こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

文字の大きさ
31 / 75

腹いせ

しおりを挟む
ちっ、この宝箱はハズレか。

え?でも防具入ってるよ?

防具なんざ鍛冶の町で買えるものしか入って無い。宝箱の当たりは合成素材だ。

高く売れるし合成に成功すれば強さに拍車がかかる。

待って、嫌な予感がするんだけど。僕たちより前に冒険者がこのダンジョンクリアしてたよね?なんで宝箱が中身があるままなのさ。

それは補充されているからですよ。

…………一応聞くけど、誰に?

ダンジョンのマスターに決まってるだろ。

あぁ……やっぱり嫌な予感が当たったよ。

……カルチャーショックが多すぎるよ……ここ。



溶けるスキュラの糸、自由になる体、涼しい顔の姉御、燃えて取り乱す吸血鬼。

ふむ、ちょっと範囲が広すぎましたか。
自分のブレスのせいでネクロマンサーの姿を見失ってしまいました。

「いきなり酷いです~。謝罪を要求します~」
地面を転がり、体についた火を消しながら吸血鬼が文句を言ってくる。

無言で自分の手のひらに爪を立て、少し景気よく血を流す。

そのまま手を吸血鬼に向けて振れば、

「きゃは~☆ありがとうございます~☆」
たった今までの不満はどこへやら、満面の笑みで食事を始める。

「魔力回復したならデバフをどないかしとくれ、力が出ーへん」
糸から解放された姉御は、ぐったりと地に膝をつく。

普通にデタラメばかりで知りませんでしたが、姉御たちってデバフ効くんですね。
不意打ち必須ですが。

「さて~、あのくそ程調子に乗った死体使いはどこに行きやがりましたかね~。すこーしだけ怒っているので~、実力を見せつけたいんですけど~」

吸血鬼がかなり不機嫌にそう言えば、
身体にかかったデバフが消え、気怠さが吹き飛ぶ。

ボコッ、ボコボコボコボコ……

まるで私たちのデバフが解かれるのを待っていたのか、壁から床から天井からとゾンビが出てきた。

出てきた……はずだった。

「不可解、何が起こった」
ミイラを出した本人も戸惑いを隠せないのか声が響く。

私たちの眼前には、出てきたはずの死体など、ただの一つすら無かった。

「あの~?その程度でどうこう出来ると思ったんです~?本当に僕を舐め過ぎです~」
先程よりさらに不機嫌に、そのデタラメはネクロマンサーに言い放つ。

「ふむ、……確かに舐めていたようだ。非礼を詫びよう。しかし、……」
言いかけて止まる。

「どうしました~?もしかして~、?」

「――っ!?」

「そもそも出せたと思ってるんです~。それ、全部”嘘”ですよ~?というかあなたはまだ僕の”嘘”の中なので~、そこで何しようが無駄です~」

吸血鬼……本気で怒ってますね。

ネクロマンサーに心の中で手を合わせつつ、姉御の方へ向き直ると……

山のように積まれたスキュラの大軍が……。

「あかんなぁ。こないな奴らに捕まったんか……ちょい自己嫌悪やわ」

などと言いながらスキュラをぶん殴り、山に放り投げていく。

うわぁ、やることない。

まぁこのまま放置でも構わないのですが……なるべくモンスターの消耗は押さえたいので、ネクロマンサーの元へ交渉しに足を運ぶ。

「先程の契約の件なのですが……」

「あ、もう少し待ってください~。まだ満足してないので~」
「却下です。早く休みたいので」

ぷくーと頬を膨らませ、ネクロマンサーに重ね掛けしていた”嘘”を解除する。

「さてと、契約の件ですが、……結ぶか消されるか、お好きな方を選んでください」
「……傘下に下る」

すっかり意気消沈し地面にのの字を書き始めるネクロマンサー。

「では、あなたの能力や強さ、あそこで山になっているスキュラの話を聞かせて頂けますか?」
「承知……」

*

ふむ、
ネクロマンサー
得意属性 無(ゾンビ呼び出し) ステータス弱体化  弱点属性(光 炎 土)
死体さえあればゾンビを呼び出せるが、ゾンビは動きが遅く、光 炎 土属性に弱い。
本人の戦闘力も並み。魔法もゾンビ呼び出しとデバフのみだがデバフは我々Sランクにも有効な強さ。
と。

スキュラも普通に居るモンスターと何ら変わりがありませんし、Bランク……いえ、Cランクの上の方程度ですかね。

デバフ使うモンスターもそんなに珍しくはありませんし、
スキュラの糸も油断さえしなけば大丈夫でしょう。……私達みたいに。

忘れないうちに明日にでも資料を作りに行きますか。
各村への配布は連休明けでいいでしょうし。

「マデラー?終わったかいな?」

自分が吹っ飛ばしたスキュラに治癒魔法をかけながら、姉御が聞いてくる。

「えぇ、ダンジョンの中の情報は十分です。後は、このダンジョンがどの辺りに出来たのかを確認しなければ……」

「もうめんどくさいので~、化け狐のダンジョンの山辺りにぶち込みましょうよ~」

……それ楽でいいなぁ。
世界に”嘘”ついてそこにあった事にするのか。
……使い方ですっごく便利だなぁ。その”嘘”の魔法。

使っている奴が曲者過ぎるのが問題ですが。

「あの辺に……か。ま、ええんやない?」
と山の頂上のダンジョンのマスターからの了承も得られましたし、

「では、神楽の社のある山の中腹に、このダンジョンはあった。という事で」

「了・解・で~す☆」

ダンジョン内を、夜が包み込む。

*

「最初はびっくりしました~。まさかあっさり捕まるとは思ってもみませんでした~」
「がっつり油断しとったな。他のダンジョンでもあんな感じなん?」
「今回はスキュラの警戒が強かったから、ではないですかね。流石に毎回毎回あんな事にはなりませんよ」

無事に……ええ、無事に姉御の旅館に戻って来てみれば、
ツヅラオを抱き枕に満面の笑みで眠るリリスの姿があった。

こうしてみると、ぬいぐるみを抱いたまま寝るお嬢様みたいですね。

流石に僕は陽の当らない部屋で寝ます~。
と吸血鬼は別の部屋へ。

私も寝相の悪いハーピィを脇にどけ、夢の世界へ入っていくのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...