歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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1人暮らしを決意していた、18歳頃

浄化の聖女

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どのくらい眠ったのだろうか。
目が覚め簡単に身支度を整えると、階下へ向かおうと扉を出た時だった。

「おっと…!」
「ごめんなさい!」

誰かにぶつかってしまい、咄嗟に謝った。

「あら、貴女聖女ね。」

少し棘のあるような声に顔を上げると、薄い水色の瞳に銀色の髪の、私より少し年上の女性が腕組みをして私を見下ろしていた。

「行きましょ、レオン。レオンは私の魔法師でしょう?」
「はいはい。まったく聖女様ってのは人使いが荒いな。」

すると、階段へ下りる廊下へ曲がったところから前を行く女性が手招きしている。
駆け寄った、私がぶつかった男性が肩に白のローブを担ぐようにして持って向かえば、襟元のシャツを女性に引かれて、

「ん!」
チュッチュ…ちゆうううーーーーっちゅっ…
廊下に響くのは、リップ音だ。

「これでレオンも浄化されたわね。もう、アタシ以外のオンナに触れないで!」
「はいはい…」

2人が階段を下りる音が聞こえなくなってから、私も追うように階段を下り、台所へ向かうと、その扉の前に先程の魔法師の男性がこちらに背を向けて立っている。
そしてその向こう側には、少し背伸びをした先程の女性と、その向こうには…

「ちゅっ…ふっ…じゃあ、また諸々終わったらみんなで会いましょうね。」
「わかった。」

女性が離れると、口元を手の甲と袖で乱暴にゴシゴシと拭うウルの姿…

女性と魔法師は女神像のある礼拝室へと向かう。
私はウルを見ていたけれど、ウルは私に気付いていないみたいだった。






暫くすると、女性と魔法師が戻って来た。

「それじゃ、浄化に行ってくるわ。」
ちゅっ
「クソ、また!」
女性は再びウルにキスをして、悪態をつくウルに、魔法師の男はヘラヘラと笑いながらひらひらと手を振る。


女性と魔法師はウルと知り合いのようで、気負わない挨拶をすると再びこちらへ向かってくる。

「彼はアナタには勿体ないのではなくて?」

女性は私の前で足を止めると不思議そうに言った。

「あぁ、いつものことだから気にすんなよ、歌姫聖女ちゃん。」
「あ、はい。」

魔術師の男性のフォローに答えると、女性と魔術師は私の前をさっと通り過ぎて行ってしまった。

「ほら、着ていかないと。」
「ありがと。」

魔術師が指に引っ掛けていた白のローブを女性の肩に掛ける。
それは正しく聖女のローブだった。

女性…いや、聖女の履くヒールの音が上階へ向かう。
どうやら転移陣でやって来て、再び転移陣で何処かへ向かうようだ。

「あれは、《浄化の聖女》だよ。寄宿学校の同期だったんだ。」

人の気配に振り返れば、ウルがすぐ横に立っていた。

「《浄化の聖女》?」
「あぁ。キスで浄化するんだと。」

ウルと聖女がキスをしていた場面が、私の頭にふわりと浮かぶ。
どうやらそうやってボーッとウルを見ていたようだ。

「どうした?」

ウルが私の顔を覗き込む。
何だかウルの口元ばかり気になってしまう。

「ん?」
「なんでもない!」

私はウルに背を向けると、女神に朝の『祈りの歌』を捧げに向かった。


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