ボッチ英雄譚

3匹の子猫

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第58話

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「ちょっと!どういうことよ!?」


「はい。だから幽霊はヴェルドンさんというドワーフで、悪い幽霊じゃないみたいなんで、成仏できるまでこの屋敷で共に暮らすことになりました。」


「バンッ」


レナがテーブルを強く叩きつけました。


「そんなのあり得ないでしょ?何がどうなったらそうなっちゃうのよ!?幽霊と共同生活なんて絶対に嫌よ!!」


「そんなに嫌がらなくてもいいぞ!儂は主たちには何も悪さはせんぞ!」


「キャー!突然傍で声を出さないでよ!!鳥肌が立ったわ…もう何なのよ!!朝なのに何で幽霊が普通に行動できるのよ?」


「別に朝でも昼でも行動くらいはできるぞ?ただポルターガイストのような力は、夜でないと発揮できんがな!」


「何この幽霊?何でこんな普通なの?普通この世に未練が残ってる霊は悪霊とかじゃないの?」


「別に誰かを恨んでこの世に未練を残した訳ではないからの。まあレナもこれからよろしく頼んだぞ!」


「頼まれないわよ!出てけ!このくそ幽霊!!」


「最近のおなごは怖いのう…」


「まあまあ、できるだけ早く成仏できるよう僕も頑張りますので、それまでは許して下さい。」


「あー!奴隷生活2日目にしてこの展開は、この先が思いやられるわね!!そういえばもう1つあんたに文句があったのよ!何よあの手紙!!

何が「レナは僕の大事な奴隷なので、くれぐれも安心して宿泊できるようにお願いします。」よ!?宿の人たちの暖かな目が逆に痛かったわよ!!」


「ええー?何が問題なのか分からないですよ!どうすればよかったんですか?」




 その頃、商業ギルドのギルド長であるアーノルド·パーカーは山積みの報告書を確認しながらとんでもない事実に気づいていました。


「これは…事実ならば大変なことになる。

誰か!急ぎグレムリンをここへ連れてこい!!」


「ギルド長!私に何かご用でしょうか?」


「この件について確認をしたい。」


「あー。いつものようにうまい具合に幽霊のことは言わずに売り付けてます。少し特別なんですがと説明はしてますので、後から文句言ってきても何の問題はありません!」


「やはり、幽霊のことは説明してないのだな!?」


「はい。さすがにそれを話してしまえば誰も買いませんから。」


「とんでもないことになるかもしれんぞ!この商業ギルドが下手をすれば無くなるかもしれんぞ!!」


「どういうことでしょうか?」


「この契約したロンという冒険者の名前に覚えはないか?昨日の朝、私自ら通達した筈だが?」


「えっ?まさか、あんな普通のガキが昨日話していたイライザー家の後ろ盾を得たって冒険者なんですか!?さすがにそれはないですよ!」


「そのまさかだ!考えてもみろ!普通の少年が白金貨5枚の買い物を簡単に決めれるか?」


「ま、まさか…本当に。。」


「少なくともお前のクビくらいは覚悟しておけ!!これからの対応を少しでも誤れば、俺もお前も一族揃って本物の首が飛ぶとこになるぞ!!」


グレムリンの顔は真っ青に染まっていました。




 商業ギルドが何やら物騒な心配をしているのを他所に、僕とレナは家の掃除をしていました。さすがにパッと見綺麗に見えてもずっと人が住んでいなかったことで隅々には埃が被り、屋敷の広さのこともあり大変でした。

その中でもレナは優秀で、僕の2倍以上の速度で、僕以上に綺麗にしていっていました。特に驚いたのが、風属性の魔法でスカイという一時的に空を飛ぶ魔法を覚えているようで、高いところでもアッサリと綺麗にしていました。

 僕もレナもそれなりにレベルが高いので、休憩を取らずに作業を続けても疲れないようで、昼過ぎには屋敷の中はそれなりには綺麗になりました。


「さて、そろそろお昼にしようか?どこかに食べに行こうよ!」


「ちょっとあんたどうしたのよ!?」


「えっ?」


「いきなりそんな砕けた感じで話されたらビックリするわよ!」


「昨日レナが言ったでしょ?いつまでも丁寧語だと距離を取られてる感じがするって…僕もレナと少しは距離が近づいたかな?と思ったから変えてみたけど…やっぱりおかしかったかな?」


「·····そんなことないわよ!いい感じよ!!」


「えっ?なら何でそんな怒った感じ?やっぱり分からないよー!」



言えるわけないじゃない!ドキッとしたなんて…あんな無邪気な表情、こいつ天然のタラシなんじゃないの?



 街の食堂で食事をして、ついでに食材を買い家に戻ると、屋敷の前には立派な馬車が停まっていました。

僕たちが屋敷に近づくと、これまた立派な格好をした男性と妙に小さくなってしまったグレムリンさんが門の前に立っていました。


「あれ?グレムリンさんじゃないですか!どうされたんですか?それにそちらの方は…?」


「私商業ギルドを統括しております、アーノルド·パーカーと申します。この度は私どものところからこの屋敷をご購入頂き誠にありがとうございました!

