こちら冒険者支援ギルド ダンジョン課

瀧音静

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因果

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皆が寝静まった頃、音も無く起きた彼は、喉の渇きを潤すべく、これまた音も無く移動する。

規則正しく上下する胸を確認し、彼女の手を取り指先を傷つけ、血が滲むのを確認する。

血が垂れるのを今か今かと待ち望み、ようやく垂れた血を、地に着く前に空中で咥えて、
あまりの魔力の少なさに思わず吹き出しそうになる。

飲まぬのとあまり変わらない気もしてしまうが、それでも少しは魔力が回復する事を確認し、渋々この血で我慢する。

あー、龍族の血が飲みたいですね~。

なんて今の彼の強さでは敵わぬ願いを抱きつつ、彼はやっぱり音も無く、自分の寝床に戻って行った。



 「マオ様!」

 鉄球を全力投球しようとする寸前に声を掛け、どうにか気を逸らして、まだ理解できる範囲の記録に留める事に成功した。
あのままでしたら下手すると冒険者に直撃して赤い花が咲くところでした。

「マデラよ。なぜ声をかけたのじゃ! あれだけしか飛ばなかったではないか!」

 魔王様、よく見てください。あれだけと言ってもぶっちぎりでトップです。
ムスーと膨れ顔の魔王様の気を引くものが何かないかと辺りを見渡せば、おや、なんだか見覚えのある風貌の冒険者が。

 見れば今から鉄球投げに挑戦する仲間を応援しているようで。

「一位取ってよね~!」
「脳まで筋肉の底力、見せつけて~!」
「せ、戦士さん。とりあえず頑張ってくださ~い!」

 声を掛けられている本人は鉄球を持ち上げたまま微動だにせず、ゆっくりと息を吸って。
獣かとすら聞き間違うような叫び声をあげて、遠くへと放り投げた。
その鉄球は、ほんの僅か、本当に少しの差で、魔王様の出した記録を塗り替えてしまった。

「ほれ見ろマデラ! あっさり抜かれてしまったではないか! どうしてくれるのじゃ!?」

 まさかあの記録を抜く冒険者が居るとは。というか勇者の仲間の戦士があんなに力が強いとは知りませんでしたね。当の本人は肩と腕がおよそ曲がってはいけない方向を向いていますが。

「申し訳ありませんマオ様。しかし、目立ちすぎるというのも考え物ですので、どうか配慮を」
「む、確かにそうか。正体がばれれば混乱を招くか。むーん……今回だけじゃ。許す」
「ありがとうございます」

 さて、ツヅラオの姿が見当たりませんが……、あなたも挑戦する気ですか、大丈夫ですか?
案の定鉄球を持ち上げるのもフラフラで、えーい! なんて掛け声の後には、目の前の地面を転がる鉄球が続くのみ。
いや、ツヅラオ。泣かなくてもいいです。魔王様とあそこの戦士がおかしいだけなので。
むしろあなたの体格で軽々と持ち上げられる方が怖いですよ。魔王様の今の見た目はともかく。

「あれ?マデラさんじゃない」
「ツヅラオ君も居ますねー」

 どうやら勇者パーティの女性2名に見つかってしまったようで。
後にはもちろん男性陣がくっついて来た。

「お久しぶりです。えっと、隣の子は?」
「マオ様です。小さい頃からお世話をしておりました。久しぶりに屋敷の外へと出る許可が降りたらしく、こうして町を見回っている所です」

 一瞬自分ですら、よくここまでスラスラと嘘が出るな。と思ってしまった。
正直に魔王様です。なんて言えば 勇者パーティVS魔王と仲間 の構図が出来上がりますので、どうにか嘘で切り抜けるしか……

「紹介に預かったマオという。マデラは元従者じゃな。随分と腕の立つ従者じゃったが、やりたい事が出来た、などと言って屋敷を飛び出しての。探し出すまでに随分苦労したわ」

 およそ見た目には似合わない、カッカッカッ、と笑い声をあげる魔王様。
魔王様も、私が咄嗟に付いた嘘によくそこまで乗ってこれますね。
素直に感心致します。

「へー。元冒険者を従者にしちゃったんだ!」
「従者は珍しいが、国王の護衛なんかに召し抱えられるなんて事もあるぞ。」
「というよりは、騎士の皆さん方などが冒険者になる理由のほとんどがそれですね」

 いつの間にか復活した戦士さんも会話に入り、他愛もない会話が続く。

「にしてもマデラさんをどこで目を付けたんだ?」
「秘密じゃの」
「年齢的にもこの子のお父様辺りが探してきたのでは?」
「そうじゃろうなー」
「マオさん、でいいんだよね? いつもそんな口調なの?」
「変、かの?」

 ん、魔王様を不機嫌にさせるような発言は控えて頂きたいのですが……

「変じゃないよ。けど、こう、ね。……のじゃっ娘大好きなんだよね!」

 急に勇者の雰囲気、と言いますか。空気が変わったのがハッキリと見て取れて、それを見た魔法使いがため息をつく。

「あんた、大概のギャップ萌えに反応するじゃない。節操なさすぎ」
「可愛いものは可愛い! 何も間違いじゃないよ!」

ええと、話の先が見えてこないんですけど。勇者が魔王様を気に入ってしまった、という事でよろしいのですかね?

「しかし、のじゃっ娘なればもう少し背丈が小さい方がよいのではないか?」
「その通りだよ! 君も随分いけるね!」

 同士よ。とでも言いたげに魔王様の手を握って大きく振る勇者。
その時である。
バチィッ! と空気が拒絶するような音が二人の握った手から放たれた。
それに勇者は驚いて、魔王様は苦い顔をして、辺りの空気が、一気に冷え込む様な錯覚を覚えたのは私だけですか?

「マデラよ」
「何でしょうか?」

 私にしか聞こえないように、唇すら動かさずに魔王様は私に問いかける。

「この者達が、いや、この目の前の小僧が、勇者であるな」
「はい。その通りです」
「何故今まで言わなかった?」
「すぐに離れるだろうと思っておりました。まさか、急に手を握ってくるとは思いもしませんでした。先ほどの反応は?」
「神、とやらが怒っているのだろう。慣れあうな。とな」

 魔王様の顔は、さらに苦く変化して、天を見上げて、まるでうめき声のような声で、

「いつか覚えていろ。神どもめ」

と吐き捨てた。
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