「こんにちは、パペットさん」

むー

文字の大きさ
上 下
18 / 21
木曜日のパペットさん

元演劇部のパペットさん 17

しおりを挟む
「あ、あ……かっ……なまっ」

衝撃が強すぎて出てきた言葉は単語にすらならなかった。
オレにだけ向けられた先輩の笑顔。
それに口の動きに合わせてオレの名前を呼ぶ先輩の声。
今日だけでオレの願いが3つも叶ってしまいパニックになった。

ずっとマスクの下に隠されていた田波先輩の顔は男らしさが少しあり、笑顔はやっぱり可愛い。
そしてオレの名前を呼ぶ少し低い声は、心臓がドキドキするほど魅力的だ。
やっぱりオレーー。

「田波先輩。前に先輩に告白したことなんですが……やっぱりオレ……」

胸を押さえて俯き話すオレの耳に息を呑む音が聞こえた。

「先輩?」
「やっぱり気のせいだった?」
「気の……せい?」
「話した通り、僕は……君が考えていたような綺麗な人間じゃない。引いたよね。だかーー」

外したマスクを着け直そうとする両手をガシッと掴んだ。

「オレがっ。……オレがやっぱり好きだと思う先輩は、毎週毎週押しかけても追い返さなくて、オレが喋ったら反応してくれて、チョコが好きで、一度だけ見た食べ方がリスっぽくて可愛くて、辛い過去も隠さず話してくれて、それで……」
「倉ーー」
「今見せてくれた目を三日月みたいな形にして笑う笑顔なんです。好きで好きで、大好きなんですよ!」
「……え?」

オレの一世一代といえる告白に、田波先輩は大きな目をさらに大きくして固まった。
数秒後、大きな目からポタポタと綺麗な雫を溢した。

「……せ、先輩?」
「こ……怖かったぁ」
「あっ、わっ、あのっ」

泣き出した先輩にオレはパニックに陥った。

「あのっ、ごっ、ごめんなさい。泣くほど怖がらせるつもりなくって……その」

必死に言い訳がましいことを言うと、目元をリスくんで押さえながら頭をフルフルと振った。
でもその体は小刻みに震えている。

「違っ……違う。……僕は、ずっと怖かったんだ……。あの人と付き合うようになってから。……あの部屋で2人っきりになって……言われるままセックスするのが……ずっ……こわっ、怖かった」
「先輩……」
「だから……倉田くんに、けっ、軽蔑されても、仕方が、ないって……思って……。でも、これで嫌われたらどうしよっ……て考えたら……もっと怖かった…」

しゃくり上げながら泣く田波先輩に気の利いた言葉なんて出てこない。

ただ、先輩に握られた手をそっと握り返した。

しおりを挟む

処理中です...