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そうして、犯人は決まる
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響は、痛みに泣きわめく高成叔父の腕をつかんだ。
まるで力を入れていないかのように引っ張ると、人形の腕のようにあっさりと、だけどそれではありえない血肉を振り巻いて、片腕が引き抜かれた。次いで、反対の腕も。順に、両足も続く。
獣めいた悲鳴が上がったけど、私が眉をひそめたくらいで、響は動じない。悲鳴もだけど、匂いがひどい。
「先に全部骨折させるとかしなかっただけ、ましなんですけどね。って、聞こえてないか」
私の呟くような言葉の間にも、響は、高成叔父の眼をえぐり出している。もう、悲鳴も上がらない。
「そのくらいでいいよ、響」
「…わかった」
短い応答に、血だらけの手が引き上げられた。
赤く濡れた手を高成叔父の夜着で拭うと、抜き出した目玉と引き抜いた両手足を無造作に元の位置に戻す。戻した部分を軽く撫でただけで、流れ出した血液だけはそのままに、肉体が元に戻る。
高成叔父は声も出せずに、大量の冷や汗をかきながら響を見ていた。
「へえ。まだ意識を保っていられるなんて、叔父様は案外お強いんですね。知りませんでした」
恐怖に染まった視線を受け、冷ややかに笑んで見せる。
「今回は忠告です。二度目はありません。次は戻しませんのでよくお考えになってくださいね、高成叔父様」
結構血が流れているので、しばらくつらいかもしれない。ショック死しなかったのは運が良かったのだろう。輸血してもらった方がいいのだろうけれど、そこまで親切にする気にはなれない。
響に視線を向けると、軽くうなずき、高成叔父の頭を掴んで無理矢理に眼を合わせた。
「眠れ」
短いその言葉だけで、高成叔父の頭が沈む。自分の血で濡れた床に倒れ込み、寝息を立てている。
さて、目覚めたらどうするだろう。血痕は残っていても、自分の身に起きたことが現実と理解できるだろうか。理解したところで、血痕以外の証拠は、せいぜいが一時この邸の防犯設備が止められていたことくらいしかない。
誰に訴えても信じてはもらえないだろう。
「帰るか?」
「うん」
ごめんもありがとうも言い損ねて、ただ頷く。
伸ばされた手を取り、片腕で抱き上げられ素直に体重を預ける。響はバルコニーに出るとそのまま、一気に敷地外まで跳び下りた。邸から塀までは、子どもならかけっこをするくらいの距離は十分にあるのに。
「…っぅ」
着地しても、しがみついた腕の力が抜けない。
「急降下が気持ち悪い…」
呻いている間に、そっと地面に立たされていた。こういうところは丁寧なのに、ついさっきの大雑把さは何だろう。
ついでに言えば、手に残る高成叔父を刺した時の感覚で気分が悪い。
あんなもの、本当は必要がない。響にすべて任せてしまったところで何ら問題はなく、むしろ、私が手を出す分だけ余計な時間と手間がかかっている。
わかってはいるけれど、それではすべてを響に擦り付けるようで納得がいかなかった。もちろん、ただの自己満足なのだけれど。
短刀は、帰ったら手入れをしないと錆びついてしまうだろう。
「殺せば簡単だろう」
「あまりあっさりといなくなられても。響にこんなことを言うのも変かもしれないけど、死後の世界があるとは思えないから。あの人が母たちを殺したのでないとしても、似たようなものでしょう。せいぜいたっぷりと苦しんでもらわないと。あー、お腹空いた」
「…さっき山ほど食べただろう」
「そう? あ、ラーメン屋さん。まだやってるよ、財布も持って来てるし」
支えてくれていた響の手を抜けて、隣に並ぶ。相変わらず背が高くて、顔を見ようとすると見上げなくてはならない。今は、それに少し助けられる。
