「暑い」から始まる異世界ショートショート集 (シメ)

325号室の住人

文字の大きさ
7 / 63
騎士団副団長✕料理当番の見習い騎士

登場人物紹介を兼ねた、はじまり

しおりを挟む

「暑い…」

俺は顔の汗を袖で拭いながら、溜め息をついた。



俺は1番下っ端、見習い騎士のパルゥ。

この騎士団の詰め所の料理当番は、見習い騎士が交代で務めることになっている。
明日は見習い騎士が1人入隊することが決まっているため、俺の1年間の料理当番も今日が最終回なのだ。

俺は、コンロの右側にある大鍋をこれまた大きなお玉で混ぜる。
作っているのはシチュー。
ミルクが表面に薄い膜を張らないように、あまり放置してはいけないのだ。

コンロの左側では、ローストビーフ(もどき)を作っている。
この、牛に似た魔獣は毒素を内臓に持っており、仕留めたらすぐに取り出せば人体に影響は出ないのだ。

「あと少し火を入れれば仕上がるんだけどな。」

俺は、それから数分間だけに火を入れると、蓋をしてコンロから下ろし、再び鍋を混ぜる。

「こちらのシチューもとろみがついてきた。これでパンが焼き上がれば、もう出来上がりだな。」

シチューの大鍋を火から下ろすと、右の壁沿いにある窯へ向かう。
鉄の扉から頬に感じる熱で中の温度を確認すると、ミトンを嵌めて扉を開く。

ボワァ…

薪の爆ぜる音と、パンの焼ける匂いがする。
長い竿のようなものを使って、パンを取り出すと、網の上に並べて冷ます。

あとは、冷めてからスライスして、パンにや野菜を挟んだら出来上がりだ。

俺の、この1年の集大成だ。

1年前…俺に料理を教えてくれた、この騎士団の副団長の姿を思い出す。

すっかり傷んでしまった藁みたいな色の金髪に、空色の瞳。
金髪蒼眼のこの国の王族とは遠いながら親戚にあたる副団長のフェリオは、元貴族とは思えないほど生活能力の高い人だった。

芋の剥き方も、肉を美味しくする切り方も、ミルクの膜のことも…
教えてくれたのはフェリオだった。

いや、これでは料理のことしか教わっていないように思うな。

それだけじゃない。
副団長は、俺に…
匙の持ち方も、騎士団の1日のルーティンも、風呂の入り方も掃除の仕方も教えてくれた。

田舎では、山の上の方にある温泉に浸かる他は川で行水程度。その辺りに生えてる野菜や毟った木の実を口に入れる食事や、男衆が狩った巨大魚を焼いて食べていた。

そんな俺に、この王都の一般的な水準の平民の暮らしを教えてくれたのだ。
俺にとって副団長は、上司であり血の繋がらない兄貴であり師匠でもあった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...