ボッチ英雄譚

3匹の子猫

文字の大きさ
31 / 73

第31話

しおりを挟む
 予期せずに使用してしまったマジックアーマーの影響で重度の魔力枯渇症に陥った僕は、体調を整える為に1つだけ残しておいた魔力回復薬を異空間収納から取り出しました。

これはこれまでヒール草や毒消し草を採集してる中で、一緒に採集していたマジカル草を調合して作っていたものです。


 これまで僕はあまり魔力を使用する機会がなかったので、作成した魔力回復薬の殆どをニナに渡していましたが、これからはもう少し自分用も準備しておこうと思いました。


 重度な魔力枯渇状態は経験しないと辛さは分からないとよく言いますが、僕もここまで辛いとは思っていませんでした。まるでハンマーで頭の内部を滅茶苦茶に殴り続けられてるような痛みが続き、全身の穴からおかしな汗が吹き出し、関節が勝手に震えて体をうまく動かせなくなるのです。

さらには耳も聞こえづらくなり、歯はこのまま全て抜けるんじゃないか?と思えるほど激しく震えてしまうのです。正直魔力回復薬すらうまく飲めるのだろうかとかなり不安を覚えました。


 何とか飲むことに成功した魔力回復薬の効果は絶大でそれだけ苦しんでいた症状があっという間に落ち着きました。


 僕は久しぶりに今は何もしたくないと思えるほどふらふらな状態でそのまま横たわることとなりました。



「ロン、戻ったぞ!ってこんなところで寝てるのかよ!」


 戻ったハイン師匠の大きな声で僕は目覚めました。あれからいつの間にか眠ってしまったようです。


「ハイン師匠…おかえりなさい。」


「それでスキルは覚えたのか?」


「魔力感知と魔力操作のスキルはレベル3まで上がりました。」


「何?今の1時間の間にそんなに上がったのか?さすが10倍速だな!それにしてはやけに、テンション低くないか?何かあったのか?」


「ちょっと調子に乗って色々と試行錯誤していたら、危険なスキルを取得してしまいあっという間に魔力枯渇に陥ったんです。」


「はあ?どういうことだ!?」 


「魔力操作を利用して魔力のコーティングを自分に作れないか試していたらたまたまマジックベールというスキルを覚えたんです。それを全身に広げることに成功したので、今度は全力でそのマジックベールに魔力を込め続けたら、マジックアーマーというスキルを覚えたんです。

このスキルが使用してる間は魔力を恐ろしいくらい消費する上、魔力の回復をしなくなるというものだったのです。

すぐに解除しましたが、それでも魔力枯渇症になっていました。」


「何故そんな状況になるのかは置いといて、魔力枯渇症になったにしては元気だな?魔力回復薬を持っていたのか?」


「はい。幸い持っていて助かりました。もし持ってなかったらと思うとゾッとします。」


「魔力枯渇は魔法をメインに扱う人間には何より恐ろしいものだからな!」


「ハイン師匠も経験があるんですか?」


「司祭なんてしてると結構経験することになるぞ!急に怪我人が大勢現れたらギリギリまでは回復魔法を行使するしな!!魔力回復薬をがぶ飲みし過ぎてお腹一杯になることなんて当たり前だ!魔力回復薬が無くなっても、魔法が発動する限りは回復に努める。

魔力枯渇は俺が我慢すればいいが、怪我人は待ってくれねーからな。死ななければ後からでも救えるが、死んじまったら後悔しか残らねーからな…」


「立派ですね。僕にはとても真似できそうにないです。」


 これは素直な感想でした。他人の命を助ける為に自分があの苦しみを魔力回復薬がない状況で耐える決断をできるかといえば、今の僕にはとてもできそうになかったからです。

僧侶のジョブを授かる人はそういう決断をできる人が選ばれるのかもしれません。


 では何故僕はこんなボッチというジョブを授かったんでしょう?ニコルさんやガープ師匠、ハイン師匠、フラム師匠は僕が将来英雄になる為にその力を授けられたんだと言ってくれました。

