夜明けの晩

来条恵夢

文字の大きさ
39 / 67
そうして、新たな事件が起こる

1

しおりを挟む
 誘拐や誘拐未遂の体験はこれまでにもあるが、二日で二回というのはさすがに記録的だ。

小夜子サヨコちゃん、寒くない?」
「…よく、落ち着いていられるわね」
「騒いで狼狽うろたえてどうにかなるなら、喜んでそうするんだけどね」

 深々とため息をく。本当に、できることなら取り乱して泣き伏していたいところだ。それですべてが解決するのなら、いくらだって。
 私と小夜子ちゃんは背中合わせに両手を縛られ、それぞれの両足も縛られて倉庫のようなところに監禁されている。おまけに、脳裏からは、血を流して倒れている秋山アキヤマ先輩の姿が消えてくれない。

 事は、数時間前にさかのぼる。

 入試の日ではあるけれど、梨園リエン学園において受験者及び合格者が多いのは幼等部と初等部、大学部。
 このうち、大学は受験日程が違うのでそもそも関係がない。
 中等部と高等部は若干名しかとらないため、試験はまとめて初等部の片隅で行われ、中高は午前中までとはいえ通常授業。部活も、ほとんどが通常通りに行われる。
 だから、授業を終えると昨夜約束した通りに秋山先輩と失踪した生徒の行動をたどっていた。生徒会企画は、さすがにちょっと様子を見合わせているらしい。

『つまり、行方不明の八人全員に確実に共通しているのは、チョコレート食品の試食を少なくとも一度は試した、ということ、ですかね?』

 三人分は実際に移動した経路を歩き、残りは文字で書きだして一覧にして。だけど、秋山先輩の顔は渋い。

『でもなあ。そんなの、企画の関係で登校したほとんどの生徒がやったことだぜ? 部活や別の用事で来て、匂いに惹かれたり誘われたりで試食して行った奴も多い。それじゃあ、企画絡みで登校した、って共通点とほとんど同じじゃないか?』
『うーん。たまたま同じものを食べてる、とかは? アンケート取ったから、誰が何食べたかはわかってるんですよね?』
『全員、まめに全部書いてくれてたらだけどな。結構たっぷりあったから、何個も好きに飲み食いしてたし』

 渋い顔のまま、それでも、選り分けていた八人の分のアンケート用紙を並べる。

『…ああこれ。カカワトルは被ってるな』
『カカワトル?』
『カカオの水って意味らしい。チョコレートが今の形になる前の、まあ、甘くない飲み物だ。そうそう、面白いから少しもらってたんだ、飲むか?』
『何してるんですか。飲みますけど』 

 原形よりは大分飲みやすく整えられていそうなカカワトルは、スパイシーな、匂いこそチョコレートではあるけれど、どちらかと言えば珈琲のスープを連想した。
 でも、さすがと言うべきか、美味しい。

『これもなあ。共通はしてるかもだけど、この八人だけが飲んだってわけでもないだろうしなあ。俺も飲んだし。ムースも被ってるな。オムレット…は、全員じゃないか』
『というか、それを決め手にされたら、確実に犯人が試食コーナー絡みかアンケートに目を通せる人ってことになっちゃいますね。ちなみに、アンケートの結果を見られたのは?』
『とりあえず集めるだけ集めて、生徒会室に置いてたんじゃなかったかな』
『…もう、犯人秋山先輩ってことにしときませんか。今なら、皆を無事に帰してくれたら手を尽くして有耶無耶にしますから』
『俺も、やれるもんならそうしてやりたいとこだけどな』

 結局、それぞれ溜息を落として終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...