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しおりを挟むその日、目覚めたオレは、自分の目を疑った。
隣には、聞き慣れたセリの寝息と体温と匂いを確かに感じるのに、天井はセリの定宿のそれとは違う色合いになっている。
──………………………………は?
オレは思わず上体を起こそうとした。
けれど、どういう訳か腰回りに力が入らず、起き上がることができなかった。
「…………ん!」
起き上がろうという気合いと共に、声が漏れる。
するとセリが身動ぎ、ゆっくりとまぶたを上げた。
現れた瞳は、オレを映し…
「スイ……」
心地良い彼の声と共に左手が持ち上がってオレの方へ伸びてきた。
そのまま引き寄せられると、オレはセリからの《おはようのキス》を額に受けた。
「おはよう。今日からは、毎晩スイと一緒に寝られるよ。」
「は? だってお前昨日は…」
「うん。もう会いには『来られなくなった』って言った。
でもさ、逆なら良いんだ。スイがこちらへ来れば良いんだって気付いたんだ。良い案だろ?」
どうやらここは、セリに取ってのホームグラウンドのようだ。
「あのなぁ! 急に連れて来られても、オレこんなに高そうな部屋、金払えねぇぞ。」
「あぁ、気にしないで。ココはタダだから。」
「いや、金の問題だけじゃねぇよ。オレ帰る。」
「ダメだよ、スイ。ココからは、僕か君がこの世を去るまで出られないんだ。」
「は? そんな場所あるかよ? どこだ?」
すると、ドヤ顔のセリは言った。
「後宮だよ!」
「は?」
オレは、あまりの返しにそのまま意識を失った。
次に目を覚ました時、オレは女物の簡易なドレスを着たまま、さっきとは別の部屋のベッドに寝ていた。
枕元には1枚のメモがある。
・会話を早く終わらせたい時→『申し訳ありませんが、少々お花摘みに…』
・挨拶は全て《ごきげんよう》
・着替えは右の扉の中のものを自由に使って。
以上は注意事項のようだ。
そうしてベッドに腰掛けていると、
コココンッ
こちらが返事をする前に扉が開き、お仕着せ姿の中年女が2人入ってきた。
「「本日よりスイ様のお世話をさせていただきます。」」
「それでは早速…」
「お召し替えを……」
「ギャーーーーー!!!」
身ぐるみ剥がされたオレは、気付いたら《スイレン宮の君》と呼ばれる、国王の妃の1人になっていた。
「ぁあっ…セリ! もう、イきたい!!」
「もうちょっと我慢できるだろ?」
「イヤだ! 早くコレ、解いてぇ!!」
「僕がイくまで待っててくれる約束だろう?」
「あっ…いやぁ、セリぃ、ぁあんっ……」
夜、今日も国王のお渡りはスイレン宮ですと言われたそばから、セリはやってくる。
今日はまだ風呂に入っていないと言うのに着ている物を剥かれ、寝台に転がされたと思ったら、オレの両手首とオレの欲望の吐き出す部位を根元から、セリの瞳の色のリボンで縛られた。
「かわいいよ、スイ。今日もたくさん哭いて。」
言いながら、セリの舌がオレを攻め立てる。
そうして舌がオレの肌を這う度にゾワゾワして、落ち着かなくなる。
それから、セリが欲しくてしょうがなくなる。
「スイ、スイだけを愛してる。」
「セリぃ、オレも。」
「じゃあ解くよ、一緒にイこう!」
「「ぁあああぁぁぁあああーーーー!!!」」
「今日もスイレン宮から聞こえる王の声は凄まじいですわね。」
「いくら待っても、王のお渡りはありませんし……」
「王の唯一の王妃になるのは諦めて、早めに下賜されちゃった方が、幸せかもしれないわね。」
「そうね。」
そんなこんなで、その数カ月後にはスイレン宮の君が唯一の後宮の主となっていた…………というのは、スイはまだ知らないのだった。
おしまい
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