5 / 26
一章
四話 飴玉 ※改稿12/6
しおりを挟む
冒険者登録をすましたウルセーナは、ナビと共に宿付き酒場を後にした。
そして、宿付き酒場を出てすぐの大通り。
「うっ、ダメだ……。もう死ぬ……」
ウルセーナはあまりの空腹に、ぐったりとして座り込んだ。
そのままぴくりとも動かなくなったウルセーナの姿を見かねて、ナビはウルセーナの肩をぽんと叩いた。
「んー……?」
「ウルセーナさん、これどうぞ。舐めちゃってください」
「え?」
ウルセーナが振り返ると、ナビは飴玉を手のひらに乗せ、差し出していた。
「なんだ飴かよ。まあ何もないよりはましか。サンキュ」
「何ですか、そのたかが飴的な言い方は。私のとっておきの飴玉なんですからね、それ。大事に食べてくださいよ」
「分かった分かった。じゃあいただきまーす!」
ウルセーナは、飴玉を空高く放り投げた。
「――え! ちょっと、何しちゃってるんですかウルセーナさん!」
「まあ見てなって」
ウルセーナは、口を大きく開けて上を向いた。
――その時、カラスが上空から猛スピードで向かってきた。
そして空中で飴玉を華麗にキャッチすると、あっという間に飛び去って行った。
「カー、カー、カー……」
あまりの一瞬の出来事に、二人はしばらくの間空を見上げたまま沈黙した。
「ちょっとウルセーナさん! 酷いじゃないですか、私が大事にしてた飴玉なのに……。ううっ、うえーん」
「まさか丁度よくカラスが来るとは思わないだろ……」
ナビはしゃがみ込んで泣いている。
「おい、飴ぐらいでそんなに落ち込むなって。それとさナビ、あんまり言いたくねえけど、パンツ見えてるぞ」
「えっ、ちょっと、もー! なんでこんな時に人のパンツ見てるんですか! 変態! もうウルセーナさんなんか知りませんから!」
ナビは無神経なウルセーナの言葉に怒りをあらわにすると、泣きながらどこかへ走り去っていった。
「おい、ちょっ待てよ!」
と、ウルセーナがナビの後を追おうと思った矢先――。
「――キャァァァ!」
ナビがウルセーナの方へ帰ってきた。
「え! ナビ? 戻ってくるの早! つーか速!」
ナビはカラスに咥えられていた。
カラスは地面ギリギリの低空飛行で、ウルセーナに向かって飛んで来る――。
「――カァァァ! カァァァ! カァァァ!」
「助けてー!」
「うわっ――!」
カラスはウルセーナをギリギリで飛び越すと、そのまま上昇した。
「また見えてる! あいついつからパンツキャラに……って、そんなこと言ってる場合じゃねえ。あのカラスやたら凶暴になってたし、早く追いつかないとナビが――」
ウルセーナは走ってカラスの後を追った。
カラスが通った後は、屋根や看板、カツラなどが道に散乱している。
――そして街の外。
「はぁ、はぁ、街の外まで来ちまった。モンスターがいたらやばいな。武器が木の棒しかねえ。そこらへんに落ちてる石ころの方が役に立ちそうだ。よし、拾いながら追うか」
「カァァァ! カァァァ!」
「助けてー!」
カラスはナビを連れ、街を出てすぐの大きな一本杉の頂上にいた。
そこには巣があり、カラスはナビを咥えて雛たちに餌やりをしようとしていた。
「ナビ! どうする、あの高さじゃどうにも……。いや、さっきの石ころで――!」
ウルセーナは石ころをカラスに向けて全力で投げつけた。
石ころは時速百キロ弱で飛び、都合よくカラスの顔面を直撃した。
「クェェェ……」
『ウルセーナはレベル2になった』
「レベル上がった! って今はそれどころじゃねえ!」
カラスはナビを咥えたまま落下する。
「落ちるー! ウルセーナさーん!」
「ナビ! ……あいつまたパンツが。くそっ間に合え――!」
ウルセーナはナビの落下点まで走り、ダイブした――。
「――ぐへえぇっ!」
ナビはウルセーナの背中の上に体を重ねている。
「いてて……」
ナビは起き上がるやいなや、自分の下敷きになったウルセーナに気付く。
「ウルセーナさん! 大丈夫ですか!」
ナビは懸命にウルセーナに呼びかけるが反応がない。
ウルセーナは意識がなく、もう虫の息だった。
ナビは背の高い大きな一本杉の頂上から落下し、ウルセーナに直撃した。
落下の衝撃を全てウルセーナが吸収したことで、ナビの体には傷一つついていない。しかし、逆を言えば衝撃の全てを吸収したウルセーナが無事であるはずはない。
「ウルセーナさん……、私の為に……」
