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文久3年

まさかの生贄デビュー(参)

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 私は男たちにあっという間に連行されて行き、ろくに反論する間もなく、小さな集落のようなところに連れてこられた。

 この辺になってくれば、私もここが二十一世紀じゃないってなんとなく気づいた。

 だって草の屋根に土の壁の家だよ?家々の明かりはうっすいオレンジ色だし、どんな山奥でも平成の世にこれはないでしょ。

 男たちは集落を横切って行き、とある大きめな建物の中に私を押し込んだ。

 そこでは数名の女性が待機していた。

「この者が今宵の生贄だ。用意を至急頼む」

 男たちがそう言うと、女たちは無言で頷く。

 男たちが出ていくと、私は瞬く間に身ぐるみを剥がされた。

 言葉の意味が違う気がするけど、状況的に間違ったことは言っていない。

 黙々と作業する女たちによって、私は何やら十二単のような類の大袖の着物を着せられた。そして口元に薄い紗のような物もつけられた。

 これだけだととても神秘的に見える。




 だが私は騙されないぞ!!

 この紗の下ではさるぐつわを噛まされてるし、長くて大きい袖に隠れてるけど、手首はがっちり縛られてるから!!

 ちょっと待てマジなんなの!?

 私の意見などまるっきり無視して、女たちは着替え終わった私を建物から連れ出す。

 外には私を連れてきた男たちが待機していて、他にも村人以下略の人々がわらわらといた。

 男の一人が私の腕を掴み、そのままズルズルと引きずっていく。ちょっと痛いから!一人で歩けるから手ェ離して!!

 村人と思われる人たちがあけた道を引きずられながら歩いて、私は古びた社の前まで連れてこられた。

「あなたのなすべきことは簡単です。こちらにある九尾の狐様の社で一晩明かせばいいだけです」

 私をここまで連れてきたというか引きずってきた男が、うやうやしくお辞儀をしながら言った。

 今更そんな丁寧な物腰になってもね………。

 そして九尾の狐?なにその和風ファンタジーは。

「成功や失敗については何も考えなくて良いです。失敗してもあなたのお命が狐様にいただかれるだけですから、ご安心ください」
「……………」

 いや、何が"ご安心ください"だ!!それ全然良くないじゃん!?私まだ18なんだけど!こんな早くに死のは勘弁なんだが!?

 しかし口を塞がれている私に何か言えるはずもなく。




 バターン。




 問答無用で押し込まれました。ええ、社の中にです。ご丁寧に外から閂もかけられました。

 ってちょっと待てい!!

 え、やばくない?これやばいよね絶対?だって生贄だよ?なにされるかわかったもんじゃないよ?

 どーしようー!!

 とりあえず手の縄を解きたい。どっか尖ってるとこない?縄を切りたい。

 と思っていたら社の柱から飛び出ている太い棘を見つけた。ちょっとやそっとでは折れなさそう………。




 これだ!!!
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