こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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パタパタと冗談のように小さな翼を羽ばたかせ、夜をベッドに、沈みかけた月を枕に、星空を天蓋に、少年は空を漂う。

彼女たちのおかげで楽しいひと時でしたね~。
色んな会話に、愚痴に、反応に、
そして何より新しいイタズラのアイデアをいただけましたし~。

新しいオモチャを見つけ待ちきれない子供のような顔をする少年。

まぁしかし、直ぐにというわけにはいかないですね~。
血も足りませんし、もうすぐ朝ですし~。

ふあ~ぁと欠伸をし、もうすぐ顔を出しそうな太陽から逃げるように少年はダンジョンに潜る。

本当に……楽しみですね~。

おおよそろくでもないイタズラをいつ実行しようかとわくわくしながら、少年は眠りについた。



 数日前の飲み会で、手伝いが来るという事が決まったむねをギルドの皆に伝えた。
みんなして

「それは良かった。」

 と歓迎してくれた。

 ただどんなモンスターが来るか全く情報がない為、とりあえず人間の言葉が使える事、全然強くない事は伝えたが果たして、鬼が出るか蛇が出るか。
とふと窓口の方に視線を向ければ、見た事のあるパーティが歩いていくのが見えた。

 数日前に私が勇者だと直感した者達のパーティ、
しかし今回の目的はダンジョンではないのかコツコツと通り過ぎていく。

 向かった先は観光課。
観光……ですか。
出来れば早いとこ強くなってもらって欲しいのですが……と内心思いながら、
報告する内容になるかもしれないとひっそり聞き耳を立てる。

「そそ、娯楽の集まった町。ダンジョンの帰りに一緒になった冒険者から聞いたんだけど、なんでも温泉だのカジノだの娯楽が集まった町があるらしいのよ。そこに行ってみたくて」

 相変わらず率先して喋るのは保護し……戦士さん。

「その様な町は無かったように思いますが……」

 しかしお目当ての町は無いのかパラパラと資料を探すも見つからないと観光課の人が困り果てている。

「ほら、やっぱり嘘だったんですよ」
「おちょくられてただけだってば」

あまり娯楽に興味無さそうな女性陣に言われるも、

「いや、そんな筈はない。あいつらは男のロマンを知っていた。そこに嘘はあってはならない」

 何でしょう……先ほどから聞こえる嘘という単語に妙に反応してしまうのはどこぞの吸血鬼さんのせいでしょうか。

「考えられるとすれば……現在復興中や再建中の町等で、正式に町ではない為こちらに情報が届いてない可能性ですが……」
「それ、多分それよ。んで?どの辺にあるの?」
「い……いえ、ですから、情報が届いていないのでどこにあるかと聞かれましても……」
「もう諦めましょうよ。温泉は入りたかったですけど、ギルドの人を困らせてはいけませんから」

 ようやく口を開いた勇者は心底残念そうに、娯楽を諦めようと提案する。

「ウーム……せめてもう少し情報があればなー」

 がっくりとうなだれ、トボトボと歩き始める戦士と、その後を追う3人。

「これからどうする?」
「レベルアップの為にダンジョンに行くに決まってるでしょ」
「戦士さんがこのテンションで大丈夫でしょうか?」

 とこれからの事を話しているまさにその時である。
ん?この資料は……。と目を通していた資料が気にかかり、

「あの、お時間少しいただいても?」

 私は勇者達に声をかけていた。

*

「どうかしたんですか?」

 呼び止められた理由が分からず勇者さんに尋ねられる。

「先ほどの会話が聞こえておりまして、今しがた報告書を確認していると気になる報告があったもので」

 私が気になった資料を見せる……も

「これ……何語?」

 すっかりモンスター語で書かれた資料だったことを忘れており魔法使いに聞かれてしまう。

「申し訳ありません。翻訳がまだでした。あるダンジョンマスターからの報告書なのですが、モンスターが穴を掘っていたらお湯が沸き出てきたとの報告でして……」

 ビュンッと旋風すら巻き起こさんとする勢いで戦士が私の手を握る。

「つまり娯楽町の情報かもしれないと、そういう事ですねお嬢さん!」
「か、確定ではありませんが」
「関係ねぇな!可能性があるならば行って確認するだけだ!行くぞ勇者。ほれ行くぞやれ行くぞそれ行くぞ」
「ちょ、ちょ、まっ、場所、場所聞いてないから!」

