君と秘密の部屋

325号室の住人

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僕はこの世界がどんな世界が知っていた。

この世界は、僕の前世で流行っていた、乙女ゲームの世界だ。

なぜ知ってるかって?

僕は1学年下だから直接的には関わってこないけど…
ほら、この窓から見えるだろう?
あの噴水に今わざとダイブしたのが、ヒロインのシャリリア。
元は最下層の平民だったのが、とある伯爵の駆け落ちした娘の子どもだったと、最近その家に引き取られたご令嬢だ。

そして、そばで呆然としているのが、悪役令嬢のアリッサ。

駆け付けて来たのが筆頭攻略対象者であるこの国の第2王子デリーと、その側近になるという魔法系や騎士系や国王補佐に就く各家の次男クンたち。

あぁ、可哀想に。
ヒロインが勝手に飛び込んだのに、悪役令嬢の所為にされちゃって!

ちなみに悪役令嬢は、デリー王子より数日早く生まれただけという、お手付きメイドの娘。
その婚約者は魔法師連盟会長の孫で、あのオレンジ色の髪の男の兄だ。

とっても優秀だった第1王子とその御一行様がこの春卒業し、タガが外れた次男クン連合が寄って集ってアリッサを虐めてる…そんな構図だな。

アリッサの婚約は3年前くらいだったか。彼らの学園入学直前に発表された。

それまで密かにアリッサに懸想していたデリーの所為で、逆に全く関係ないシャリリアに目を付けられてしまって…
本当に気の毒だよな。

このあと、アリッサはもっとヒドイ目に遭うんだけど…
だからここから見えるあの御一行様は、第1王子により断罪→この世界から《さよなら》される運命だ。

ちなみに処刑ではない。
召喚の逆、転移させられるんだ。ランダムに、異世界へ。



さて。名乗り遅れた僕は、とある田舎の子爵んの子でヒューバートと言う。

前世では性対象としてはノーマルの腐男子で、乙女ゲームもキャラが好きでプレイしていた。
それこそ設定資料からファンブック、原作者のSNSまでしっかり読み込んでいた。

そんな僕がこの世界に生まれたら、どうなると思う?

《僕はモブ》ときちんと弁え、2次創作に走るよね…

という訳で僕は、この、僕以外の人間が全く寄り付かない第3書庫準備室という名の物置きで、せっせと創作活動に勤しんでいる。

そして、教科書サイズの紙束を和綴じにして裏のルートで有料でBL愛好家の女子達に回覧させているのだ!

ウチは裕福とは言い難いからね。
小遣いは自分で稼がなきゃ、新しいノート1冊すら買えないんだよ。





そんなある日のことだ。

いつものように第3書庫準備室に向かう道すがら、僕はとある男に尾行された…らしい。

《らしい》と言うのは、この部屋の僕の文房具の位置がズレていたこと、それと、とある人物が僕を待っていたからだ。

尾行の話もその人物に聞いた。

その人物というのは僕の作品の主人公で、そりゃ2次創作とは言え本名は名乗らせてないんだけどさ。
まぁ、読む人が読む人なら連想できるだろうなってカンジでさ。

現れた訳だよ。

読むはずがない、でも読んでしまって、主人公を正しく連想できてしまった、僕の作品の主人公である、第2王子デリー。


彼の設定資料にはこんなことが書かれていた。

『アリッサの婚約が決まった頃、デリーはアリッサの婚約者であり同じ魔法師の兄弟子であるメントから告白される。
自分はデリーが好きなのだと。だからデリーの初恋相手のアリッサと婚約者になれば、デリーが自分に興味を持つのではないかと考えたのだと。
そこでデリーはアリッサをメントから守るため、好きじゃない振りをしようとアリッサをいじめる奴らに加担することになった。』
と。
…って言うか、父親同じなんだしどうこうならないだろって?
それがどうこうなってしまう。

お手付きになったものの、その前に当時付き合っていた兵士カレシともヤってたメイドは、彼氏に何も言えないまま王の執務室の仮眠室に監禁→幽閉→出産で、生まれたのがアリッサなんだ。

つまりアリッサは、彼氏の方の子だったって訳だ。
まぁ、現時点でソレは誰も気付いてない案件なのだが。


で、そんな訳で俺はそこに目をつけた。
その告白の時にデリーはメントに強引にキスをされた。

以来、男との交わりに興味を持ってしまった。

そんな流れで、どんどん男と関係を持ってしまう…という話。

ここは学園だし、R指定としては匂わせ程度のR15で留めている。

登場人物に本名は名乗らせていないけどさ…
判る奴は判るってヤツだよ、うん。




で、話を戻すと……

僕は今、設定資料を取りに来た第3書庫準備室の一番奥で、金髪碧眼の第2王子殿下のデリーに壁ドンされながら、

「いつから知っていたの?」

と、迫られているんだ。


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