転生ぱんつ

えんざ

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一章

四話 飴玉 ※改稿12/6

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 冒険者登録をすましたウルセーナは、ナビと共に宿付き酒場を後にした。
 そして、宿付き酒場を出てすぐの大通り。

「うっ、ダメだ……。もう死ぬ……」

 ウルセーナはあまりの空腹に、ぐったりとして座り込んだ。
 そのままぴくりとも動かなくなったウルセーナの姿を見かねて、ナビはウルセーナの肩をぽんと叩いた。

「んー……?」

「ウルセーナさん、これどうぞ。舐めちゃってください」

「え?」

 ウルセーナが振り返ると、ナビは飴玉を手のひらに乗せ、差し出していた。

「なんだ飴かよ。まあ何もないよりはましか。サンキュ」

「何ですか、そのたかが飴的な言い方は。私のとっておきの飴玉なんですからね、それ。大事に食べてくださいよ」

「分かった分かった。じゃあいただきまーす!」

 ウルセーナは、飴玉を空高く放り投げた。

「――え! ちょっと、何しちゃってるんですかウルセーナさん!」

「まあ見てなって」

 ウルセーナは、口を大きく開けて上を向いた。
――その時、カラスが上空から猛スピードで向かってきた。
 そして空中で飴玉を華麗にキャッチすると、あっという間に飛び去って行った。

「カー、カー、カー……」

 あまりの一瞬の出来事に、二人はしばらくの間空を見上げたまま沈黙した。

「ちょっとウルセーナさん! 酷いじゃないですか、私が大事にしてた飴玉なのに……。ううっ、うえーん」

「まさか丁度よくカラスが来るとは思わないだろ……」

 ナビはしゃがみ込んで泣いている。

「おい、飴ぐらいでそんなに落ち込むなって。それとさナビ、あんまり言いたくねえけど、パンツ見えてるぞ」

「えっ、ちょっと、もー! なんでこんな時に人のパンツ見てるんですか! 変態! もうウルセーナさんなんか知りませんから!」

 ナビは無神経なウルセーナの言葉に怒りをあらわにすると、泣きながらどこかへ走り去っていった。

「おい、ちょっ待てよ!」

 と、ウルセーナがナビの後を追おうと思った矢先――。

「――キャァァァ!」

 ナビがウルセーナの方へ帰ってきた。

「え! ナビ? 戻ってくるの早! つーか速!」

 ナビはカラスに咥えられていた。
 カラスは地面ギリギリの低空飛行で、ウルセーナに向かって飛んで来る――。

「――カァァァ! カァァァ! カァァァ!」

「助けてー!」

「うわっ――!」

 カラスはウルセーナをギリギリで飛び越すと、そのまま上昇した。

「また見えてる! あいついつからパンツキャラに……って、そんなこと言ってる場合じゃねえ。あのカラスやたら凶暴になってたし、早く追いつかないとナビが――」

 ウルセーナは走ってカラスの後を追った。
 カラスが通った後は、屋根や看板、カツラなどが道に散乱している。

――そして街の外。

「はぁ、はぁ、街の外まで来ちまった。モンスターがいたらやばいな。武器が木の棒しかねえ。そこらへんに落ちてる石ころの方が役に立ちそうだ。よし、拾いながら追うか」

「カァァァ! カァァァ!」

「助けてー!」

 カラスはナビを連れ、街を出てすぐの大きな一本杉の頂上にいた。
 そこには巣があり、カラスはナビを咥えて雛たちに餌やりをしようとしていた。

「ナビ! どうする、あの高さじゃどうにも……。いや、さっきの石ころで――!」

 ウルセーナは石ころをカラスに向けて全力で投げつけた。
 石ころは時速百キロ弱で飛び、都合よくカラスの顔面を直撃した。

「クェェェ……」

『ウルセーナはレベル2になった』

「レベル上がった! って今はそれどころじゃねえ!」

 カラスはナビを咥えたまま落下する。

「落ちるー! ウルセーナさーん!」

「ナビ! ……あいつまたパンツが。くそっ間に合え――!」

 ウルセーナはナビの落下点まで走り、ダイブした――。

「――ぐへえぇっ!」

 ナビはウルセーナの背中の上に体を重ねている。

「いてて……」

 ナビは起き上がるやいなや、自分の下敷きになったウルセーナに気付く。

「ウルセーナさん! 大丈夫ですか!」

 ナビは懸命にウルセーナに呼びかけるが反応がない。
 ウルセーナは意識がなく、もう虫の息だった。

 ナビは背の高い大きな一本杉の頂上から落下し、ウルセーナに直撃した。
 落下の衝撃を全てウルセーナが吸収したことで、ナビの体には傷一つついていない。しかし、逆を言えば衝撃の全てを吸収したウルセーナが無事であるはずはない。

