29 / 43
二章 思い出の景色を探せ
二章 思い出の景色を探せ その9
しおりを挟む
「そうしよう」
雄誠が優しい笑みを浮かべた。
そこに、央都也が持っていた雄誠のスマートフォンが震えた。電話がかかってきたようだ。
「すまない」
雄誠は央都也の手から素早くスマートフォンを抜き取ると、「また来る」と言って部屋を出て行った。
ドアの外からは「もしもし」と雄誠が電話に出る声がかすかに聞こえ、足音と共に遠ざかっていった。
(別に、ここで話してもかまわないのに)
ちらりと見えたスマートフォンの液晶画面には、女性の名前が表示されていた。
(青山桜子、って書いてあったかな)
時計を見ると、二十三時近かった。
(こんな時間に電話をかけてくるってことは、やっぱり恋人かな。ぼくに隠さなくてもいいのに)
兄に恋人ができる。そして結婚して家庭を持つ。
そんなことは当然あるだろうと、今まではなんとも思わなかったのに。
今は無性に淋しく思えた。
(結婚したら、兄さんはかまってくれなくなるんだろうな)
きっと雄誠は央都也に手をかけられなくなるから、友人や恋人を作れと言うのだ。
(本当に結婚が間近なのかもしれない)
これまでなら、一人になれてせいせいすると思えたはずなのに。
一人。孤独。
ずっと待ち望んでいたその言葉に、ちっとも胸がときめかない。
(外に出たら、兄さんみたいに信用できる人が見つかるのかな)
ほんの少しだけ、外に出てもいいかもしれないと央都也は思い始めた。
雄誠の顔は一瞬しか動画に映っていないから問題ない。
そう考えていた央都也の読みは甘かった。
翌日のウェブニュースで、『美しすぎる人気ユーチューバー・兄もイケメンだった』などのタイトルで、雄誠の顔が拡散されてしまった。誰かが生配信を録画していて、画面をキャプチャしたのだろう。
さすがに名前までは掲載されていないし、調べても簡単にはわからないはずだが、かなり多くの人が雄誠の顔を知ることになってしまった。
(兄さん、ごめん)
謝罪のメッセージを送ると「すんだことだ、気にするな」と雄誠から返事が来た。怒っていないようなので、央都也は胸をなでおろす。
普段の動画は相変わらず日常の切り抜きだったが、事故物件企画を始めてからは、以前よりも再生数が回るようになっていた。新たなファンを獲得できたようだ。
それでも、ただの雑談動画ではなく、事故物件の第三弾を待ち望む声が多い。
(どうしようかな)
央都也は企画を続けるか悩んでいた。
洋平の件が一段落した後も第二弾をするか悩んだが、その時とは質が違う。
当時は、幽霊の出る部屋で暮らす不便さと再生数を天秤にかけた。
つまりは、平穏と金を比べたのだ。
そして金を選んで、第二弾を決行した。
しかし、今の央都也は違う。
(死者の思いを、こんなふうに動画にしていいのかな……)
幸い、洋平にも喜代にも感謝された。
だが、これからもそうなるとは限らない。
こう考える自分のことを、我ながら不思議な感覚でとらえていた。
今まで央都也は、自分を中心に生きてきた。他人のことには興味も関心もなく、気を使うことなど皆無だった。
それなのに今は、見知らぬ死者に思いをはせている。
(次の生配信の時、みんなに意見を聞いてもいいかもしれない)
方針を視聴者に訊ねることも、今までの央都也にはなかったことだ。人を頼ることも、意見を汲み取ることも、しようと思わなかったからだ。
自分の中で、なにかが変わっているような気がした。
(……あれ?)
SNSのダイレクトメールに、知らない人からメッセージが届いていた。
クリックしてメールを開くと、央都也は動きをとめた。
雄誠が優しい笑みを浮かべた。
そこに、央都也が持っていた雄誠のスマートフォンが震えた。電話がかかってきたようだ。
「すまない」
雄誠は央都也の手から素早くスマートフォンを抜き取ると、「また来る」と言って部屋を出て行った。
ドアの外からは「もしもし」と雄誠が電話に出る声がかすかに聞こえ、足音と共に遠ざかっていった。
(別に、ここで話してもかまわないのに)
ちらりと見えたスマートフォンの液晶画面には、女性の名前が表示されていた。
(青山桜子、って書いてあったかな)
時計を見ると、二十三時近かった。
(こんな時間に電話をかけてくるってことは、やっぱり恋人かな。ぼくに隠さなくてもいいのに)
兄に恋人ができる。そして結婚して家庭を持つ。
そんなことは当然あるだろうと、今まではなんとも思わなかったのに。
今は無性に淋しく思えた。
(結婚したら、兄さんはかまってくれなくなるんだろうな)
きっと雄誠は央都也に手をかけられなくなるから、友人や恋人を作れと言うのだ。
(本当に結婚が間近なのかもしれない)
これまでなら、一人になれてせいせいすると思えたはずなのに。
一人。孤独。
ずっと待ち望んでいたその言葉に、ちっとも胸がときめかない。
(外に出たら、兄さんみたいに信用できる人が見つかるのかな)
ほんの少しだけ、外に出てもいいかもしれないと央都也は思い始めた。
雄誠の顔は一瞬しか動画に映っていないから問題ない。
そう考えていた央都也の読みは甘かった。
翌日のウェブニュースで、『美しすぎる人気ユーチューバー・兄もイケメンだった』などのタイトルで、雄誠の顔が拡散されてしまった。誰かが生配信を録画していて、画面をキャプチャしたのだろう。
さすがに名前までは掲載されていないし、調べても簡単にはわからないはずだが、かなり多くの人が雄誠の顔を知ることになってしまった。
(兄さん、ごめん)
謝罪のメッセージを送ると「すんだことだ、気にするな」と雄誠から返事が来た。怒っていないようなので、央都也は胸をなでおろす。
普段の動画は相変わらず日常の切り抜きだったが、事故物件企画を始めてからは、以前よりも再生数が回るようになっていた。新たなファンを獲得できたようだ。
それでも、ただの雑談動画ではなく、事故物件の第三弾を待ち望む声が多い。
(どうしようかな)
央都也は企画を続けるか悩んでいた。
洋平の件が一段落した後も第二弾をするか悩んだが、その時とは質が違う。
当時は、幽霊の出る部屋で暮らす不便さと再生数を天秤にかけた。
つまりは、平穏と金を比べたのだ。
そして金を選んで、第二弾を決行した。
しかし、今の央都也は違う。
(死者の思いを、こんなふうに動画にしていいのかな……)
幸い、洋平にも喜代にも感謝された。
だが、これからもそうなるとは限らない。
こう考える自分のことを、我ながら不思議な感覚でとらえていた。
今まで央都也は、自分を中心に生きてきた。他人のことには興味も関心もなく、気を使うことなど皆無だった。
それなのに今は、見知らぬ死者に思いをはせている。
(次の生配信の時、みんなに意見を聞いてもいいかもしれない)
方針を視聴者に訊ねることも、今までの央都也にはなかったことだ。人を頼ることも、意見を汲み取ることも、しようと思わなかったからだ。
自分の中で、なにかが変わっているような気がした。
(……あれ?)
SNSのダイレクトメールに、知らない人からメッセージが届いていた。
クリックしてメールを開くと、央都也は動きをとめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる