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腹いせ
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ちっ、この宝箱はハズレか。
え?でも防具入ってるよ?
防具なんざ鍛冶の町で買えるものしか入って無い。宝箱の当たりは合成素材だ。
高く売れるし合成に成功すれば強さに拍車がかかる。
待って、嫌な予感がするんだけど。僕たちより前に冒険者がこのダンジョンクリアしてたよね?なんで宝箱が中身があるままなのさ。
それは補充されているからですよ。
…………一応聞くけど、誰に?
ダンジョンのマスターに決まってるだろ。
あぁ……やっぱり嫌な予感が当たったよ。
……カルチャーショックが多すぎるよ……ここ。
▽
溶けるスキュラの糸、自由になる体、涼しい顔の姉御、燃えて取り乱す吸血鬼。
ふむ、ちょっと範囲が広すぎましたか。
自分のブレスのせいでネクロマンサーの姿を見失ってしまいました。
「いきなり酷いです~。謝罪を要求します~」
地面を転がり、体についた火を消しながら吸血鬼が文句を言ってくる。
無言で自分の手のひらに爪を立て、少し景気よく血を流す。
そのまま手を吸血鬼に向けて振れば、
「きゃは~☆ありがとうございます~☆」
たった今までの不満はどこへやら、満面の笑みで食事を始める。
「魔力回復したならデバフをどないかしとくれ、力が出ーへん」
糸から解放された姉御は、ぐったりと地に膝をつく。
普通にデタラメばかりで知りませんでしたが、姉御たちってデバフ効くんですね。
不意打ち必須ですが。
「さて~、あのくそ程調子に乗った死体使いはどこに行きやがりましたかね~。すこーしだけ怒っているので~、実力を見せつけたいんですけど~」
吸血鬼がかなり不機嫌にそう言えば、
身体にかかったデバフが消え、気怠さが吹き飛ぶ。
ボコッ、ボコボコボコボコ……
まるで私たちのデバフが解かれるのを待っていたのか、壁から床から天井からとゾンビが出てきた。
出てきた……はずだった。
「不可解、何が起こった」
ミイラを出した本人も戸惑いを隠せないのか声が響く。
私たちの眼前には、出てきたはずの死体など、ただの一つすら無かった。
「あの~?その程度でどうこう出来ると思ったんです~?本当に僕を舐め過ぎです~」
先程よりさらに不機嫌に、そのデタラメはネクロマンサーに言い放つ。
「ふむ、……確かに舐めていたようだ。非礼を詫びよう。しかし、……」
言いかけて止まる。
「どうしました~?もしかして~、背後に出したはずのゾンビが消えた事に驚いてます~?」
「――っ!?」
「そもそも出せたと思ってるんです~。それ、全部”嘘”ですよ~?というかあなたはまだ僕の”嘘”の中なので~、そこで何しようが無駄です~」
吸血鬼……本気で怒ってますね。
ネクロマンサーに心の中で手を合わせつつ、姉御の方へ向き直ると……
山のように積まれたスキュラの大軍が……。
「あかんなぁ。こないな奴らに捕まったんか……ちょい自己嫌悪やわ」
などと言いながらスキュラをぶん殴り、山に放り投げていく。
うわぁ、やることない。
まぁこのまま放置でも構わないのですが……なるべくモンスターの消耗は押さえたいので、ネクロマンサーの元へ交渉しに足を運ぶ。
「先程の契約の件なのですが……」
「あ、もう少し待ってください~。まだ満足してないので~」
「却下です。早く休みたいので」
ぷくーと頬を膨らませ、ネクロマンサーに重ね掛けしていた”嘘”を解除する。
「さてと、契約の件ですが、……結ぶか消されるか、お好きな方を選んでください」
「……傘下に下る」
すっかり意気消沈し地面にのの字を書き始めるネクロマンサー。
「では、あなたの能力や強さ、あそこで山になっているスキュラの話を聞かせて頂けますか?」
「承知……」
*
ふむ、
ネクロマンサー
得意属性 無(ゾンビ呼び出し) ステータス弱体化 弱点属性(光 炎 土)
