「こんにちは、パペットさん」

むー

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木曜日のパペットさん

元演劇部のパペットさん 13

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美術室の窓際に対面するように椅子を置いて座る。
向かいにはボランティア部の顧問でもある細田先生が座った。

「田波のこと、どこまで知ってるか聞かせてくれるか?」
「知ってることって、えーと、3年で、目がおっきくて、笑顔が可愛くて、チョコが好きで」
「そういうことじゃない」

細田先生がキレ気味に言うと、若草先輩がプッと笑った。

「そういうことじゃないって……あー1年の頃は演劇部だった、とか、リスくん着けてないと喋れない、とか?」
「他には?」
「あと『不思議ちゃんのパペットさん』って呼ばれているってことくらいかな」
「まあそんなもんか。演劇部を辞めた田波をボランティア部に誘ったのは若草だ。部員は顧問の俺が決めているとか言われているらしいが実際に決めているのは若草だ」
「えっ」

驚いて若草先輩を見るが、絵に集中しているようでオレたちの視線には気付いていないようだ。

「若草と田波は2年の時同じクラスでな、GW明けに若草が田波を突然連れて来たんだよ。部員勧誘して来たって」
「勧誘?」
「実際は連行だな。その頃には田波は全然喋らなくなってて会話は筆談でな……その時喋れなくなったのは精神的なものだと教えてくれたが、その理由だけは教えてくれなかった。ただ……」

細田先生はふぅっと息を吐く。
無意識に胸ポケットからタバコを取り出したけど「センセ」と若草先輩に呼ばれて慌ててポケットに戻した。

「ただ?」
「ただ、戸塚の名前をあげると無表情だった顔が強張った。まあ戸塚アイツのいい噂なんて胡散臭いものばかりだったからな。それで田波にどうにか喋らせられないかと考えてリスのパペットを渡したんだ。『話したくなったらこのリスに喋らせろ』ってな。それ以来パペット越しに少しずつ喋るようになったんだよ」
「……うおっ」
「そのおかげで俺たちもパペット持たされるようになったけどね」

いつの間にかオレたちの側に来ていた若草先輩が、オレの目の前でウサギのパペットをパクパクさせた。

「終わったのか?」
「まだ。塗ったとこ乾いたら続ける」
「終わりそうか?」
「ギリ……かな。まっ、終わらせるよ」

若草先輩は近くにあった丸椅子を引っ張ってきて座った。

「田波を誘ったのちょうど部員探し始めた時でさ。あん時、俺しか部員いなくて部にもなってなかったからちょうど良かったんだよ」
「ちょうど良い、ねぇ」

細田先生がニヤニヤしながら若草先輩を見ると、その肩にウサギが噛み付いた。

「それで、田波先輩に何があったんですか?先生は知ってるんですよね?」
「ああ、まあ多少はな」
「俺は勧誘しただけだから知らないよ。いくら同じ部の仲間といえ、他人の事情に首を突っ込むほどゲスなことはしない。他の奴らもそう。俺らにはここしか居場所がないからさ」

若草先輩は眉をハの字にして笑った。


____________________

次回は18時更新予定です。

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