言いようのない不安にさいなまれる中、ナビは一緒に落下したカラスが、口から飴玉を吐き出しているのに気付いた。
飴玉はカラスの唾液と土でドロドロに汚れている。
ナビはうつ伏せに倒れたウルセーナの体を必死に仰向けにすると、ドロドロに汚れた飴玉を手に持ち、服の袖で出来る限りその汚れを落とした。
そしてウルセーナの口をこじ開け、その中に無理やりねじ込んだ。
「ウルセーナさん、お願い、死なないで……!」
ナビは胸の前で両手を重ね、神に祈った。
が、ウルセーナの反応はない。
もし、飴玉の効用でウルセーナが復活出来るとしても、口の中に入れただけでは効果を期待できない。それは身体に飴の成分が吸収されていないからだ。
効果を期待するのならば、まず飴玉を溶かし、胃まで流し込み、飴の成分をしっかりと身体に吸収させなければならないだろう。
ナビはウルセーナの体を横に倒し、口から飴玉を取り出した。
取り出した飴玉を自分の口の中に含むと、舌と唾液を使って溶かし始めた。
ある程度口の中で飴が溶けだしたところで、再度ウルセーナの体を仰向けにした。
そして、ウルセーナの頬を摘まむようにして口を開かせると、ナビは自分の口の中で溶けた飴を、零さないよう直接ウルセーナの口に流し込んでやった。
ナビはそれを何度となく繰り返した。
そして、ナビの口の中の飴玉が溶けてなくなってきた頃だった。
「ごほっ……! げほっ……!」
ウルセーナは喉に詰まったものを吐き出すように咳き込んだ。
「おえっ! がはっ……!」
ウルセーナは上体を起こし目を開くと、間近にあるナビの顔に気付いた。
「うわあ! ナビ! ……な、何だよお前、びっくりするだろ。近えよ」
「……う、ウルセーナさん……! はぁ、良かったぁ……」
切れた緊張の糸が、ナビの涙腺を緩ませ涙をぽろぽろと流し始めた。
「あーそっか、俺気を失ってたんだな……。ナビも無事みたいだし、良かったな。もしかして死ぬと思った? はははっ」
ナビの苦労など知るはずもなく、ウルセーナは能天気に笑った。
「ぐすん、もーふざけないでください。こっちは大変だったんですから」
「そっかそっか、悪い悪い。怒るなって」
そう言うと、ウルセーナは自分のお腹に手を当てた。
「あれ? 腹が……、何かすげえ満腹感があるんだけど、何だよこれ?」
「飴玉の効果です」
「飴玉? 俺食ってないけど……」
「ウルセーナさんが気を失ってる時に私が食べさせました」
「え? 何でそんなこと……てか、飴はカラスに食われたんじゃねえのかよ」
「カラスの食べかけをウルセーナさんに食べさせたんです」
「は! きったねえなあ! 何してくれんだよ嫌がらせかよ! おえっ、おぇっ!」
「もおぉぉ! 失礼ですねえホント! 汚くないですよ!」
「汚いに決まってんだろ。ペッ、ペッ!」
「……もういいです。でも、それを食べなきゃ死んでたかもしれませんから……」
「え、マジ? 何か特殊な飴だったのか?」
「だから言ったじゃないですか、とっておきの飴玉だって。私のお母さんがもしもの時にって、私に持たせてくれた魔法の飴玉なんですからね。栄養満点で元気が出て、お腹も一杯になって、大体の怪我なら治せちゃうすごい飴玉なんだよって、お母さんが言ってました」
ナビは頬っぺたを膨らましながら自慢げに話す。
「へーすごい飴だな。だからカラスがあんなに凶暴だったのか。つか、そんな大事なもの俺にくれたのか? そりゃ泣くよな、あんなことされたら。悪かったな」
ウルセーナは顔の前で手を合わせると頭をへこへこさせて謝った。
「もういいですよ。それに私も説明不足でしたから、しょうがありません」
「いっ、痛え! ううっ……」
「どうしたんですか、ウルセーナさん? まだ体が痛む……え? 何ですかこれ? すごく、大きくなってきてます! ウルセーナさん!」
「おい何だよこれ! いっ、痛って! 元気になるってこっちもかよ! なんつーもんを娘に持たせてんだ、お前の母親は! わっやばい、逃げろナビ! 俺が俺でなくなってしまう前に……!」
「えっ……!」
ウルセーナの股間が異常に膨れ上がる。それは、例えるなら噴火寸前の火山だ。 股間からバチバチと布が破れる音。
「――うわあああ! 逃げろナビー!」
そして、火山は噴火した。
「――えっ! ……わわわ、わあああ!」
ナビは身の危険を感じ、その場から全速力で逃げ出した。
この後どうなったのかは、二人以外に誰も知らない。