でも僕は英雄になりたいと思ったこともないですし、物語の主人公たちのように悪と戦って世界を守りたいとも思いません。

どちらかというと、カッシュたち幼なじみやニコルさんのように仲良くなった人たちだけの役に立てればそれでいいと思ってるくらいです。それも救うなんておこがましく、回復薬を提供できる程度の役立ち方でも満足してしまってる程度の人間なのです。


期待をしてもらえるうちはその期待を裏切りたくはないとも思いますけどね。



「体調はどうだ?訓練を続けられそうか?」


「それは大丈夫です。もうだいぶ良くなりましたので!」


「そうか…じゃー次は回復魔法を覚えてもらおう。回復魔法を覚える方法は、誰かの傷に魔力操作で魔力を集めて、その傷が治っていくイメージを持ち続けることだ。」


「傷ですか?誰の傷を見るのですか?」


「そんなのロンの傷に決まってるじゃねーか!ちょちょいっと自分に切り傷でも付けてそれを治していけばいいんだ!!」


「自分にですか?」


回復に関わる人ってカミュー師匠の時もそうでしたが、自分を傷つけるのにあまり抵抗がないように見えます。


 仕方ないですし、僕はナイフを使って指先を切り裂きました。それを見て、ハイン師匠は黙って部屋を出ていきました。スキルを覚えやすいように環境を整えてくれたようです。

言われた通り、魔力を傷口に集めていきます。さらにその傷が消えていくイメージを持ち続けます。


《スキル 回復魔法lv1 を覚えました》
《魔法 ヒール を覚えました》
《魔法 キュア を覚えました》


 覚えられたようです。ヒールが怪我の治療する魔法で、キュアが病気や毒などの状態異常を治療する魔法のようです。

早速ヒールを唱えて、指の怪我を治療します。一瞬で怪我は消えてしまいました。



 考えたら僕は回復魔法のスキルレベルを上げるのは大変なんじゃないのかな?確か僕の回復魔法は他人には使用できない筈だし、僕自身が怪我をした時に使わないと上げることはできないんじゃないかな?


僕の心配はハイン師匠の一言で解決することになりました…


「んなもん、毎日自分を怪我させて治せばいいだけだ!!簡単な話じゃねーか!そうだな…よっぽどのことがねー限りは、毎日20回はヒールで回復するようにしろ!!分かったな!?」


「…はい。………」


「嫌そうだな?だがそれ以外に回復魔法のレベルを上げる方法がないだろ?」


 僕はこれまで様々な師匠たちから、様々な指示を受けていましたが、これがこれまでの中でも断トツで一番嫌な指令でした。何が悲しくて自分で自分を傷つけることを毎日の日課にしなければならないのでしょうか?


やりますよ?期待は裏切れないですからやりますけど、久しぶりに愚痴りたい気分になってしまったのも仕方ないでしょう?



 この後も、補助魔法も教わりました。

守りを上げるプロテクトアップ、素早さを上げるスピードアップ、力を上げるパワーアップ、魔力を上げるマインドアップです。

これらは強敵と戦う際には大きな力となりそうです。


ハイン師匠の言いつけで、この補助魔法もどれでもいいから毎日20回は使うことを日課として課せられました。


「うーむ。」


「どうかされましたか?」


「いやな…普通は回復魔法を教えるってことは経験を積ませる為に、怪我人を集めたり、教会の奉仕活動に参加させて経験を詰ませるんだ!だが、お前の場合は他人には回復魔法を使えねーからそれができねー!

つまりは俺にはもうロンに教えることは何もねーってことだ!!」


「えっ?そうなんですか?」


「いや!待てよ!おい、ロン!もう一度お前のジョブの特性の詳細をもう1度教えろ!!」


「えっ?はい。」


僕が説明をすると、ハイン師匠はニヤリと笑いました。


「いける…いけるぞ!まだ俺にも教えてやれることがあったようだぞ!!」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...