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しおりを挟むその日も窓から脱出したアンリは、隠れ家で着替えて冒険者ギルドへ向かった。
エリーが受付で手を振り迎えてくれる。
そのままそちらへ向かうと、エリーが白い封書を差し出した。
「ちゃんと報告に来なさいよ!」
若干ニヤニヤした表情のエリーから受け取ったのは、隣国の性転換手術ができる病院からの返事だった。
出した手紙より大きな封筒、そして厚みに、ドキドキとワクワクが止まらない。
エリーにお礼を言ってから隠れ家に戻り、開封すると、中にはたった1文。
『《ポーラ》という名前の患者、及び同条件に該当する患者はこちらの病院にはおりません。』
そして、封筒にはアンリが出した手紙も同封されていた。
その所為での厚みだったようで、アンリは自分の手紙を握り潰すとゴミ箱へ投げ捨てた。
──ポーラ!!
アンリは、ポーラに貰ったピアスに触れる。
──やっぱり、自分の足で隣国に行きたい。
でも、砦でのことを思い出せば、父母と話したり説得したりが必要になるが……
勝手なタイミングでアンリの退学手続きをしてしまったり、縁談で呼び戻したり、正直なところ、父母に自分の意志を伝えたって何も実現しないのは目に見えている。
「はぁ~」
アンリの中で、ポーラ捜索へのモチベーションは砕けてしまった。
もうポーラを探すのはやめる旨をエリーに伝えようと、アンリは午後になって再び冒険者ギルドへ向かった。
すると、受付で暇そうにしていたエリーと目が合って、ギルドの2階でお茶を飲みながら経緯と結果、それからもうポーラを探さないことに決めたと伝えた。
エリーは、アンリの初恋が成就しなかったことを慰めてくれて、そのまま自棄食いに付き合ってくれた。
その時、雑談の1つとして王女の婚約の話をエリーから聞いた。
国王からの通達は、アンリが脱走して冒険者ギルドへ出入りする頃には引かれていた。
何故かと思えば、王女が新たな恋をして、その者との婚約が決まったのだという。
新たな婚約者も冒険者だが、公爵家の4男だったそうでそのまま王家に婿として入ることになった。
ちなみに…………
《王女》は国に1人だけだが、代わりに兄王子が王太子含め8人いらっしゃるので、こうしてワガママ王女の相手が決まったことで、国は安泰だと、民達は歓喜したという話だった。
アンリは、また家出して冒険者に戻るのも有りかもしれないと、左耳のピアスに触れながら思考を巡らせた。
ポーライルが次期当主と認められてから、早いもので半月が過ぎた。
アンリについては何の対応もできないまま、ただひたすらに、次期当主としての学びに勤しむという日々だった。
とても充実した毎日だった。
そんなある日、父の執務室へ呼ばれて向かった。
「ポーライルよ、仕事だ。
実は隣国の王女殿下が婚約式を執り行うこととなり、我が国の第2王子が招待された。
ポーライルには、王子の影として同行の依頼が来た。」
「隣国…王女殿下ですか。」
思い出すのはアンリのこと。
ポーラは無意識に、左手の小指の赤い石に触れた。
「あぁ。何でも、ずっと恋心を抱いていた国の冒険者との婚約が決まったのだそうだ。
王子はたくさんいるが、王女殿下はお一人だから、相手が冒険者でも国王は認めたそうだ。」
「冒険者? あの、その者の名前は……?」
「名前か……確か、ア…ア……アーリ? アール? そんな名前だったなぁ。」
「隣国の冒険者の…アーリ、ですか?」
ポーライルは呆然自失となったが、同行の了承はしっかりと伝えてから、父の執務室を後にするのだった。
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