そして、宿付き酒場を出てすぐの大通り。
「うっ、ダメだ……。もう死ぬ……」
ウルセーナはあまりの空腹に、ぐったりとして座り込んだ。
そのままぴくりとも動かなくなったウルセーナの姿を見かねて、ナビはウルセーナの肩をぽんと叩いた。
「んー……?」
「ウルセーナさん、これどうぞ。舐めちゃってください」
「え?」
ウルセーナが振り返ると、ナビは飴玉を手のひらに乗せ、差し出していた。
「なんだ飴かよ。まあ何もないよりはましか。サンキュ」
「何ですか、そのたかが飴的な言い方は。私のとっておきの飴玉なんですからね、それ。大事に食べてくださいよ」
「分かった分かった。じゃあいただきまーす!」
ウルセーナは、飴玉を空高く放り投げた。
「――え! ちょっと、何しちゃってるんですかウルセーナさん!」
「まあ見てなって」
ウルセーナは、口を大きく開けて上を向いた。
――その時、カラスが上空から猛スピードで向かってきた。
そして空中で飴玉を華麗にキャッチすると、あっという間に飛び去って行った。
「カー、カー、カー……」
あまりの一瞬の出来事に、二人はしばらくの間空を見上げたまま沈黙した。
「ちょっとウルセーナさん! 酷いじゃないですか、私が大事にしてた飴玉なのに……。ううっ、うえーん」
「まさか丁度よくカラスが来るとは思わないだろ……」
ナビはしゃがみ込んで泣いている。
「おい、飴ぐらいでそんなに落ち込むなって。それとさナビ、あんまり言いたくねえけど、パンツ見えてるぞ」
「えっ、ちょっと、もー! なんでこんな時に人のパンツ見てるんですか! 変態! もうウルセーナさんなんか知りませんから!」
ナビは無神経なウルセーナの言葉に怒りをあらわにすると、泣きながらどこかへ走り去っていった。
「おい、ちょっ待てよ!」
と、ウルセーナがナビの後を追おうと思った矢先――。
「――キャァァァ!」
ナビがウルセーナの方へ帰ってきた。
「え! ナビ? 戻ってくるの早! つーか速!」
ナビはカラスに咥えられていた。
カラスは地面ギリギリの低空飛行で、ウルセーナに向かって飛んで来る――。
「――カァァァ! カァァァ! カァァァ!」
「助けてー!」
「うわっ――!」
カラスはウルセーナをギリギリで飛び越すと、そのまま上昇した。
「また見えてる! あいついつからパンツキャラに……って、そんなこと言ってる場合じゃねえ。あのカラスやたら凶暴になってたし、早く追いつかないとナビが――」
ウルセーナは走ってカラスの後を追った。
カラスが通った後は、屋根や看板、カツラなどが道に散乱している。
――そして街の外。
「はぁ、はぁ、街の外まで来ちまった。モンスターがいたらやばいな。武器が木の棒しかねえ。そこらへんに落ちてる石ころの方が役に立ちそうだ。よし、拾いながら追うか」
「カァァァ! カァァァ!」
「助けてー!」
カラスはナビを連れ、街を出てすぐの大きな一本杉の頂上にいた。
そこには巣があり、カラスはナビを咥えて雛たちに餌やりをしようとしていた。
「ナビ! どうする、あの高さじゃどうにも……。いや、さっきの石ころで――!」
ウルセーナは石ころをカラスに向けて全力で投げつけた。
石ころは時速百キロ弱で飛び、都合よくカラスの顔面を直撃した。
「クェェェ……」
『ウルセーナはレベル2になった』
「レベル上がった! って今はそれどころじゃねえ!」
カラスはナビを咥えたまま落下する。
「落ちるー! ウルセーナさーん!」
「ナビ! ……あいつまたパンツが。くそっ間に合え――!」
ウルセーナはナビの落下点まで走り、ダイブした――。
「――ぐへえぇっ!」
ナビはウルセーナの背中の上に体を重ねている。
「いてて……」
ナビは起き上がるやいなや、自分の下敷きになったウルセーナに気付く。
「ウルセーナさん! 大丈夫ですか!」
ナビは懸命にウルセーナに呼びかけるが反応がない。
ウルセーナは意識がなく、もう虫の息だった。
ナビは背の高い大きな一本杉の頂上から落下し、ウルセーナに直撃した。
落下の衝撃を全てウルセーナが吸収したことで、ナビの体には傷一つついていない。しかし、逆を言えば衝撃の全てを吸収したウルセーナが無事であるはずはない。
「ウルセーナさん……、私の為に……」
言いようのない不安にさいなまれる中、ナビは一緒に落下したカラスが、口から飴玉を吐き出しているのに気付いた。
