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手コキ

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 オフィスリニューアルのプロジェクトメンバーに選ばれたあきらは、打ち合わせ場所である会議室に向かった。通常業務だけでも忙しいのに、プロジェクトなんて正直面倒くささしかない。
 施工業者の営業と打ち合わせを重ねてきたが、今日は設計部の人間を連れてくるという。営業の森脇の横に立っている四谷という男が、その設計職だろう。

「佐久間と申します」
と名刺を差し出すと、まじまじと顔を見られた。自分の見た目がいいのは自覚している。初対面の相手がこういう反応を見せるのは珍しいことじゃない。だから、まさか四谷が瑛のことをゲイビ男優のエイジだと知ってびっくりしているなんて、その時は思ってもみなかったのだ。





 その後、二人はカフェを出て、近くのビジネスホテルに入った。
 諸々の段取りは瞳に任せたので、クソみたいなところだったらキレて帰ろうと思っていた瑛だったが、部屋は狭いながらも清潔感のあるツインルームだった。
 瑛はベッドの縁に腰を下ろし、瞳を見上げる。

「いつでもいいよ」

 瑛が言うと、瞳はあわあわと後退る。

「どこ行くんだよ」
「あ、あの、シャワー……」
「いいよ、面倒くさい」

 瑛としては、さっさと終わらせたかったのだが、瞳は、はあっ?! と逆ギレのような声を上げた。

「だめですよ! 汚いちんちん触らせられないでしょ! 俺、すぐ浴びてくるんで!!」

 すぐと言いながら、瞳はなかなか戻ってこなかった。
 二十分ほどしてからようやくバスルームのドアが開く音がして、瑛はうんざりした顔を上げた。

「……なんで髪の毛までびちゃびちゃなんだよ」
「あの、臭かったりしたら申し訳ないなって……すみません! お待たせしました!」

 瞳は、ガチガチに緊張した表情でベッドに仰向けになると、頭の後ろで腕を組んだ。

「あの、俺から佐久間さんに触れることは絶対ないんで! なんなら、手縛ってもらってもいいんで!」
「なんでそんなにテンション高いんだよ……」

 うるさ……と呟きながら、瑛は瞳の傍に腰を下ろした。
 十年も前の、大して売れてもいないビデオのタイトルを覚えている瞳は、ストーカーと言ってもいいのだろうか。
 そんな奴と密室で二人きりなんて危険なのかもしれないが、瞳のことを警戒する気にはならなかった。
 はぇー、とか、ひー、とかぶつぶつ言っているのは気持ち悪いと思うが、襲ったりするような奴には見えない。それに、瑛は繊細ヒョロガリと思われがちだが、柔道有段者の武闘派だ。万が一瞳に襲われても、返り討ちにする自信はあった。

 瞳は部屋に備え付けのガウンタイプのナイトウェアに着替えていて、薄い生地に覆われた股間はすでに盛り上がっている。
 瑛がぺらっとガウンの裾を捲ると、瞳は甲高い声で、あん♡と声を漏らした。

「……なんでパンツ穿いてんの」
「モロ出しは失礼かなって……」
「すぐ脱ぐんだから、わざわざ穿くなよ」

 めんどくさ……と呟いて、瑛がぞんざいにパンツを引き下ろすと、ガチガチに勃ち上がった陰茎がぶるんと揺れて露わになる。

「結構でかいじゃん」

 無表情にじっと陰茎を見つめる瑛に、瞳は、はわゎ……と狼狽えて、頭の後ろで組んでいた両手を解き、顔を覆った。
 瞳は指の隙間から瑛をちらちら見て、あの……と声をかけた。

「ゴムつけますから、ちょっと待ってください」
「持ってんの?」
「ホテルに入る前に買ってきたんで!」

 瑛は素手で掴むつもりだったが、ゴムをつけてくれるというならその方がいい。ていうか、いつの間に買ってたんだ。
 ベッドの上であぐらをかいて、背中を丸くしてゴムを自分の陰茎に巻き下ろす瞳をじっと見つめる。

「あの……あんまり見られると出ちゃいそうなんで……」
「いいじゃん。どうせ見るんだし」
 大きな体を丸めて隠そうとする股間へ顔を寄せて、わざと覗き込む。ぴくぴくと揺れる陰茎にふっと息を吹きかけると、瞳は、あっ……と声を上げて、呆気なく射精してしまった。
 瑛はびっくりして、精液溜まりが乳白色のザーメンで満たされていくのをまじまじと見つめた。

