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垣間見える歴史
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目を覚ませば、見慣れぬ土しか見えない天井。
体を起こせば、包帯が目に付く。
誰かが、自分を運び込んで手当した、とでもいうのか。
近づいてくる足音に警戒すれば、姿を見せたのは人間の少女。
何かこちらに言ってはいるが言葉が違う為理解できない。
少し寂しそうな顔をして、彼女はパンとスープを渡してくれた。
その日から彼は、人間の言葉を学んでいく事となる。
▽
紅茶をジャムと楽しんで、少しは落ち着いた、とリリスは深呼吸。
そうだ、何故疑わなかったのか。あれだけ強いのに、魔王様に素直に従う彼女が、何かしら魔王様と繋がりがある事を。
”嘘”という世界すらも騙せるようなふざけた魔法を扱う彼が、何故そんな魔法を扱えるようになったか。
ただの転醒、や固有転醒ですら到達しないようなその領域は、前の魔王を倒したご褒美のようなものだったのだろう。
目の前の九尾も同様だ。九尾にどのタイミングでなったかは知らないが、肉弾戦でSランクのマスターをしている時点で何かしらの強化があったことは明白。
リリスのように、魅了魔法特化の固有転醒を繰り返してSランクのマスターにようやくなれた存在とは違う、ある種の絶対的な性能。
名前が挙がらなかったハーピィはわたくし側という事でしょうね。
残り少なくなり、冷めた紅茶を飲み干して、神楽へと視線を向けるリリス。
「残りも受け止める覚悟は出来たん?」
「でなければ初めからここに来たりしませんわ。続きを、お願いしますわ」
「続き言われてもな、もう後は今の魔王様が魔王になった事位しかあらへんし」
「魔王を倒したものが次の魔王に、ですわね」
これはこの間麒麟から聞いた事。
魔王に固有転醒する条件が魔王を倒す事であると、先ほど聞かされ納得した情報。
「そや。ほな、こっから先は質問にでも答えよか。もううちから語る事はあらへん」
なんかあるか?と煙管を置いてリリスを正面から見る神楽。
「魔王……という存在には、どういった意味がありますの?」
「モンスターの天辺やろ。実力で負けてりゃ従わざるを得ーへん。従わな消される」
「その存在が、何故人間の……」
言いかけた途中の言葉の回答は、すでに出されているではないか。
何故人間を、モンスターを狩る人間を滅ぼさず、しかも魔王自身を倒すという目的まで与えているのか。
それに繋がる、モンスターが人間を殺してしまわないようにダンジョンなんてものを設定し、しかも人間と同じく魔王を倒すという最終目的までを与えたのか。
全ては……人間の為。自身が元人間だったため。
思えばダンジョンのマスターに、などという聞いたことも無い話を自分に持ち掛けたあの龍族は、何故魔王を倒す事を自分に提案してきたか。というのも納得出来た。
人間から目を遠ざけたかったのか。……一体どこから、どこまでが魔王の掌の上なのか。
神獣すら助力をする程の、言ってしまえばこの世界に根付かせたシステムを構築するのに、どれほどの考えが、調整が、時間が必要だったのか。
「ちょっと待ってくださらない? ドラさんは初めからあんなに強い存在でしたの?」
それはふとした疑問。最初に声をかけられたときに軽くあしらわれ、転醒の時も自分を制した存在への疑問。
「うちらの誰よりも強かったで。……いや、魔王様になる前の勇者と同じ位やったな」
「え? 勇……者……?」
「いや、童話に書いてあるやろ。勇者が魔王を倒したって」
「では、勇者と呼ばれていた存在が……今は魔王をしておりますの?」
「そう言うとるやろ」
人間たちは、この事を知っているのでしょうか……いや、知るはずもありませんわね。
「あ、でもマデラも固有転醒はしたで? 知力と魔法に特化したのを2回、な」
声すら出ず、口を思わず大きく開いて、リリスは神楽を見返す。
「考えてみーや。そもそも脳筋な龍族にあんな頭回る個体がたまたま産まれるか? 魔力にしたって、魔王の悪夢飲んでも暴走せーへん程やで? どう考えても規格外やろ」
言われてみれば最もだ。そして、過去の話をマデラがしないのも、転醒により、記憶を上塗りされて忘れているからか。
元からの強さに加えて知力と魔力も補った存在。……彼女が一番魔王を打ち取れる強さに近いのではなかろうか。
「ドラさんが……魔王を倒すという事はございませんの?」
「皆無やな」
即答で答える神楽に納得できないリリスはぶつける。
「何故ですの!? こんな、こんな、モンスターの事を一切考えていない、人間を守るようなシステムを作った魔王に、何も感じませんの!?」
貴方方は、と拳を握り締め、少し震わせながら叫ぶ。
人間を守る事だけに重きを置き、モンスターを下手すれば消耗品としか見ないようなシステムに、今更気付かされた自分はこれだけ怒りが沸いてきたのに、と。
「マデラに関してはそういう契約や。魔王様に忠誠を誓うとる。うちと吸血鬼に関しては、そもそも人間に神様呼ばれとった存在やからな。人間の為になるのも悪ないわって感覚や。吸血鬼はそれでも魔王を倒そうと色々やっとるみたいやけどな」
「なっ……」
「だから勇者に勧誘されたんよ? もっと人間にとっても、モンスターにとってもいい世界を作る。その為に力を貸せ言われてな」
もう、驚く事にも飽きてきた。
深いため息をついたリリスに、神楽は
「もうええか? なんて言うても、頭の中混乱しとるか? また今度来いや。今日出来ひんかった質問に加えて、魔王様の記憶も見せたるわ」
と言う。
そんなものがあるなら先に見たかった……、いや。見たところで理解できなかっただろうか。
恐らく、九尾が説明してくれた前情報が無ければ。
「また、……来ますわ」
ゆっくり立ち上がって、神楽の前から消えたリリスに対し、神楽は。
「なんや起こしそうやね。あん子は」
と煙管を再び咥えて、煙を吐き出した。
体を起こせば、包帯が目に付く。
誰かが、自分を運び込んで手当した、とでもいうのか。
近づいてくる足音に警戒すれば、姿を見せたのは人間の少女。
何かこちらに言ってはいるが言葉が違う為理解できない。
少し寂しそうな顔をして、彼女はパンとスープを渡してくれた。
その日から彼は、人間の言葉を学んでいく事となる。
▽
紅茶をジャムと楽しんで、少しは落ち着いた、とリリスは深呼吸。
そうだ、何故疑わなかったのか。あれだけ強いのに、魔王様に素直に従う彼女が、何かしら魔王様と繋がりがある事を。
”嘘”という世界すらも騙せるようなふざけた魔法を扱う彼が、何故そんな魔法を扱えるようになったか。
ただの転醒、や固有転醒ですら到達しないようなその領域は、前の魔王を倒したご褒美のようなものだったのだろう。
目の前の九尾も同様だ。九尾にどのタイミングでなったかは知らないが、肉弾戦でSランクのマスターをしている時点で何かしらの強化があったことは明白。
リリスのように、魅了魔法特化の固有転醒を繰り返してSランクのマスターにようやくなれた存在とは違う、ある種の絶対的な性能。
名前が挙がらなかったハーピィはわたくし側という事でしょうね。
残り少なくなり、冷めた紅茶を飲み干して、神楽へと視線を向けるリリス。
「残りも受け止める覚悟は出来たん?」
「でなければ初めからここに来たりしませんわ。続きを、お願いしますわ」
「続き言われてもな、もう後は今の魔王様が魔王になった事位しかあらへんし」
「魔王を倒したものが次の魔王に、ですわね」
これはこの間麒麟から聞いた事。
魔王に固有転醒する条件が魔王を倒す事であると、先ほど聞かされ納得した情報。
「そや。ほな、こっから先は質問にでも答えよか。もううちから語る事はあらへん」
なんかあるか?と煙管を置いてリリスを正面から見る神楽。
「魔王……という存在には、どういった意味がありますの?」
「モンスターの天辺やろ。実力で負けてりゃ従わざるを得ーへん。従わな消される」
「その存在が、何故人間の……」
言いかけた途中の言葉の回答は、すでに出されているではないか。
何故人間を、モンスターを狩る人間を滅ぼさず、しかも魔王自身を倒すという目的まで与えているのか。
それに繋がる、モンスターが人間を殺してしまわないようにダンジョンなんてものを設定し、しかも人間と同じく魔王を倒すという最終目的までを与えたのか。
全ては……人間の為。自身が元人間だったため。
思えばダンジョンのマスターに、などという聞いたことも無い話を自分に持ち掛けたあの龍族は、何故魔王を倒す事を自分に提案してきたか。というのも納得出来た。
人間から目を遠ざけたかったのか。……一体どこから、どこまでが魔王の掌の上なのか。
神獣すら助力をする程の、言ってしまえばこの世界に根付かせたシステムを構築するのに、どれほどの考えが、調整が、時間が必要だったのか。
「ちょっと待ってくださらない? ドラさんは初めからあんなに強い存在でしたの?」
それはふとした疑問。最初に声をかけられたときに軽くあしらわれ、転醒の時も自分を制した存在への疑問。
「うちらの誰よりも強かったで。……いや、魔王様になる前の勇者と同じ位やったな」
「え? 勇……者……?」
「いや、童話に書いてあるやろ。勇者が魔王を倒したって」
「では、勇者と呼ばれていた存在が……今は魔王をしておりますの?」
「そう言うとるやろ」
人間たちは、この事を知っているのでしょうか……いや、知るはずもありませんわね。
「あ、でもマデラも固有転醒はしたで? 知力と魔法に特化したのを2回、な」
声すら出ず、口を思わず大きく開いて、リリスは神楽を見返す。
「考えてみーや。そもそも脳筋な龍族にあんな頭回る個体がたまたま産まれるか? 魔力にしたって、魔王の悪夢飲んでも暴走せーへん程やで? どう考えても規格外やろ」
言われてみれば最もだ。そして、過去の話をマデラがしないのも、転醒により、記憶を上塗りされて忘れているからか。
元からの強さに加えて知力と魔力も補った存在。……彼女が一番魔王を打ち取れる強さに近いのではなかろうか。
「ドラさんが……魔王を倒すという事はございませんの?」
「皆無やな」
即答で答える神楽に納得できないリリスはぶつける。
「何故ですの!? こんな、こんな、モンスターの事を一切考えていない、人間を守るようなシステムを作った魔王に、何も感じませんの!?」
貴方方は、と拳を握り締め、少し震わせながら叫ぶ。
人間を守る事だけに重きを置き、モンスターを下手すれば消耗品としか見ないようなシステムに、今更気付かされた自分はこれだけ怒りが沸いてきたのに、と。
「マデラに関してはそういう契約や。魔王様に忠誠を誓うとる。うちと吸血鬼に関しては、そもそも人間に神様呼ばれとった存在やからな。人間の為になるのも悪ないわって感覚や。吸血鬼はそれでも魔王を倒そうと色々やっとるみたいやけどな」
「なっ……」
「だから勇者に勧誘されたんよ? もっと人間にとっても、モンスターにとってもいい世界を作る。その為に力を貸せ言われてな」
もう、驚く事にも飽きてきた。
深いため息をついたリリスに、神楽は
「もうええか? なんて言うても、頭の中混乱しとるか? また今度来いや。今日出来ひんかった質問に加えて、魔王様の記憶も見せたるわ」
と言う。
そんなものがあるなら先に見たかった……、いや。見たところで理解できなかっただろうか。
恐らく、九尾が説明してくれた前情報が無ければ。
「また、……来ますわ」
ゆっくり立ち上がって、神楽の前から消えたリリスに対し、神楽は。
「なんや起こしそうやね。あん子は」
と煙管を再び咥えて、煙を吐き出した。
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