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二章 思い出の景色を探せ

二章 思い出の景色を探せ その9

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「そうしよう」
 雄誠が優しい笑みを浮かべた。

 そこに、央都也が持っていた雄誠のスマートフォンが震えた。電話がかかってきたようだ。

「すまない」
 雄誠は央都也の手から素早くスマートフォンを抜き取ると、「また来る」と言って部屋を出て行った。

 ドアの外からは「もしもし」と雄誠が電話に出る声がかすかに聞こえ、足音と共に遠ざかっていった。

(別に、ここで話してもかまわないのに)
 ちらりと見えたスマートフォンの液晶画面には、女性の名前が表示されていた。
(青山桜子、って書いてあったかな)

 時計を見ると、二十三時近かった。
(こんな時間に電話をかけてくるってことは、やっぱり恋人かな。ぼくに隠さなくてもいいのに)

 兄に恋人ができる。そして結婚して家庭を持つ。
 そんなことは当然あるだろうと、今まではなんとも思わなかったのに。
 今は無性に淋しく思えた。

(結婚したら、兄さんはかまってくれなくなるんだろうな)
 きっと雄誠は央都也に手をかけられなくなるから、友人や恋人を作れと言うのだ。

(本当に結婚が間近なのかもしれない)
 これまでなら、一人になれてせいせいすると思えたはずなのに。

 一人。孤独。

 ずっと待ち望んでいたその言葉に、ちっとも胸がときめかない。
(外に出たら、兄さんみたいに信用できる人が見つかるのかな)
 ほんの少しだけ、外に出てもいいかもしれないと央都也は思い始めた。

 雄誠の顔は一瞬しか動画に映っていないから問題ない。
 そう考えていた央都也の読みは甘かった。

 翌日のウェブニュースで、『美しすぎる人気ユーチューバー・兄もイケメンだった』などのタイトルで、雄誠の顔が拡散されてしまった。誰かが生配信を録画していて、画面をキャプチャしたのだろう。

 さすがに名前までは掲載されていないし、調べても簡単にはわからないはずだが、かなり多くの人が雄誠の顔を知ることになってしまった。

(兄さん、ごめん)

 謝罪のメッセージを送ると「すんだことだ、気にするな」と雄誠から返事が来た。怒っていないようなので、央都也は胸をなでおろす。
 普段の動画は相変わらず日常の切り抜きだったが、事故物件企画を始めてからは、以前よりも再生数が回るようになっていた。新たなファンを獲得できたようだ。
 それでも、ただの雑談動画ではなく、事故物件の第三弾を待ち望む声が多い。

(どうしようかな)
 央都也は企画を続けるか悩んでいた。

 洋平の件が一段落した後も第二弾をするか悩んだが、その時とは質が違う。
 当時は、幽霊の出る部屋で暮らす不便さと再生数を天秤にかけた。
 つまりは、平穏と金を比べたのだ。
 そして金を選んで、第二弾を決行した。
 しかし、今の央都也は違う。

(死者の思いを、こんなふうに動画にしていいのかな……)
 幸い、洋平にも喜代にも感謝された。
 だが、これからもそうなるとは限らない。

 こう考える自分のことを、我ながら不思議な感覚でとらえていた。
 今まで央都也は、自分を中心に生きてきた。他人のことには興味も関心もなく、気を使うことなど皆無だった。
 それなのに今は、見知らぬ死者に思いをはせている。

(次の生配信の時、みんなに意見を聞いてもいいかもしれない)

 方針を視聴者に訊ねることも、今までの央都也にはなかったことだ。人を頼ることも、意見を汲み取ることも、しようと思わなかったからだ。
 自分の中で、なにかが変わっているような気がした。

(……あれ?)

 SNSのダイレクトメールに、知らない人からメッセージが届いていた。
 クリックしてメールを開くと、央都也は動きをとめた。
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