悪役令嬢の育て方 本編終わり

325号室の住人

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元悪役令嬢、スピード婚する 2

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「…という訳で!」

男は立ち上がりながら言うと、私に左肘を突き出す。

──エスコート?

私がその肘に掴まると、男は私を離さないぞというつもりなのか私の右手の上から自身の右手を被せ、
「では、ご案内します。」
と、微笑みを見せるとゆっくりと歩き出した。

どうにもこうにも私を逃がしたくないのか、使用人が私たちを取り囲むようにしてついてくる。

エントランスの大階段の前を右へ。その先にはそれまでの廊下に続く木目のままの茶色い片開きの扉ではない、白くて大きな両開きの扉があった。

それまで私と男とを先導していた使用人が、左右に分かれて扉を開けば、そこは午後の陽射しが眩しいほどに射し込む、庭側の全面と少し張り出した分の屋根がガラスでできた、サンルームだった。

サンルームは一般的な屋敷で家族が寛ぐためのサロンの様式で、家具の全てが白に金の縁取りでできている。

私と男は、白いグランドピアノの前にある、猫足の、カウチに座る。

大男が寝転がれそうなカウチの肘掛け側に私、その隣に男という順番なのだけれど、このピタッとした距離感は完全につい数分前に出会った男女のソレとは違うと思う。

まぁ、乙女ゲームなんかの溺愛ルートみたいに膝に乗せられるのに比べたら、前世の電車のシートみたいなモンだし全然我慢できるのだけど…

私は、自分の右側で私の右手を弄んでいる男へ顔を向ける。
裏なんてなさそうな感じにニコッと微笑まれ、慌てて顔を背ける。

そういえば私、さっきの婚姻契約の魔法が初めてのキスだったのよね…
柔らかな表情で私の右手へ視線を落とす男の横顔を、今度はチラリと盗み見る。
銀に近い金髪に同色の長い睫毛、先程より少し細められた、でも存在感はあるエメラルドの瞳、高い鼻に緩む頬、先程の感触では何も塗ってないカサついた感じがあった、血行の良い色の唇…

──ハッキリ言って、好きな顔です。

私は、面食いだった。



少しして、使用人に何かを耳打ちされた男は、私に断りを入れてから退室する。

でも、次にやって来た時には、なぜか腕にほぼ生まれたての赤ん坊を抱いていた。

男はそのまま私の膝先に跪くと、真面目な表情で口を開く。

「ローズマリアンナ、どうか私と一緒にこの子を悪役令嬢に育てて欲しい!!」
「はぁ?」

間抜けな返答になってしまったのは仕方ないと思う。

「まずは、この手紙を読んでくれ。これは僕の姉からの手紙だ。
僕がまだ成人前に、姉は自由な婚姻を望んで出奔したんだが、その姉が一昨日姿を見せたんだ。このと一緒に。」

男は言うと、私に1枚の紙を手渡した。

受け取ってチラリと紙を見てから男の方を見れば、男は静かに頷く。
けれどそこで腕の中の赤ん坊が泣き出してしまい、男は立ち上がってホイホイとあやし始めた。

私は1つ溜め息を溢すと、その手紙を開く。

中にはこんなことが書かれていた。


『親愛なる弟へ
私の娘の名はルイーズといいます。
みんなで頑張って、ルイーズが立派な悪役令嬢になるように育ててください。
魔窟の森に続く街道にある小屋にいれば、ローズマリアンナという名の救世主がみんなを助けてくれるから、安心してね。
親不孝な姉、シャンテ』


「は?」

私は小さく声を出した。
けれど、赤ん坊の泣き声の方が何倍も大きくて、男には聞こえなかったみたい。

──どうして私のことを知ってるの?

もしかして、この世界って何かのお話の世界なのかしら。
私は確かに日本からの転生者でラノベを嗜んではいたけれど、実は私にはローズマリアンナも今回出てきたルイーズも、全く心当たりがなかったのだ。

でも、少なくともシャンテさんという人は、私が元悪役令嬢で、王都から追放されてあの小屋へやって来ること、時期も含めて全部知っていたということになる。

…となると、私はシャンテさんに会ってここがどんな話なのかを確認した方が良いのかもしれない。

「あの、お姉様は?」
「実は昨日、ルイーズの服を買いに行くと言って、隣領の街へ向かったんだ。だから、用事が終われば戻る…はず…なんだけど……」

何だか煮え切らないなとは思ったわ。
だけど、ここで待つ他にシャンテさんと接触するのは難しそうだし…

だから…

「わかりました。ルイーズ様のお世話、お手伝いさせていただきます。」

気付いたら、そう答えてしまっていたのだった。


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