悪役令嬢の育て方 本編終わり

325号室の住人

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元悪役令嬢、初夜が明けて 途中からジン視点あり

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「…んぅ……?」

胸元が温かくて目が覚めた。
たぶん朝。瞼の向こうが明るいもの。
でもまだ眠っていたい。
人肌なのかな? 温かさがとても心地好い感じがしたから。

そういえば私、昨日会った方と婚姻して、昨晩はその方と一緒にベッドに入っ…

──!! もしかして、この温もりって…?

私はそっと、その温もりから離れる。
それから、気合いと共に瞼を上げながら体を持ち上げると…

私が先程まで居た場所に居たのは、小さな、頭?

──もしかして…?

すると、ちゅっちゅと何かに吸い付くような音が聞こえ、小さな顔の小さな眉間にシワが寄る。

──あ、泣く!

私は慌てて、ルイーズ(?)の傍へ戻る。
すると、私の首元に顔を埋めるように何かを探すような仕草をすると、そのまま眠ってしまった。

その時、

「ルイーズ…」

小さなルイーズの向こうから大きな手がこちらへ伸びてきて私の背中へ触れると、トントンと子どもを寝かしつけるみたいに優しく叩き、その手が私の腰まで下がるとぎゅっと引かれる。

私の体はルイーズの体と一緒にルイーズの背中側へと動かされる。

咄嗟にルイーズの体を抱けば、その私の体ごと温かさが包んだ。

その人肌の温かさがとても心地好くて、腕の中のルイーズの寝息に合わせた呼吸をしていれば、次第に私の瞼は重くな……








ジン視点

いつも抱いて眠るルイーズの背中が昨日より大きいのに気付いたのは、もうすっかり陽が高くなった頃だった。



赤子というのはとても体温が高い。

ルイーズを抱いていて眠りについたと思って、執事長が出して来た、僕が赤子の時に使っていたというゆりかごに寝かせようとすれば、なぜかルイーズは必ず泣き出してしまう。

それが、ルイーズと対面した夜は眠気の限界が来てしまって、抱いたままベッドに横になったところそれまでが嘘のようにすやすやと眠ってくれた。
以来、僕は乳母から深夜にルイーズを受け取ると、一緒に眠っているんだ。



昨日、僕は婚姻の契約を結んだ。

姉の手紙にあった、ローズマリアンナという女性とだ。

彼女は、この辺境領ではあまり見かけないタイプの、女性としての主張が激しい体に豊かな黒髪で、対面した時にはとても挑発的な出で立ちだった。

これが王城の夜会なら嫌厭するけれど、彼女がルイーズを『悪役令嬢』に育てるための救世主となるのなら、『悪役令嬢』の意味もわからない今は絶対に逃したくないと思って婚姻の契約を結ぶことに決めた。

そんな訳で昨晩は彼女との初夜となったのだが、現れた彼女に驚いた。

化粧を落とし、慣習に倣った花嫁のナイトドレスに袖を通した彼女は、そりゃあ体の作りなど替えられないけれど、とても清楚で可憐だった。

そうなると、やはり出会ったばかりでコトに及ぶのは違う気がして、体の交わりは見送ることにした。

まぁ、同じベッドに服を着たままで眠りはしたのだけれど。
疲れていた彼女とは違って、最近の僕はその時間にはルイーズの相手をしているため、目は冴えてしまっていた。

それに、眠ってしまった彼女が寝返りを打つたびに聞こえる吐息のような声や、彼女の香りに誘われて、無意識の内に彼女に近付きたい欲求がムクムク…を、封じ込めるためにも、眠ってしまう訳にはいかなかった。



でも、やっぱりいつもの時間にはルイーズが眠らなかったようで、深夜にルイーズはこの部屋へやって来た。

そのまま、ルイーズを抱いたままいつもの通りに眠ってしまったのがいけなかったのだろう。

たぶん、熱源だけを頼りに寝惚けてしまったのもいけなかったのだろう。

目が覚めた僕は、なぜかルイーズを真ん中に、ローズマリアンナを抱き締めて眠っていたのだから。



僕は、ローズマリアンナの背中からそっと手を離すと、動く気配が出ないようにベッドから離れる。

それでも、ルイーズが起きてしまった時に備えて、着替えたり、この部屋に持ち込んだ仕事を片付けることにした。

不思議なことに、いつもなら僕が離れるとあんなに泣いてしまうルイーズは、ローズマリアンナが目を覚ますまで安心しきった表情で眠っていたのだった。


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