな手帳を引っ張り出した。
 見てみれば生徒手帳で、黒のズボンとシャツの秋山先輩の格好だけならともかく、この場所とはどうにも合わない。

手許てもとにこれしかなかったんだ。笑うな」
「あれ、笑ってました?」

 誤魔化そうと笑みを重ねると、秋山先輩は軽く睨みつけながらも手帳に視線を戻した。
 ざっと少女らの当日の行動をまとめてくれたのだけど、今見える共通点といえば、ただ、生徒会のバレンタイン企画の準備に参加したということくらい。
 作業場所が分かれていたこともあって、全員が顔見知りでさえない可能性どころか昨日に限れば同じ場所に同時に居合わせたことすらなかったかも知れない。
 それぞれの家の場所も通学路もバラバラなので、揃って下校したということも考えづらい。バレンタイン企画の準備で仲良くなって寄り道したとしても、それならそれで、そういった証言も出そうなものだ。
 女子高生だけが八人もいれば、大人数とは言えなくてもそれなりに目立つ。
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