飴玉はカラスの唾液と土でドロドロに汚れている。
ナビはうつ伏せに倒れたウルセーナの体を必死に仰向けにすると、ドロドロに汚れた飴玉を手に持ち、服の袖で出来る限りその汚れを落とした。
そしてウルセーナの口をこじ開け、その中に無理やりねじ込んだ。
「ウルセーナさん、お願い、死なないで……!」
ナビは胸の前で両手を重ね、神に祈った。
が、ウルセーナの反応はない。
もし、飴玉の効用でウルセーナが復活出来るとしても、口の中に入れただけでは効果を期待できない。それは身体に飴の成分が吸収されていないからだ。
効果を期待するのならば、まず飴玉を溶かし、胃まで流し込み、飴の成分をしっかりと身体に吸収させなければならないだろう。
ナビはウルセーナの体を横に倒し、口から飴玉を取り出した。
取り出した飴玉を自分の口の中に含むと、舌と唾液を使って溶かし始めた。
ある程度口の中で飴が溶けだしたところで、再度ウルセーナの体を仰向けにした。
そして、ウルセーナの頬を摘まむようにして口を開かせると、ナビは自分の口の中で溶けた飴を、零さないよう直接ウルセーナの口に流し込んでやった。
ナビはそれを何度となく繰り返した。
そして、ナビの口の中の飴玉が溶けてなくなってきた頃だった。
「ごほっ……! げほっ……!」
ウルセーナは喉に詰まったものを吐き出すように咳き込んだ。
「おえっ! がはっ……!」
ウルセーナは上体を起こし目を開くと、間近にあるナビの顔に気付いた。
「うわあ! ナビ! ……な、何だよお前、びっくりするだろ。近えよ」
「……う、ウルセーナさん……! はぁ、良かったぁ……」
切れた緊張の糸が、ナビの涙腺を緩ませ涙をぽろぽろと流し始めた。
「あーそっか、俺気を失ってたんだな……。ナビも無事みたいだし、良かったな。もしかして死ぬと思った? はははっ」
ナビの苦労など知るはずもなく、ウルセーナは能天気に笑った。
「ぐすん、もーふざけないでください。こっちは大変だったんですから」
「そっかそっか、悪い悪い。怒るなって」
そう言うと、ウルセーナは自分のお腹に手を当てた。
「あれ? 腹が……、何かすげえ満腹感があるんだけど、何だよこれ?」
「飴玉の効果です」
「飴玉? 俺食ってないけど……」
「ウルセーナさんが気を失ってる時に私が食べさせました」
「え? 何でそんなこと……てか、飴はカラスに食われたんじゃねえのかよ」
「カラスの食べかけをウルセーナさんに食べさせたんです」
「は! きったねえなあ! 何してくれんだよ嫌がらせかよ! おえっ、おぇっ!」
「もおぉぉ! 失礼ですねえホント! 汚くないですよ!」
「汚いに決まってんだろ。ペッ、ペッ!」
「……もういいです。でも、それを食べなきゃ死んでたかもしれませんから……」
「え、マジ? 何か特殊な飴だったのか?」
「だから言ったじゃないですか、とっておきの飴玉だって。私のお母さんがもしもの時にって、私に持たせてくれた魔法の飴玉なんですからね。栄養満点で元気が出て、お腹も一杯になって、大体の怪我なら治せちゃうすごい飴玉なんだよって、お母さんが言ってました」
ナビは頬っぺたを膨らましながら自慢げに話す。
「へーすごい飴だな。だからカラスがあんなに凶暴だったのか。つか、そんな大事なもの俺にくれたのか? そりゃ泣くよな、あんなことされたら。悪かったな」
ウルセーナは顔の前で手を合わせると頭をへこへこさせて謝った。
「もういいですよ。それに私も説明不足でしたから、しょうがありません」
「いっ、痛え! ううっ……」
「どうしたんですか、ウルセーナさん? まだ体が痛む……え? 何ですかこれ? すごく、大きくなってきてます! ウルセーナさん!」
「おい何だよこれ! いっ、痛って! 元気になるってこっちもかよ! なんつーもんを娘に持たせてんだ、お前の母親は! わっやばい、逃げろナビ! 俺が俺でなくなってしまう前に……!」
「えっ……!」
ウルセーナの股間が異常に膨れ上がる。それは、例えるなら噴火寸前の火山だ。 股間からバチバチと布が破れる音。
「――うわあああ! 逃げろナビー!」
そして、火山は噴火した。
「――えっ! ……わわわ、わあああ!」
ナビは身の危険を感じ、その場から全速力で逃げ出した。
この後どうなったのかは、二人以外に誰も知らない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる