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【番外編】
ねこほん!2 夢
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結局、収録中は猫耳を着けることを強制され、許されたリアクションは表情と仕草、そして猫の鳴き真似だけだった。
喋るとみんなに怒られるから、本郷も次第に諦め、「にゃあ」としか言わなくなった。クイズで盛り上がる輪の端で、ちょこんと座っているだけの自分が、いったい誰のためにそこに居るのか、分からなくなっていた。
それでも、企画はそこそこ好評だった。
晃弥が描いたイラストはファンにも受け入れられ、気づけばグッズの話まで進んでいたという。
本郷(猫)の絵を見る。たしかに、可愛い。けれど、それは猫としての可愛さだった。
「俺も猫だったら、こんなふうに……可愛い可愛いって、受け入れてもらえたのかな」
新発売の〈ねこほん〉ぬいぐるみを、そっとベッドサイドに置く。
電気を消すと、部屋は急に静かになった。
柔らかなぬいぐるみの存在を意識したまま、本郷はゆっくりと、眠りへと落ちていった。
あれ、どこだここ。見知ったような、知らないような街中……。なんだか目線も手もおかしい。もしかして、これは。
とてとて歩いて、お店のショーケースに映る自分を見る。
自分が、本当に、猫になっていた。
「可愛い猫ちゃんがいるにゃあ」
呟く自分の声は、普段より少しだけ高かった。ああ、なんて可愛い猫なんだ。これは誰が見たって可愛い。うっとり大満足。つい、にこにこしてしまう。
近くから足音が聞こえて、はっと顔を上げた。男が街中を歩いていた。咄嗟に擦り寄り、ニコニコと足元に額を擦り付けた。
可愛いって言ってもらえるはず。撫でてもらえるはず。
「猫……いや、おっさんか」
「にゃ?」
「可愛くねぇし」
「う、にゃにゃ?」
「来ないで」
拒絶の言葉を吐いたあと、男は道路に停めてあった車に乗って、颯爽と去ってしまう。
ねこほんは必死に走った。遠ざかる背中に縋り付くように両手を必死に伸ばし、がむしゃらに後ろ足を動かした。
「待って! 猫にゃよ! 可愛い猫なのに!」
四足で必死に駆けだしたものの、次第に遠ざかる車はもうほとんど見えない。 決して追いつけないという現実に、ねこほんは打ちひしがれた。
「こんなに可愛い猫にゃのに~!!」
叫び声は情けなく裏返り、必死さばかりが虚しく際立った。 次の一歩を踏み出そうとした足がもつれ、ねこほんはすとんと転んでしまう。目に涙が浮かんでも、手を差し伸べてくれる者は誰もいなかった。
──そこで、本郷は、目が覚めた。
「……最悪な夢見だ」
それから一年ほど経っただろうか。
部屋に遊びに来た櫻井が、ふとそのぬいぐるみに目を留めた。本郷は尋ねられるがまま、それが何なのかを淡々と説明した。
「……と、まぁ、そんな感じで、晃弥が描いたただの絵なんだ」
「へぇ、可愛いですね」
ねこほんの頭を優しく撫でる櫻井。その姿に、本郷はふと、夢の中で足蹴にされていたねこほんの姿を思い出した。
(……良かったな。可愛い、だってよ)
胸に込み上げた温かな嬉しさに、本郷の視界は、静かに涙で滲んでいった。
喋るとみんなに怒られるから、本郷も次第に諦め、「にゃあ」としか言わなくなった。クイズで盛り上がる輪の端で、ちょこんと座っているだけの自分が、いったい誰のためにそこに居るのか、分からなくなっていた。
それでも、企画はそこそこ好評だった。
晃弥が描いたイラストはファンにも受け入れられ、気づけばグッズの話まで進んでいたという。
本郷(猫)の絵を見る。たしかに、可愛い。けれど、それは猫としての可愛さだった。
「俺も猫だったら、こんなふうに……可愛い可愛いって、受け入れてもらえたのかな」
新発売の〈ねこほん〉ぬいぐるみを、そっとベッドサイドに置く。
電気を消すと、部屋は急に静かになった。
柔らかなぬいぐるみの存在を意識したまま、本郷はゆっくりと、眠りへと落ちていった。
あれ、どこだここ。見知ったような、知らないような街中……。なんだか目線も手もおかしい。もしかして、これは。
とてとて歩いて、お店のショーケースに映る自分を見る。
自分が、本当に、猫になっていた。
「可愛い猫ちゃんがいるにゃあ」
呟く自分の声は、普段より少しだけ高かった。ああ、なんて可愛い猫なんだ。これは誰が見たって可愛い。うっとり大満足。つい、にこにこしてしまう。
近くから足音が聞こえて、はっと顔を上げた。男が街中を歩いていた。咄嗟に擦り寄り、ニコニコと足元に額を擦り付けた。
可愛いって言ってもらえるはず。撫でてもらえるはず。
「猫……いや、おっさんか」
「にゃ?」
「可愛くねぇし」
「う、にゃにゃ?」
「来ないで」
拒絶の言葉を吐いたあと、男は道路に停めてあった車に乗って、颯爽と去ってしまう。
ねこほんは必死に走った。遠ざかる背中に縋り付くように両手を必死に伸ばし、がむしゃらに後ろ足を動かした。
「待って! 猫にゃよ! 可愛い猫なのに!」
四足で必死に駆けだしたものの、次第に遠ざかる車はもうほとんど見えない。 決して追いつけないという現実に、ねこほんは打ちひしがれた。
「こんなに可愛い猫にゃのに~!!」
叫び声は情けなく裏返り、必死さばかりが虚しく際立った。 次の一歩を踏み出そうとした足がもつれ、ねこほんはすとんと転んでしまう。目に涙が浮かんでも、手を差し伸べてくれる者は誰もいなかった。
──そこで、本郷は、目が覚めた。
「……最悪な夢見だ」
それから一年ほど経っただろうか。
部屋に遊びに来た櫻井が、ふとそのぬいぐるみに目を留めた。本郷は尋ねられるがまま、それが何なのかを淡々と説明した。
「……と、まぁ、そんな感じで、晃弥が描いたただの絵なんだ」
「へぇ、可愛いですね」
ねこほんの頭を優しく撫でる櫻井。その姿に、本郷はふと、夢の中で足蹴にされていたねこほんの姿を思い出した。
(……良かったな。可愛い、だってよ)
胸に込み上げた温かな嬉しさに、本郷の視界は、静かに涙で滲んでいった。
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