死体さえあればゾンビを呼び出せるが、ゾンビは動きが遅く、光 炎 土属性に弱い。
本人の戦闘力も並み。魔法もゾンビ呼び出しとデバフのみだがデバフは我々Sランクにも有効な強さ。
と。
スキュラも普通に居るモンスターと何ら変わりがありませんし、Bランク……いえ、Cランクの上の方程度ですかね。
デバフ使うモンスターもそんなに珍しくはありませんし、
スキュラの糸も油断さえしなけば大丈夫でしょう。……私達みたいに。
忘れないうちに明日にでも資料を作りに行きますか。
各村への配布は連休明けでいいでしょうし。
「マデラー?終わったかいな?」
自分が吹っ飛ばしたスキュラに治癒魔法をかけながら、姉御が聞いてくる。
「えぇ、ダンジョンの中の情報は十分です。後は、このダンジョンがどの辺りに出来たのかを確認しなければ……」
「もうめんどくさいので~、化け狐のダンジョンの山辺りにぶち込みましょうよ~」
……それ楽でいいなぁ。
世界に”嘘”ついてそこにあった事にするのか。
……使い方ですっごく便利だなぁ。その”嘘”の魔法。
使っている奴が曲者過ぎるのが問題ですが。
「あの辺に……か。ま、ええんやない?」
と山の頂上のダンジョンのマスターからの了承も得られましたし、
「では、神楽の社のある山の中腹に、このダンジョンはあった。という事で」
「了・解・で~す☆」
ダンジョン内を、夜が包み込む。
*
「最初はびっくりしました~。まさかあっさり捕まるとは思ってもみませんでした~」
「がっつり油断しとったな。他のダンジョンでもあんな感じなん?」
「今回はスキュラの警戒が強かったから、ではないですかね。流石に毎回毎回あんな事にはなりませんよ」
無事に……ええ、無事に姉御の旅館に戻って来てみれば、
ツヅラオを抱き枕に満面の笑みで眠るリリスの姿があった。
こうしてみると、ぬいぐるみを抱いたまま寝るお嬢様みたいですね。
流石に僕は陽の当らない部屋で寝ます~。
と吸血鬼は別の部屋へ。
私も寝相の悪いハーピィを脇にどけ、夢の世界へ入っていくのだった。
え?でも防具入ってるよ?
防具なんざ鍛冶の町で買えるものしか入って無い。宝箱の当たりは合成素材だ。
高く売れるし合成に成功すれば強さに拍車がかかる。
待って、嫌な予感がするんだけど。僕たちより前に冒険者がこのダンジョンクリアしてたよね?なんで宝箱が中身があるままなのさ。
それは補充されているからですよ。
…………一応聞くけど、誰に?
ダンジョンのマスターに決まってるだろ。
あぁ……やっぱり嫌な予感が当たったよ。
……カルチャーショックが多すぎるよ……ここ。
▽
溶けるスキュラの糸、自由になる体、涼しい顔の姉御、燃えて取り乱す吸血鬼。
ふむ、ちょっと範囲が広すぎましたか。
自分のブレスのせいでネクロマンサーの姿を見失ってしまいました。
「いきなり酷いです~。謝罪を要求します~」
地面を転がり、体についた火を消しながら吸血鬼が文句を言ってくる。
無言で自分の手のひらに爪を立て、少し景気よく血を流す。
そのまま手を吸血鬼に向けて振れば、
「きゃは~☆ありがとうございます~☆」
たった今までの不満はどこへやら、満面の笑みで食事を始める。
「魔力回復したならデバフをどないかしとくれ、力が出ーへん」
糸から解放された姉御は、ぐったりと地に膝をつく。
普通にデタラメばかりで知りませんでしたが、姉御たちってデバフ効くんですね。
不意打ち必須ですが。
「さて~、あのくそ程調子に乗った死体使いはどこに行きやがりましたかね~。すこーしだけ怒っているので~、実力を見せつけたいんですけど~」
吸血鬼がかなり不機嫌にそう言えば、
身体にかかったデバフが消え、気怠さが吹き飛ぶ。
ボコッ、ボコボコボコボコ……
まるで私たちのデバフが解かれるのを待っていたのか、壁から床から天井からとゾンビが出てきた。
出てきた……はずだった。
「不可解、何が起こった」
ミイラを出した本人も戸惑いを隠せないのか声が響く。
私たちの眼前には、出てきたはずの死体など、ただの一つすら無かった。
