17 / 44
二章 引きこもりの鬼
二章 5
しおりを挟む
「あの人が、噂の鬼なんだ」
毬瑠子はつぶやいた。
聞いていたイメージと全く違った。
一歩踏み出すと鬼は近づいてくる毬瑠子たちに気がつき、素早い動きで立ち上がった。
「来るな!」
鬼は身長ほどもある長い金砕棒を両手で構えた。裾から見えるのは細腕で、これほど大きな棒を持つ膂力があるようには見えない。
「わたしたちは話を聞きに来たのです。争うつもりはありません」
マルセルが両手の平を見せて、敵愾心がないことを示す。
「話すことなどない。去れ」
鬼は警戒を解かない。
「毬瑠子はここにいてください」
マルセルはそう言って、一人でゆっくり鬼に近づいていく。
「武器を置いてください」
「それ以上近づけば、その頭をかち割るぞ」
鬼は身を低くする。着流しからスラリとした細く白い足がのぞいた。
「やれるものなら、やってみたらどうですか」
マルセルは挑発するように言い放って歩調を緩めない。二人の距離はもう十メートルも離れていなかった。
「その言葉、地に這ってから後悔するといい」
鬼は金砕棒を振りかぶりながらマルセルに向かって踏み込んだ。目に見えない速さで棒が動く。風切り音が毬瑠子まで届いた。
「マルセルさん!」
次の瞬間、金属がぶつかる鋭い音が響いた。
薙ぎ払うようにマルセルの胴を狙った鬼の金砕棒を、マルセルは片手で持った剣でやすやすと受け止めていた。
マルセルが帯剣しているのは、マントに隠れて毬瑠子は見えていなかった。それは鬼も同じだったのだろう、瞠目している。
「おや、胴では頭をかち割れませんよ」
マルセルは赤い瞳を細めて好戦的に笑った。
「くそっ」
鬼はいったん距離を取り、再び金砕棒を構えた。
「やめて! 私たちはあなたと話がしたいだけなの!」
毬瑠子が駆け寄った。
「毬瑠子、来てはいけません、危険ですよ」
マルセルは肩越しに毬瑠子に声をかけながら、鬼の金砕棒を薙ぎ払う。耳を塞ぎたくなるような金属をんが響いた。
どうしよう、これじゃあどちらかが大怪我をしちゃうよ。
毬瑠子は周囲を見回して、大きな岩に駆け寄った。手袋を外して両手を添える。岩がミシミシと音を立てながら地面から抜け始めた。湿った黒い土のついた岩肌の面積が大きくなっていく。
「やめてって言ってるでしょ!」
毬瑠子は岩を二人の間に投げつけた。思わぬ場所から岩が飛んできて、鬼は驚いたように足をとめる。
隙を見せた好機をマルセルは見逃さなかった。まるで生き物のように動くマントを鬼にぐるぐると巻きつける。
「くっ、なんだこれは」
鬼はもがくが、マントはびくともしない。
「挑発して鬼の隙を作ろうとしていたのですが……、毬瑠子、お手柄ですね」
マルセルはホッと表情を緩ませ、乱れた金色の前髪を整えた。いままでの強気な態度は鬼を捕まえるための演技だったようだ。
怪力が役に立った。
毬瑠子も全身の緊張を解きながらレースの手袋をはめた。
「乱暴なことをしてすみません。こうしないと話を聞いてもらえそうもなかったので」
「来るな!」
近づく毬瑠子とマルセルに向かって鬼は叫けぶ。
毬瑠子はつぶやいた。
聞いていたイメージと全く違った。
一歩踏み出すと鬼は近づいてくる毬瑠子たちに気がつき、素早い動きで立ち上がった。
「来るな!」
鬼は身長ほどもある長い金砕棒を両手で構えた。裾から見えるのは細腕で、これほど大きな棒を持つ膂力があるようには見えない。
「わたしたちは話を聞きに来たのです。争うつもりはありません」
マルセルが両手の平を見せて、敵愾心がないことを示す。
「話すことなどない。去れ」
鬼は警戒を解かない。
「毬瑠子はここにいてください」
マルセルはそう言って、一人でゆっくり鬼に近づいていく。
「武器を置いてください」
「それ以上近づけば、その頭をかち割るぞ」
鬼は身を低くする。着流しからスラリとした細く白い足がのぞいた。
「やれるものなら、やってみたらどうですか」
マルセルは挑発するように言い放って歩調を緩めない。二人の距離はもう十メートルも離れていなかった。
「その言葉、地に這ってから後悔するといい」
鬼は金砕棒を振りかぶりながらマルセルに向かって踏み込んだ。目に見えない速さで棒が動く。風切り音が毬瑠子まで届いた。
「マルセルさん!」
次の瞬間、金属がぶつかる鋭い音が響いた。
薙ぎ払うようにマルセルの胴を狙った鬼の金砕棒を、マルセルは片手で持った剣でやすやすと受け止めていた。
マルセルが帯剣しているのは、マントに隠れて毬瑠子は見えていなかった。それは鬼も同じだったのだろう、瞠目している。
「おや、胴では頭をかち割れませんよ」
マルセルは赤い瞳を細めて好戦的に笑った。
「くそっ」
鬼はいったん距離を取り、再び金砕棒を構えた。
「やめて! 私たちはあなたと話がしたいだけなの!」
毬瑠子が駆け寄った。
「毬瑠子、来てはいけません、危険ですよ」
マルセルは肩越しに毬瑠子に声をかけながら、鬼の金砕棒を薙ぎ払う。耳を塞ぎたくなるような金属をんが響いた。
どうしよう、これじゃあどちらかが大怪我をしちゃうよ。
毬瑠子は周囲を見回して、大きな岩に駆け寄った。手袋を外して両手を添える。岩がミシミシと音を立てながら地面から抜け始めた。湿った黒い土のついた岩肌の面積が大きくなっていく。
「やめてって言ってるでしょ!」
毬瑠子は岩を二人の間に投げつけた。思わぬ場所から岩が飛んできて、鬼は驚いたように足をとめる。
隙を見せた好機をマルセルは見逃さなかった。まるで生き物のように動くマントを鬼にぐるぐると巻きつける。
「くっ、なんだこれは」
鬼はもがくが、マントはびくともしない。
「挑発して鬼の隙を作ろうとしていたのですが……、毬瑠子、お手柄ですね」
マルセルはホッと表情を緩ませ、乱れた金色の前髪を整えた。いままでの強気な態度は鬼を捕まえるための演技だったようだ。
怪力が役に立った。
毬瑠子も全身の緊張を解きながらレースの手袋をはめた。
「乱暴なことをしてすみません。こうしないと話を聞いてもらえそうもなかったので」
「来るな!」
近づく毬瑠子とマルセルに向かって鬼は叫けぶ。
1
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる