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暇すぎて
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ドラゴンの放ったブレスが近くに被弾し、音を立てて崩壊を始めるその洞窟から人々は逃げる。
どこへ? どこかへ。 どうやって? どうにかして。
最低限必要な物だけを持ち、皆が皆、迅速に脱出。
そのまま平穏な場所を探してモンスター達から隠れながら進む。
度々頭上を飛ぶドラゴンを岩場の影や木々の影に隠れてやり過ごし
ゴブリンやトロールの行進は、事前に見つけて出くわさないように迂回する。
そんな移動を続けて、彼が辿り着いたのは、ボロボロの洋館だった。
▽
ふぅ、……季節がら仕方がないとはいえ、雨ばかり降られると気が滅入りますね。
ツヅラオの尻尾も、心なしかゴワゴワしています。
冒険者達も、こんな雨の日に出歩きたくないのかほとんど窓口には来ない。
モンスター補充の依頼も来るには来るが、やはりいつもより数は少ない。
単に今までが多すぎただけなのだが。
ツヅラオと二人でさっさと計算を終わらせて、ツヅラオに魔王様の元へ送る練習をさせてみれば、
外に出た瞬間雨に打たれて一瞬で書類に戻ってしまった。
そうか、元は狐火ですからね。雨で火が消えてしまったと。
その事実を受け止めて、かなりショックを受けたらしく、現在彼は防炎室にて狐火を扱う練習中。
いつも通り書類をカラスに変え、窓から送り出そうとすると、すぐにこちらに引き返して来て、
ギルド内に入って来たばかりの……恐らく少女だろうか。その少女の腕に留まる。
おや? どこかで見た事あるよう……な……ッ!?
慌てて少女に駆け寄り耳打ち、
「魔王様、いったい何をなされているので」
「マデラか。暇だったので散歩にな」
この間、中に入って動かす練習をしていたあの魔操傀儡を、すっかり動かすことに慣れたのか人間と変わらない動きをしながら魔王様が答えた。
腕に留まったカラスの頭を数回撫でれば、カラスは今度こそ、私が開いた窓から飛んで行った。
「それにしても急に来られるとは……驚いてしまいましたよ」
「せっかく動き回れるようになったのだ。好きにさせろ」
「あの、……先ほどから気になっているのですが、口調をですね」
機嫌を損ねないだろうか? とも思ったが意を決して聞いてみた。
「ん? 口調がどうかしたか?」
「いえ、その格好でいつもの口調ですと、違和感が……。それに、他の人に聞かれると怪しまれてしまうかと」
見た目とのギャップにより二度見する冒険者達が出てきてもおかしくない。
「そうか……ならば」
その指摘後、魔王様が選択した口調は……
「これならばどうじゃ?」
まだ違和感はありますが、いつもの口調よりはマシですね。
「さて、せっかく人の町に来たのじゃし、楽しみたい所があるからの。ちと無理するか」
結構その口調、楽しんでますね?
右手で空を指差し、何やら宙に文字を書き始める。えぇと、……照、でしょうか。
宙に浮いた文字をまるでそこにあるかの如く掴んだふりをし、天に向かって投げるふり。
やったのはそれだけ。それだけで、今まで空を覆っていた分厚い雨雲が徐々に消え、陽の光りが差し込んでくる。
ええと、……天気を、変えたんですかね?
自然現象ですよね? 精霊が出した魔法とはわけが違うんですよ? 自然現象って下手すると神とかの領域ですよ?
分かってはいた筈なのだが、どうして周りにはデタラメな方々しかいないのか。
と彼女の言うデタラメな方々が聞けば、お前もな。と突っ込みたくなるような事を考えて、
天気を変えて上機嫌の魔王様へ尋ねる。
「それで、何をなさりたいので?」
「人間の飯が食いたい。食べ歩きをしたいのじゃ」
「明日であれば休みですので、ご案内出来ますが?」
流石に今日来て、今から行く、とはいかない。
もしかしたら雨が上がり、晴れた事で冒険者達が来るかもしれない。
ならば休みの日に連れて行くしかなく、図ったように休みは明日。
「ならば明日頼む。かと言って魔王城に戻るのもメンドクサイ。今日はマデラの家に泊まってよいか?」
「えっ!?」
思わず素で聞き返してしまった。
「駄目……かの?」
私の胸に抱きついて、上目遣いをする魔王様は、見た目は雪のような少女ですが破壊力がすごくて……
「構いませんが」
と答える事しか出来なかった。
破壊力とは何か? ですか? 抱きついて来た勢いと腕力で背中が逆に折れるところでした。
恐らく人間であればそのまま天に召されていたでしょうね。
「中々上手くいかないのです。ってマデ姉、その子はどちら様なのです?」
防炎室から戻って来たツヅラオが私と魔王様の所へ走って来て。
「マデ姉とお知り合いなのです?」
と首をかしげる。
「ツヅラオ、騒がないように、こちら魔王様です」
「そうなのですか。……えっ! ま、モガ」
案の定叫びそうだったので口を押えさせてもらいました。
「ふぅん、九尾関係のモンスターか。手伝っておるのか?」
「はい。彼にはかなり助けられています。特にモンスター補充の件はもうほとんど彼に任せています」
「結構結構。側近位しかマデラの仕事を手伝えぬと思っていたが、そうか。九尾の所に居たか。そんな存在が」
私の手を振りほどき、何度か深呼吸をするツヅラオに魔王様はスッと手を差し出す。
「これからも、よろしく頼むぞ」
「はいなのです!精一杯頑張るのです!」
その手を握って握手して、
「みぎゃあっ!!?」
ツヅラオは、そんな声を上げて飛び上がった。
明日までに、とりあえず力の入れ方を魔王様にはマスターして貰わねば。
どこへ? どこかへ。 どうやって? どうにかして。
最低限必要な物だけを持ち、皆が皆、迅速に脱出。
そのまま平穏な場所を探してモンスター達から隠れながら進む。
度々頭上を飛ぶドラゴンを岩場の影や木々の影に隠れてやり過ごし
ゴブリンやトロールの行進は、事前に見つけて出くわさないように迂回する。
そんな移動を続けて、彼が辿り着いたのは、ボロボロの洋館だった。
▽
ふぅ、……季節がら仕方がないとはいえ、雨ばかり降られると気が滅入りますね。
ツヅラオの尻尾も、心なしかゴワゴワしています。
冒険者達も、こんな雨の日に出歩きたくないのかほとんど窓口には来ない。
モンスター補充の依頼も来るには来るが、やはりいつもより数は少ない。
単に今までが多すぎただけなのだが。
ツヅラオと二人でさっさと計算を終わらせて、ツヅラオに魔王様の元へ送る練習をさせてみれば、
外に出た瞬間雨に打たれて一瞬で書類に戻ってしまった。
そうか、元は狐火ですからね。雨で火が消えてしまったと。
その事実を受け止めて、かなりショックを受けたらしく、現在彼は防炎室にて狐火を扱う練習中。
いつも通り書類をカラスに変え、窓から送り出そうとすると、すぐにこちらに引き返して来て、
ギルド内に入って来たばかりの……恐らく少女だろうか。その少女の腕に留まる。
おや? どこかで見た事あるよう……な……ッ!?