 強引に引っ張られそうになる勇者が戦士を制止する。

「こいつはうっかり、で?どのあたりのダンジョンからの報告なんだ?」
「中央街の北の山の麓の町はご存知ですか?」
「鍛冶の町だろ?あと酒場がいっぱいの」
「その町から西へ少し行ったダンジョンですね。そのあたりに新しく町でも作られていれば……」
「そこが娯楽の町の可能性大って事か。そこまでの地図と……後は付近のダンジョン情報も欲しいな」

 ふむふむと顎に手を当てながら戦士が言う。

「あら?てっきりギャンブル目当てかと思いましたが、レベル上げする気があったとは驚きですね」
「ギャンブルは息抜き、レベル上げはする。出来る冒険者はメリハリ付けた生活するのよ」

 テンションが落ちまくっていた先ほどまでの戦士はどこへやら、僧侶の皮肉にも対応するほどにテンションも回復しているご様子。

「ではいくつかダンジョンを見繕ってきますね。あと、あの辺りのダンジョンは軒並み火耐性が無いと苦戦するところばかりですので、防具は選んだ方がいいかと思います」

 そう言ってダンジョンの資料を探しに一旦自分の机へ。

「火耐性の防具なんて持ってました?」
「鍛冶の町によって調達すりゃいいだろ。あそこはほんとに何でも装備が揃うぞ」
「そろそろ僕も剣を新しくしようかな」
「それならあたしらの杖買ってよ。もうどれくらい替えてないか分からないじゃない」

 この人達も頑張ってるんですね……というか聞いてる限りでは女性陣の扱いが若干雑なのが気になりますが。

 そんな女性陣が活躍できそうなダンジョンを選んでおきますか。
この間より少し強いダンジョンでも問題ないでしょうし……

 選んだ3つのダンジョン情報を手渡し、魔法を使うモンスターが多めです、と助言し歩き去る4人の後ろ姿に頭を下げる。

「とりあえず良かったね。目的通り……になるかは分からないけど娯楽の町の情報も手に入ったし」
「ずっと気を張ってても仕方ないし、今回は息抜きって事で妥協するわ。けど、杖は新しいの買うわよ」
「温泉は初めて入るので楽しみですね~」

 3人が口々に喋る中、一人何かを考えている様子の戦士。

「あれ?どうしたの戦士?喜ばないの?」
「ん、……あぁ……いや、あの嬢ちゃん……あんな胸おっきかったっけ?」
「はぁ?……サイッテー。そんなとこ気にしてたの?」
「戦士さんは少し精神修行でも行った方がいいのでは?煩悩にまみれ過ぎですよ?」
「戦士さん……少し、頭、冷やそうか」

 口々にののしられるものの当の戦士は両手を頭に組み、再び何かを考えている様子。

(マデラ……ねぇ。モンスターの言葉使ってるみたいだし、それに聞こえてた……ねぇ。窓口から離れて書類仕事している中で俺たちの会話が聞こえるもんかね)

 一体何者よ……あんた。と。

 一瞬胸の事を言われピクっと反応するも、僅かにため息をつき気を落ち着ける。
さぁ、残った仕事を、と頭を上げるとそこには……

 帽子を目深まぶかに被り、翡翠ひすい色の瞳を僅かにうるませ、
人間で例えるなら10歳位の身長の少年が、プルプル小刻みに震えながら立っていた。

「あの……その……えと……お手伝いに……きましたのです……」

 最後の方は半ば消え入りそうな声ながらも、少年はそう言った。
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