「……佐久間さぁん……」

 涙目で瑛を見る情けない顔に、思わず笑ってしまった。

「えっ……エイジって笑うんだ」
「は? こんなの笑うだろ、早漏野郎。てか、ゴムの中に出してるとこ、初めて見たわ」

 たぷたぷになったゴムを惨めに外して、ガウンの裾で陰茎を拭った瞳が、上目遣いで瑛を見る。

「あの……これで終わりですか?」

 目を潤ませてしょんぼりと呟く瞳に、思わず同情してしまった。秒すぎてさすがに恥ずかしいだろう。

「まだ勃つならやってやるけど」

 瞳は、ぱあぁ……と顔を輝かせて瑛を見るが、すぐにまた神妙な表情に戻った。

「……本当にいいんですか? 佐久間さん、ノンケですよね? 彼女さんのこともあるし……」
「じゃあ、やめんの?」
「や……やります♡」

 面倒くさいやり取りに瑛がため息をつきながら、ぐいっと陰茎を握った。射精はしたが、瞳のそこはまだ硬さを残していた。
 湿った感触に、ゴムなしで直接触ってしまったと一瞬後悔したが、面倒なのでそのまま扱く。

「ああぁっ♡待っ……で……っ! さっきイッたばっか……だ……からッ♡くすぐった……♡ちょっ、い、痛……♡♡らめ♡♡♡」
 
 腰が砕けてベッドに仰向けに倒れ込んだ瞳は、顔を真っ赤にして腰を捩った。ガウンがはだけて、剥き出しになった腹筋がぴくぴくと震えている。意外と鍛えられた、立派な体つきだった。
 男に興味はないが、気持ち悪さは感じなかった。むしろ、声を上げて悶える姿に、自尊心が満たされるような気がする。
 がしがしと手を上下に動かすだけの瑛の雑な手コキに、瞳は腰を浮かして声を上げる。

「ひっ…!!ん…っ♡ふぇ、やら゛あぁッ♡♡あ゛ッ、イ、イ゛ぐ……♡♡♡」

 瞳は荒い息を吐きながら、自分のものを扱く瑛の手を掴んだ。

「手……よ、汚れちゃうから……離して……」

 瑛は瞳の手をうるさそうに払うと、スピードを上げて追い立てる。

「あ゛あっ♡♡あぁ~~~♡♡イ、くッ♡♡や゛ッイッ…ッッ♡♡♡」

 瞳は海老反りになって、ぴくぴくと痙攣しながら吐精した。胸まで飛び散ったそれは、二回目とは思えないくらい濃くて量も多かった。激しく上下する胸筋を伝って、どろっとシーツに流れ落ちる。
 焦点の飛んだ虚な目をして、半開きにした口から乱れた息を吐く瞳の姿に、瑛の下半身が疼いた。性行為の相手がこんなに感じているところを見るのは、初めてだった。

「……おい」

 声をかけると、瞳は放心したような目をゆっくりと瑛へ向けた。瞳の肌に飛び散った精液を、そばにあったタオルで拭ってやると、うっとりと夢見るような眼差しに変わる。

「……なあ、俺もーー」
 ハッと我に返ったように、瞳が体を起こした。
「す、すみません! お手数をおかけしました!」

 瞳は転げ落ちるようにベッドから降りると、慌てて服を着た。

「おい……あのさ……」
「支払い済んでるんで、佐久間さんはこのまま泊まっても大丈夫です! 隣のベッドは綺麗なんで!! あ、アダルトチャンネルとか見ますか!? 精算どうなってるかな……」
「いや、見ねえけど。ちょっと話聞けーー」
「あの、本当にありがとうございました! めちゃくちゃ感動してます!! ビデオのことは死んでも誰にも話さないし、佐久間さんとはもう会わないようにするんで安心してください!」

 瞳は深々とお辞儀をすると、脱兎の勢いで部屋を出ていった。
 瑛はしばらく呆気に取られた後、わずかに反応している下半身に視線を落とした。

「……どうすんだよ、これ」

 その二週間後、瑛と瞳は予定通り打ち合わせで再会した。
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