慌てて少女に駆け寄り耳打ち、
「魔王様、いったい何をなされているので」
「マデラか。暇だったので散歩にな」
この間、中に入って動かす練習をしていたあの魔操傀儡を、すっかり動かすことに慣れたのか人間と変わらない動きをしながら魔王様が答えた。
腕に留まったカラスの頭を数回撫でれば、カラスは今度こそ、私が開いた窓から飛んで行った。
「それにしても急に来られるとは……驚いてしまいましたよ」
「せっかく動き回れるようになったのだ。好きにさせろ」
「あの、……先ほどから気になっているのですが、口調をですね」
機嫌を損ねないだろうか? とも思ったが意を決して聞いてみた。
「ん? 口調がどうかしたか?」
「いえ、その格好でいつもの口調ですと、違和感が……。それに、他の人に聞かれると怪しまれてしまうかと」
見た目とのギャップにより二度見する冒険者達が出てきてもおかしくない。
「そうか……ならば」
その指摘後、魔王様が選択した口調は……
「これならばどうじゃ?」
まだ違和感はありますが、いつもの口調よりはマシですね。
「さて、せっかく人の町に来たのじゃし、楽しみたい所があるからの。ちと無理するか」
結構その口調、楽しんでますね?
右手で空を指差し、何やら宙に文字を書き始める。えぇと、……照、でしょうか。
宙に浮いた文字をまるでそこにあるかの如く掴んだふりをし、天に向かって投げるふり。
やったのはそれだけ。それだけで、今まで空を覆っていた分厚い雨雲が徐々に消え、陽の光りが差し込んでくる。
ええと、……天気を、変えたんですかね?
自然現象ですよね? 精霊が出した魔法とはわけが違うんですよ? 自然現象って下手すると神とかの領域ですよ?
分かってはいた筈なのだが、どうして周りにはデタラメな方々しかいないのか。
と彼女の言うデタラメな方々が聞けば、お前もな。と突っ込みたくなるような事を考えて、
天気を変えて上機嫌の魔王様へ尋ねる。
「それで、何をなさりたいので?」
「人間の飯が食いたい。食べ歩きをしたいのじゃ」
「明日であれば休みですので、ご案内出来ますが?」
流石に今日来て、今から行く、とはいかない。
もしかしたら雨が上がり、晴れた事で冒険者達が来るかもしれない。
ならば休みの日に連れて行くしかなく、図ったように休みは明日。
「ならば明日頼む。かと言って魔王城に戻るのもメンドクサイ。今日はマデラの家に泊まってよいか?」
「えっ!?」
思わず素で聞き返してしまった。
「駄目……かの?」
私の胸に抱きついて、上目遣いをする魔王様は、見た目は雪のような少女ですが破壊力がすごくて……
「構いませんが」
と答える事しか出来なかった。
破壊力とは何か? ですか? 抱きついて来た勢いと腕力で背中が逆に折れるところでした。
恐らく人間であればそのまま天に召されていたでしょうね。
「中々上手くいかないのです。ってマデ姉、その子はどちら様なのです?」
防炎室から戻って来たツヅラオが私と魔王様の所へ走って来て。
「マデ姉とお知り合いなのです?」
と首をかしげる。
「ツヅラオ、騒がないように、こちら魔王様です」
「そうなのですか。……えっ! ま、モガ」
案の定叫びそうだったので口を押えさせてもらいました。
「ふぅん、九尾関係のモンスターか。手伝っておるのか?」
「はい。彼にはかなり助けられています。特にモンスター補充の件はもうほとんど彼に任せています」
「結構結構。側近位しかマデラの仕事を手伝えぬと思っていたが、そうか。九尾の所に居たか。そんな存在が」
私の手を振りほどき、何度か深呼吸をするツヅラオに魔王様はスッと手を差し出す。
「これからも、よろしく頼むぞ」
「はいなのです!精一杯頑張るのです!」
その手を握って握手して、
「みぎゃあっ!!?」
ツヅラオは、そんな声を上げて飛び上がった。
明日までに、とりあえず力の入れ方を魔王様にはマスターして貰わねば。
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