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【番外編】
あの頃のルカ(Ignis Nova③)
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Star Novaのメンバーは知らない。
Ignis Novaのメンバーと、本郷ルカの、歪で曖昧な関係を。
Starは本郷より若く繊細だった。だからこそ、何があっても彼らを守ろうと、本郷はいつも気丈に振る舞っていた。
その裏で溜まっていく不安やストレスのはけ口になっていたのが、Ignisだった。
「ぎゅーってして」
「キスして」
「好きって言って」
子どもじみたそれらの要求を、Ignisの三人は受け入れた。ただし、そのやり方は、少しばかり乱暴だった。
殴られて、それでも自分から腕を伸ばした。
キスのあと、もっと欲しいとねだった。
首を絞められながら、「好きだ」と囁かれることに、疑問を抱かなかった。
痛みが心地よかった。そこは自分を求めてもらえる場所で、受け入れてもらえる場所だった。仕事がしんどければしんどいほど、その痛みは、次第に快楽へと変わっていった。
そして。
本当に限界の時には、優しく頭を撫で、寝かしつけてくれた。泣きじゃくる本郷の涙が止まるまで、彼らは傍に居てくれた。
(……思い出したくも、なかった)
本郷は頭を抱えた。
どんな過去も、無かったことにはできないのだと、残酷な事実を突きつけられたようだった。
◾︎
電話でレイに断りを入れ、話はそれで終わったつもりだった。
それでも、どうしても最後に会いたいと言われ、本郷は指定されたホテルまでやってきてしまった。
部屋に入るのは躊躇した。
けれど、本郷はこれが本当に最後なのだと、自分に言い聞かせるようにして足を踏み入れた。
ソファ上には、大きな熊のぬいぐるみが置いてあった。その隣に、本郷は座らされる。
「……懐かしいな」
体格のいい男が四人。その中にぽつりと置かれた、可愛らしい熊のぬいぐるみ。この場にひどく不釣り合いで、どこか滑稽に見えた。
本郷はソファの背に軽く身を預け、三人を順に見渡した。
「俺はあの時、幸せだったよ。でもさ、今の方が幸せなんだ」
言い切るその言葉に、部屋の空気がわずかに張りつめた。本郷の声は穏やかで、どこか達観しているようにも聞こえる。
「……ルカ」
名を呼んだのはレイだった。引き留めるでも、責めるでもない。ただ、惜しむような響きだけが残る。
「お前らの優しさって、ペットを可愛がる感じだったよな。一人の人間として、愛してくれてたわけじゃない」
「どうだろうな」
マサは肩をすくめる。どこか面倒そうで、深く考える気はなさそうだった。
「そうだよ。マサ、お前が俺のアバラ折ったの、忘れてないからな」
冗談めかした口調とは裏腹に、空気が一段冷える。
マサは「やれやれ」とでも言いたげに息を吐いた。
「……俺はそりゃ、暴力の方が多かったかもしれねぇけど。ルイやレイは、違っただろ」
「そうなのかもしれない。でもさ……俺を置いて、海外行っちゃったじゃん」
「それは、ルカが行けって言ったから」
「言うしかないだろ!」
本郷の表情が歪み、声が荒れた。
彼らが居なくなってからずっと堪えていた感情が、心の内にひた隠しにしていた哀しみが、今、露わになった。
それは、Star NovaやL-Novaの前では決して見せない、本郷の〝弱い部分〟だった。
「……寂しかったよ。本当は、傍にいて欲しかった。海外での地位や名誉より、俺を選んで欲しかったんだ。でも、お前らは行っちゃった」
言葉を重ねるほど、声が震えた。当時のことを思い出すと、あの時の苦しみまで蘇ってくるようだった。
「……その時、分かったんだ。俺の本当に欲しかったものを、お前らは、絶対くれないんだって」
本郷の頬を、ぽろりと涙が伝った。
マサは視線を逸らし、何も言わない。
レイは唇を噛み、手を伸ばしかけて、結局止めた。
ルイはただ、ルカを見つめていた。今も変わらず好きだという感情が、どれほど歪んでいるかに気付かないまま。
三人にとっては、何度も見てきた泣き顔だ。だが、ルカ自身がこんなふうに泣くのは、四年ぶりだった。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「迎えに来られたって、俺は行けないよ。……もう、大切なものが、できたからさ」
「電話でも言ってたな。あのチビのことか」
「櫻井来夢はデカい男だよ。深くて大きな愛で、俺を包み込んでくれる。……俺だけを」
本郷は隣にある熊のぬいぐるみを、そっとひと撫でした。過去に触れるのは、それが最後だった。
そして立ち上がる。誰も止めなかった。いや、誰も、追うことができなかった。
「……今までありがとう、みんな。さようなら」
向かうのは、愛しい恋人のところだった。
三人に会うと言ったら、同席すると言って聞かなかった櫻井のことだから、きっと心配しているだろう。
だから、彼が納得するまで、説明しなければいけない。
──それでも、きっと大丈夫だと、今は思えた。
◾︎
本郷ルカは救いだと、レイが言っていた。
どうしようもない人生を歩んでいた自分たちを、救いあげ、輝かせてくれたのだと。
(──俺は、そうは思わない)
本郷ルカと出会わなくても、自分の人生、自分で輝かすことが出来た。たとえ周囲から崇められることはなくても、自分が納得できる人生を歩んだはずだ。
自分の人生は自分で決めて、自分で行動して、自分で掴み取る。
(みんな、あいつを過大評価し過ぎだ)
本郷ルカの存在など、大したことがないのだと、誰かに証明したくなった。
だから、浩誠に近づいたのかもしれない。