「あの~?その程度でどうこう出来ると思ったんです~?本当に僕を舐め過ぎです~」
先程よりさらに不機嫌に、そのデタラメはネクロマンサーに言い放つ。
「ふむ、……確かに舐めていたようだ。非礼を詫びよう。しかし、……」
言いかけて止まる。
「どうしました~?もしかして~、背後に出したはずのゾンビが消えた事に驚いてます~?」
「――っ!?」
「そもそも出せたと思ってるんです~。それ、全部”嘘”ですよ~?というかあなたはまだ僕の”嘘”の中なので~、そこで何しようが無駄です~」
吸血鬼……本気で怒ってますね。
ネクロマンサーに心の中で手を合わせつつ、姉御の方へ向き直ると……
山のように積まれたスキュラの大軍が……。
「あかんなぁ。こないな奴らに捕まったんか……ちょい自己嫌悪やわ」
などと言いながらスキュラをぶん殴り、山に放り投げていく。
うわぁ、やることない。
まぁこのまま放置でも構わないのですが……なるべくモンスターの消耗は押さえたいので、ネクロマンサーの元へ交渉しに足を運ぶ。
「先程の契約の件なのですが……」
「あ、もう少し待ってください~。まだ満足してないので~」
「却下です。早く休みたいので」
ぷくーと頬を膨らませ、ネクロマンサーに重ね掛けしていた”嘘”を解除する。
「さてと、契約の件ですが、……結ぶか消されるか、お好きな方を選んでください」
「……傘下に下る」
すっかり意気消沈し地面にのの字を書き始めるネクロマンサー。
「では、あなたの能力や強さ、あそこで山になっているスキュラの話を聞かせて頂けますか?」
「承知……」
*
ふむ、
ネクロマンサー
得意属性 無(ゾンビ呼び出し) ステータス弱体化 弱点属性(光 炎 土)
死体さえあればゾンビを呼び出せるが、ゾンビは動きが遅く、光 炎 土属性に弱い。
本人の戦闘力も並み。魔法もゾンビ呼び出しとデバフのみだがデバフは我々Sランクにも有効な強さ。
と。
スキュラも普通に居るモンスターと何ら変わりがありませんし、Bランク……いえ、Cランクの上の方程度ですかね。
デバフ使うモンスターもそんなに珍しくはありませんし、
スキュラの糸も油断さえしなけば大丈夫でしょう。……私達みたいに。
忘れないうちに明日にでも資料を作りに行きますか。
各村への配布は連休明けでいいでしょうし。
「マデラー?終わったかいな?」
自分が吹っ飛ばしたスキュラに治癒魔法をかけながら、姉御が聞いてくる。
「えぇ、ダンジョンの中の情報は十分です。後は、このダンジョンがどの辺りに出来たのかを確認しなければ……」
「もうめんどくさいので~、化け狐のダンジョンの山辺りにぶち込みましょうよ~」
……それ楽でいいなぁ。
世界に”嘘”ついてそこにあった事にするのか。
……使い方ですっごく便利だなぁ。その”嘘”の魔法。
使っている奴が曲者過ぎるのが問題ですが。
「あの辺に……か。ま、ええんやない?」
と山の頂上のダンジョンのマスターからの了承も得られましたし、
「では、神楽の社のある山の中腹に、このダンジョンはあった。という事で」
「了・解・で~す☆」
ダンジョン内を、夜が包み込む。
*
「最初はびっくりしました~。まさかあっさり捕まるとは思ってもみませんでした~」
「がっつり油断しとったな。他のダンジョンでもあんな感じなん?」
「今回はスキュラの警戒が強かったから、ではないですかね。流石に毎回毎回あんな事にはなりませんよ」
無事に……ええ、無事に姉御の旅館に戻って来てみれば、
ツヅラオを抱き枕に満面の笑みで眠るリリスの姿があった。
こうしてみると、ぬいぐるみを抱いたまま寝るお嬢様みたいですね。
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と吸血鬼は別の部屋へ。
私も寝相の悪いハーピィを脇にどけ、夢の世界へ入っていくのだった。
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