「ウルセーナさん……、私の為に……」

 言いようのない不安にさいなまれる中、ナビは一緒に落下したカラスが、口から飴玉を吐き出しているのに気付いた。
 飴玉はカラスの唾液と土でドロドロに汚れている。

 ナビはうつ伏せに倒れたウルセーナの体を必死に仰向けにすると、ドロドロに汚れた飴玉を手に持ち、服の袖で出来る限りその汚れを落とした。
 そしてウルセーナの口をこじ開け、その中に無理やりねじ込んだ。

「ウルセーナさん、お願い、死なないで……!」

 ナビは胸の前で両手を重ね、神に祈った。

 が、ウルセーナの反応はない。
 もし、飴玉の効用でウルセーナが復活出来るとしても、口の中に入れただけでは効果を期待できない。それは身体に飴の成分が吸収されていないからだ。
 効果を期待するのならば、まず飴玉を溶かし、胃まで流し込み、飴の成分をしっかりと身体に吸収させなければならないだろう。

 ナビはウルセーナの体を横に倒し、口から飴玉を取り出した。
 取り出した飴玉を自分の口の中に含むと、舌と唾液を使って溶かし始めた。
 ある程度口の中で飴が溶けだしたところで、再度ウルセーナの体を仰向けにした。
 そして、ウルセーナの頬を摘まむようにして口を開かせると、ナビは自分の口の中で溶けた飴を、零さないよう直接ウルセーナの口に流し込んでやった。
  ナビはそれを何度となく繰り返した。

 そして、ナビの口の中の飴玉が溶けてなくなってきた頃だった。

「ごほっ……! げほっ……!」

 ウルセーナは喉に詰まったものを吐き出すように咳き込んだ。

「おえっ! がはっ……!」

 ウルセーナは上体を起こし目を開くと、間近にあるナビの顔に気付いた。

「うわあ! ナビ! ……な、何だよお前、びっくりするだろ。近えよ」

「……う、ウルセーナさん……! はぁ、良かったぁ……」

 切れた緊張の糸が、ナビの涙腺を緩ませ涙をぽろぽろと流し始めた。

「あーそっか、俺気を失ってたんだな……。ナビも無事みたいだし、良かったな。もしかして死ぬと思った? はははっ」

 ナビの苦労など知るはずもなく、ウルセーナは能天気に笑った。

「ぐすん、もーふざけないでください。こっちは大変だったんですから」

「そっかそっか、悪い悪い。怒るなって」

 そう言うと、ウルセーナは自分のお腹に手を当てた。

「あれ? 腹が……、何かすげえ満腹感があるんだけど、何だよこれ?」

「飴玉の効果です」

「飴玉? 俺食ってないけど……」

「ウルセーナさんが気を失ってる時に私が食べさせました」

「え? 何でそんなこと……てか、飴はカラスに食われたんじゃねえのかよ」

「カラスの食べかけをウルセーナさんに食べさせたんです」

「は! きったねえなあ! 何してくれんだよ嫌がらせかよ! おえっ、おぇっ!」

「もおぉぉ! 失礼ですねえホント! 汚くないですよ!」

「汚いに決まってんだろ。ペッ、ペッ!」

「……もういいです。でも、それを食べなきゃ死んでたかもしれませんから……」

「え、マジ? 何か特殊な飴だったのか?」

「だから言ったじゃないですか、とっておきの飴玉だって。私のお母さんがもしもの時にって、私に持たせてくれた魔法の飴玉なんですからね。栄養満点で元気が出て、お腹も一杯になって、大体の怪我なら治せちゃうすごい飴玉なんだよって、お母さんが言ってました」

 ナビは頬っぺたを膨らましながら自慢げに話す。

「へーすごい飴だな。だからカラスがあんなに凶暴だったのか。つか、そんな大事なもの俺にくれたのか? そりゃ泣くよな、あんなことされたら。悪かったな」

 ウルセーナは顔の前で手を合わせると頭をへこへこさせて謝った。

「もういいですよ。それに私も説明不足でしたから、しょうがありません」

「いっ、痛え! ううっ……」

「どうしたんですか、ウルセーナさん? まだ体が痛む……え? 何ですかこれ? すごく、大きくなってきてます! ウルセーナさん!」

「おい何だよこれ! いっ、痛って! 元気になるってこっちもかよ! なんつーもんを娘に持たせてんだ、お前の母親は! わっやばい、逃げろナビ! 俺が俺でなくなってしまう前に……!」

「えっ……!」

 ウルセーナの股間が異常に膨れ上がる。それは、例えるなら噴火寸前の火山だ。 股間からバチバチと布が破れる音。

「――うわあああ! 逃げろナビー!」

 そして、火山は噴火した。

「――えっ! ……わわわ、わあああ!」

 ナビは身の危険を感じ、その場から全速力で逃げ出した。

 この後どうなったのかは、二人以外に誰も知らない。
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