街灯に照らし出された住宅地を抜けて、それでもまだ路地裏で煌々と灯りに照らし出される看板を目指す。
まるで力を入れていないかのように引っ張ると、人形の腕のようにあっさりと、だけどそれではありえない血肉を振り巻いて、片腕が引き抜かれた。次いで、反対の腕も。順に、両足も続く。
獣めいた悲鳴が上がったけど、私が眉をひそめたくらいで、響は動じない。悲鳴もだけど、匂いがひどい。
「先に全部骨折させるとかしなかっただけ、ましなんですけどね。って、聞こえてないか」
私の呟くような言葉の間にも、響は、高成叔父の眼をえぐり出している。もう、悲鳴も上がらない。
「そのくらいでいいよ、響」
「…わかった」
短い応答に、血だらけの手が引き上げられた。
赤く濡れた手を高成叔父の夜着で拭うと、抜き出した目玉と引き抜いた両手足を無造作に元の位置に戻す。戻した部分を軽く撫でただけで、流れ出した血液だけはそのままに、肉体が元に戻る。
高成叔父は声も出せずに、大量の冷や汗をかきながら響を見ていた。
「へえ。まだ意識を保っていられるなんて、叔父様は案外お強いんですね。知りませんでした」
恐怖に染まった視線を受け、冷ややかに笑んで見せる。
「今回は忠告です。二度目はありません。次は戻しませんのでよくお考えになってくださいね、高成叔父様」
結構血が流れているので、しばらくつらいかもしれない。ショック死しなかったのは運が良かったのだろう。輸血してもらった方がいいのだろうけれど、そこまで親切にする気にはなれない。
響に視線を向けると、軽くうなずき、高成叔父の頭を掴んで無理矢理に眼を合わせた。
「眠れ」
短いその言葉だけで、高成叔父の頭が沈む。自分の血で濡れた床に倒れ込み、寝息を立てている。
さて、目覚めたらどうするだろう。血痕は残っていても、自分の身に起きたことが現実と理解できるだろうか。理解したところで、血痕以外の証拠は、せいぜいが一時この邸の防犯設備が止められていたことくらいしかない。
誰に訴えても信じてはもらえないだろう。
「帰るか?」
「うん」
ごめんもありがとうも言い損ねて、ただ頷く。
伸ばされた手を取り、片腕で抱き上げられ素直に体重を預ける。響はバルコニーに出るとそのまま、一気に敷地外まで跳び下りた。邸から塀までは、子どもならかけっこをするくらいの距離は十分にあるのに。
「…っぅ」
着地しても、しがみついた腕の力が抜けない。
「急降下が気持ち悪い…」
呻いている間に、そっと地面に立たされていた。こういうところは丁寧なのに、ついさっきの大雑把さは何だろう。
ついでに言えば、手に残る高成叔父を刺した時の感覚で気分が悪い。
あんなもの、本当は必要がない。響にすべて任せてしまったところで何ら問題はなく、むしろ、私が手を出す分だけ余計な時間と手間がかかっている。
わかってはいるけれど、それではすべてを響に擦り付けるようで納得がいかなかった。もちろん、ただの自己満足なのだけれど。
短刀は、帰ったら手入れをしないと錆びついてしまうだろう。
「殺せば簡単だろう」
「あまりあっさりといなくなられても。響にこんなことを言うのも変かもしれないけど、死後の世界があるとは思えないから。あの人が母たちを殺したのでないとしても、似たようなものでしょう。せいぜいたっぷりと苦しんでもらわないと。あー、お腹空いた」
「…さっき山ほど食べただろう」
「そう? あ、ラーメン屋さん。まだやってるよ、財布も持って来てるし」
支えてくれていた響の手を抜けて、隣に並ぶ。相変わらず背が高くて、顔を見ようとすると見上げなくてはならない。今は、それに少し助けられる。
街灯に照らし出された住宅地を抜けて、それでもまだ路地裏で煌々と灯りに照らし出される看板を目指す。
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