本日伺ったのは、このグレムリンがこちらの屋敷について大事なことを説明もせずにロン様に販売してしまったと発覚しましたので、そのお詫びと対策についてお話をしたいと思いお伺い致しました。」


「ロン様!本当に申し訳ございませんでした!!私が説明をちゃんとできてなかったばかりにロン様に大変なご迷惑をお掛けすることになりましたこと、いくらお詫びしてもしきれません!!」


グレムリンさんはそう言いながら、こんな外で深々と土下座をしてくるのです。

 
「えっ?グレムリンさん?どういうことかいまいち分かってませんが、詳しい話は中で伺いますので、まずは立って下さい。」


屋敷の中に2人を案内するのですが、二人とも神妙な顔つきで一言も喋りません。


「あれどうなってるの?」


レナが聞いてきますが僕にもさっぱりです。


「どうぞ中へ!!」


「「失礼します!!」」


「レナ、悪いけどお茶を用意してもらえるかな?」


「承りました、ご主人様!」


「えっ?レナ?どうしたんだい?」


「こういう時くらいきちんとするわよ!バカ!」


と小声で怒られちゃいました。



「それで、どういうことでしょうか?」


「先程お話させて頂いた通りですが、うちのグレムリンがこの物件で重要な情報のご説明をせずにロン様にお売りしたことが発覚しました。」


「重要な情報?」


「こちらの屋敷には昔から幽霊が出るのです。そのような物件をロン様に販売する訳にはいきませんので、我々が他にご用意できる物件の中からロン様に相応しいものをお選び頂きたいと思っております。

どれもこの屋敷をはるかに越える屋敷ばかりですので、きっとロン様にも気に入ってもらえるかと思います!!」


「あー!そのことですか?確かに昨日は突然で驚きましたが、もうその件は解決しましたからご心配には及びません。」


「えっ?解決ですか?」


「はい。昨夜、幽霊のヴェルドンさんとじっくりお話をして、僕の力で成仏してもらえるまで、しばらくは共に共生することにしたのです。」


「はっ?浄化でなく成仏ですか?」


「はい!浄化するのは簡単なんですが、ヴェルドンさんの願いを叶えたらきっと成仏できるんじゃないかと思ったんです。」


「浄化は勘弁してくれ!」


「い、今の声は!?」


「はい。ヴェルドンさんです。すぐそこで話を聞いてますよ!」


「ひいっ!」


グレムリンさんはキョロキョロしてます。一方アーノルドさんは動じることなく話を続けられました。


「やはりすごい方ですね!さすがは若干15才にして、イライザー家の後ろ盾をもらわれるだけのことはあられる!」


「ガチャン!」


離れた場所から食器のぶつかるような音が聞こえてきます。



「やはりそれをご存知なんですね?」


「この街で商売をする人間でロン様の名を知らないものは、もういないと思いますよ。」



えー。どこからそんな情報が回るんだよ。ハイドさんがわざわざ通達したのかな?


「そうなのですか?それは困りました。」


「困られるのですか?」


「僕は目立つのが苦手なんです。」


「ふっ。失礼しました。まさかあのイライザー家の後ろ盾をもらっておいて、目立つから困ると言われると思ってもいなかったので!しかし、ラルク·ハイ·イライザー氏がロン様を好きになられた気持ちは私にも分かりました!

我々商業ギルドもロン様の後ろ盾になることを誓いましょう。もちろんロン様が目立たれるのを好まないのを考慮して、表立って発表などは致しません!」



えっ?また後ろ盾?そもそも僕にはその後ろ盾が何なのかすらいまいち理解できてないんだよな…


「えっと、実は僕にはその後ろ盾というものがどんなものなのかすら理解できてないんです。ただお気持ちだけでも嬉しいです。」


「ロン様はそれくらいでよろしいかと!」


 この後アーノルドさんはこの家の代金を返そうとされましたが、お断りさせてもらいました。あくまでも僕が金額に納得して購入したものなので、返金してもらうのは違うと思ったのです。

代わりに商業ギルドから引っ越しのお祝いに最新の様々な魔道具を取り付けてもらえることになりました。

これはお気持ちなので受けとることにしました。


 それと何故かグレムリンさんをクビにするので、一族は許してあげて欲しいとお願いされましたが、そもそもグレムリンさんをクビにする必要もないと僕が言ったら、グレムリンさんは号泣して僕に感謝の言葉を連発していました。

そしてグレムリンさんは翌日一族総出でこの屋敷の清掃や商業ギルドから贈られた魔道具の設置をさせて下さいとお願いされましたので、断るのもどうかと思ったのでお願いしてしまいました。


 これがまた凄い人数で、優秀な方も多く、商業ギルドからの魔道具も予想していたよりも多く、僕の屋敷はあっという間に綺麗で立派な屋敷となりました。

 僕はまさかあの時の僕の反応一つでこの人たち全員の命が懸かっていたとは、欠片も思いもしませんでした。何事もなく終わって本当に良かったです。


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