夜明けの晩

来条恵夢

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そうして、手がかりは語られる

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 盛大な溜息の後で、恨みがましく睨みつけられる。
 反応に困っていると、息を吐き出して軽く前かがみになった梨木ナシキ刑事は、そのまま、上着の内ポケットから黒い手帳を取り出して開いた。

「脅迫の電話や手紙の類は、今に至るまで皆無だ。そんなこたぁ、理事長なら聞いてるだろうがな」

 意外にもあっさり開いてくれた貝の口に、否やを挟む必要もない。頷きだけ返して先を促した。かばんを開けて、こちらも手帳を開く。
 行方不明の生徒らの親の職業、今日生徒会室に集まっていた生徒らからの評判、日頃の素行などが簡潔に並べ立てられていく。記憶はヒビキが完璧にしてくれるだろうから、印象や思ったことを書き留めておく。
 行方が知れなくなるまでの学校での足取りも読み上げられ、明日、秋山アキヤマ先輩のものと合わせれば裏が取れる。
 ここまで聞いて、見かけから受ける印象よりも几帳面で要点を得ている梨木刑事の能力に感心していた。
 ずいぶんと有能のような気がするけれど、テレビでドラマで見る刑事たちのように第一線で活躍したりはしないのだろうか。

「以上だ」
「ありがとうございます」
「次はそっちだ。こういったことをやりそうな心当たりは」

 半ば本気で、驚いて瞬きを繰り返す。

羽山成ハヤマナリか私に対しての嫌がらせでの集団誘拐だとのお考えですか?」
「いいから答えろ」

 響を見て、肩をすくめる。優秀な秘書は、音もたてずに部屋を出た。すぐに、力任せに何かやらかしかねない連中の一覧を持って戻って来るだろう。

「確かに、偶然にしては不自然だと思います」
「意見なんか聞いてねえ」
「今のところ私が知っている共通点は、生徒会企画のバレンタインイベントに関わって休日返上で登校していたということくらいです。先ほど仰っていましたけど、下校時間はほぼ同じですが、それは既定の下校時間を過ぎたからですし。同じ原因で行方不明になっているとしたら、生徒たちへの個人的な恨みというよりも、学園や羽山成に対してのものと取る方が納得できますね。事故や個人的な恨み、本人たちの自由意思でたまたまこの日に集中したというには、八人は多すぎる」

 そんなことは聞いてない、という声を無視して、秋山先輩と軽く話したことをなぞるように、それまで考えていたことに梨木刑事から聞いた話を織り込む。
 営利誘拐か欲望に任せたものか、あるいは悪評目的か、現時点ではまだ判別がつかない。
 響が用意してくれた紅茶はすっかり冷めてしまったけど、飲み干し、軽く腕を組む。苛立ちを押し込めている梨木刑事は、一瞥したものの放置しておく。
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