美しすぎる引きこもりYouTuberは視聴者と謎解きを~訳あり物件で霊の未練を晴らします~

じゅん

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序章 美形という不幸

序章 前編

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 ――美形に生まれたら勝ち組だなんて、誰が言ったんだ。
 飛び抜けて美しく生まれた央都也(おとや)は、自分の容姿を疎ましく思っていた。

 出産後、「美しすぎる新生児が誕生した!」と看護師を中心に病院で噂になり、央都也が退院するまで病室には赤の他人の見学者が殺到した、と伝説になった。

 すべすべの白い肌にふっくらとした丸い頬。生後数か月で小さな顎はきゅっとしまり、目鼻立ちはハッキリとしていた。特に大きな瞳は透明感のある琥珀色で、光を集めたかのようにキラキラと輝き、つけ睫毛のように長い睫毛が生えていた。

「なんて綺麗な赤ちゃんなのかしら」
「赤ちゃんなのに、綺麗としか言いようがないわね」
「将来が楽しみよねえ」

 央都也が歩くと人だかりができるほど人気の美幼児で、幼稚園では同じ年の女の子よりも先生にモテた。

 その美貌に目をつけたのは、実の母親だった。
 小学一年生になった央都也は、母に子役の芸能プロダクションに連れていかれた。
 物心ついたころから浴びせられ続けた言葉は「綺麗」「可愛い」「触らせて」だったので、自分の容姿がいいことを央都也は知っていた。

 しかし、まだ幼すぎた。

 自分の容姿が周囲に与える影響を理解していなかった。
 言われるがままに宣伝材料用の写真撮影をして、オーディションを受けた。央都也の写真がポスターになったり、雑誌に掲載されたりした。
 すると、SNSを中心に一気に央都也は話題になった。

「この美少年は何者?」
「もっとこの子の写真を見たいんだけど!」

 央都也は週に何度か、プロダクションに通うようになった。
 ヘアメイクでベタベタ。
 スタイリストにベタベタベタ。

 あいさつ回りだと連れまわされて、いろんなスタッフや著名人たちにベタベタベタベタと、まるでご利益がある人形であるかのように央都也は触られまくり、気色が悪くて逃げ出した。
 母親は央都也に仕事をさせたがったが、頑として行かなかった。

 短期間とはいえ、顔が売れてしまったのが運の尽き。知らない人によく声をかけられ、それだけでも怖かったのだが、央都也は何度か誘拐されそうになっている。
 ある犯人の女性は「央都也くんのような可愛い息子が欲しかった」と供述していた。

 ――央都也の不幸は、まだまだ続く。

 母親は央都也に対して当たりがきつくなったのだが、それは夫婦間にも影響した。
 元々両親の仲は良好とはいえなかったのだが、母親の央都也への扱いをきっかけに夫婦仲が悪くなり、離婚してしまった。

 母親は大金がパーになったことで央都也を恨んでいたのだが、まだ金の卵を産む鶏だと信じ、央都也の親権を主張した。
 央都也は父親についていきたかったし、父親も希望していたのだが、親権争いは母親が勝利した。

 母親はなんとか央都也の容姿を金に換えようとしていたようだが、央都也は逃げ回った。その間、親子の溝がどんどん深くなっていく。
 そうこうしているうちに央都也は小学四年生になり、母親の再婚が決まった。

「よろしくね」

 そうあいさつしてきた再婚相手は優しそうな男性で、央都也はほっとした。
 相手も連れ子が一人いて、黒い学ランを着ていた。

「こっちは雄誠(ゆうせい)。中学三年生だから、君より五歳年上だね。不愛想だけどいい子だから。仲良くしてやって」

 新しい父が雄誠を紹介する。

(お兄さんか)

 一人っ子の央都也にとって、初めての兄弟だ。

「はじめまして」

 雄誠が低い声でそう言った。
 央都也はぽかんとした顔で兄を見上げた。
 雄誠は姿勢が良くて、とても背が高い。並んで立つ父親より体格もよかった。それに切れ長の一重で精悍な顔立ちをしている。スポーツでもしているのか、短めの黒髪を立ち上げていた。
 央都也は小さく頭をさげながら、脅えて肩を内側に丸めた。

(なんか、怖そう)

 それが雄誠への第一印象だった。

 四人暮らしが始まった。再婚すると、母親は以前ほど央都也に構うことがなくなった。
 家庭でのゴタゴタはおさまってきたが、学校では問題が起きていた。
 央都也の荷物が、よく紛失するのだ。

 おそらく、イジメではない。央都也の所持品を欲しがるファンが犯人だ。あまりにも物がなくなるので、鍵付きのロッカーに入らないものは、重くてもすべての荷物を持ち歩く羽目になった。

 しかも、勝手に隠し撮りをされて、SNSなどで流されていたりする。央都也は、いつ誰がどこから見ているかわからず、気持ち悪くて仕方がなかった。登校するのが苦痛だった。

 そんな地元から離れたくて、央都也は私立の中学校に入学した。
 主にお金持ちが通う学校なので、きっと品行方正だろうと安心していたが、物が盗まれるのも、隠し撮りをされるのもなくならなかった。

 更に、電車通学中に男女問わずに痴漢にあうようになり、満員電車となる登校時だけは父に車で送ってもらうようことにした。楽になれると思って遠くの学校を選んだのに、苦労と不幸が増えただけだった。

 ここまで来ると央都也は人間不信になっており、すべての人から距離を取るようになっていた。
 気を抜けるのは自分の部屋にいる時だけ。母とは関係が良くないし、父や兄とはあまり会話をしていない。

 父は家族仲を深めようとしたのか、旅行を計画した。
 城下町で有名な観光スポットを巡ったあと、旅館に泊まる。

 その日の夜。宴会場で夕食をとってから部屋に戻ると、仲居さんが敷いてくれたのだろう、廊下からの明かりで布団が並んでいるのが見えた。

「なんだこれは……」

 室内に最初に入って電気をつけた父が、普段とは違う低い掠れた声で呟いた。電気をつけたと言っても、蛍光灯がわずかに発光しただけで薄暗い。明らかに通常の光量とは違った。

「どうしたの?」

 次に部屋に入った母も足をとめる。
 央都也は二人の背中の隙間から部屋の中を見た。
 四つ並んだ布団が、部分的に赤く染まっている。模様ではない。

 ――鮮血に染まっているように見えた。
 
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