……いや、理由なんて後付けだ。気に入らなかった。それだけだ。
──次回、1/26連載スタート
浩誠×マサ『拾った恋の育て方』
Ignis Novaのメンバーと、本郷ルカの、歪で曖昧な関係を。
Starは本郷より若く繊細だった。だからこそ、何があっても彼らを守ろうと、本郷はいつも気丈に振る舞っていた。
その裏で溜まっていく不安やストレスのはけ口になっていたのが、Ignisだった。
「ぎゅーってして」
「キスして」
「好きって言って」
子どもじみたそれらの要求を、Ignisの三人は受け入れた。ただし、そのやり方は、少しばかり乱暴だった。
殴られて、それでも自分から腕を伸ばした。
キスのあと、もっと欲しいとねだった。
首を絞められながら、「好きだ」と囁かれることに、疑問を抱かなかった。
痛みが心地よかった。そこは自分を求めてもらえる場所で、受け入れてもらえる場所だった。仕事がしんどければしんどいほど、その痛みは、次第に快楽へと変わっていった。
そして。
本当に限界の時には、優しく頭を撫で、寝かしつけてくれた。泣きじゃくる本郷の涙が止まるまで、彼らは傍に居てくれた。
(……思い出したくも、なかった)
本郷は頭を抱えた。
どんな過去も、無かったことにはできないのだと、残酷な事実を突きつけられたようだった。
◾︎
電話でレイに断りを入れ、話はそれで終わったつもりだった。
それでも、どうしても最後に会いたいと言われ、本郷は指定されたホテルまでやってきてしまった。
部屋に入るのは躊躇した。
けれど、本郷はこれが本当に最後なのだと、自分に言い聞かせるようにして足を踏み入れた。
ソファ上には、大きな熊のぬいぐるみが置いてあった。その隣に、本郷は座らされる。
「……懐かしいな」
体格のいい男が四人。その中にぽつりと置かれた、可愛らしい熊のぬいぐるみ。この場にひどく不釣り合いで、どこか滑稽に見えた。
本郷はソファの背に軽く身を預け、三人を順に見渡した。
「俺はあの時、幸せだったよ。でもさ、今の方が幸せなんだ」
言い切るその言葉に、部屋の空気がわずかに張りつめた。本郷の声は穏やかで、どこか達観しているようにも聞こえる。
「……ルカ」
名を呼んだのはレイだった。引き留めるでも、責めるでもない。ただ、惜しむような響きだけが残る。
「お前らの優しさって、ペットを可愛がる感じだったよな。一人の人間として、愛してくれてたわけじゃない」
「どうだろうな」
マサは肩をすくめる。どこか面倒そうで、深く考える気はなさそうだった。
「そうだよ。マサ、お前が俺のアバラ折ったの、忘れてないからな」
冗談めかした口調とは裏腹に、空気が一段冷える。
マサは「やれやれ」とでも言いたげに息を吐いた。
「……俺はそりゃ、暴力の方が多かったかもしれねぇけど。ルイやレイは、違っただろ」
「そうなのかもしれない。でもさ……俺を置いて、海外行っちゃったじゃん」
「それは、ルカが行けって言ったから」
「言うしかないだろ!」
本郷の表情が歪み、声が荒れた。
彼らが居なくなってからずっと堪えていた感情が、心の内にひた隠しにしていた哀しみが、今、露わになった。
それは、Star NovaやL-Novaの前では決して見せない、本郷の〝弱い部分〟だった。
「……寂しかったよ。本当は、傍にいて欲しかった。海外での地位や名誉より、俺を選んで欲しかったんだ。でも、お前らは行っちゃった」
言葉を重ねるほど、声が震えた。当時のことを思い出すと、あの時の苦しみまで蘇ってくるようだった。
「……その時、分かったんだ。俺の本当に欲しかったものを、お前らは、絶対くれないんだって」
本郷の頬を、ぽろりと涙が伝った。
マサは視線を逸らし、何も言わない。
レイは唇を噛み、手を伸ばしかけて、結局止めた。
ルイはただ、ルカを見つめていた。今も変わらず好きだという感情が、どれほど歪んでいるかに気付かないまま。
三人にとっては、何度も見てきた泣き顔だ。だが、ルカ自身がこんなふうに泣くのは、四年ぶりだった。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「迎えに来られたって、俺は行けないよ。……もう、大切なものが、できたからさ」
「電話でも言ってたな。あのチビのことか」
「櫻井来夢はデカい男だよ。深くて大きな愛で、俺を包み込んでくれる。……俺だけを」
本郷は隣にある熊のぬいぐるみを、そっとひと撫でした。過去に触れるのは、それが最後だった。
そして立ち上がる。誰も止めなかった。いや、誰も、追うことができなかった。
「……今までありがとう、みんな。さようなら」
向かうのは、愛しい恋人のところだった。
三人に会うと言ったら、同席すると言って聞かなかった櫻井のことだから、きっと心配しているだろう。
だから、彼が納得するまで、説明しなければいけない。
──それでも、きっと大丈夫だと、今は思えた。
◾︎
本郷ルカは救いだと、レイが言っていた。
どうしようもない人生を歩んでいた自分たちを、救いあげ、輝かせてくれたのだと。
(──俺は、そうは思わない)
本郷ルカと出会わなくても、自分の人生、自分で輝かすことが出来た。たとえ周囲から崇められることはなくても、自分が納得できる人生を歩んだはずだ。
自分の人生は自分で決めて、自分で行動して、自分で掴み取る。
(みんな、あいつを過大評価し過ぎだ)
本郷ルカの存在など、大したことがないのだと、誰かに証明したくなった。
だから、浩誠に近づいたのかもしれない。
……いや、理由なんて後付けだ。気に入らなかった。それだけだ。
──次回、1/26連載スタート
浩誠×マサ『拾った恋の育て方』
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