3 / 78
本編
6月 ②
しおりを挟む
気がつくとそこはベットの上だった。
「ん……あれ……」
「如月くん、起きた?気分はどう?」
物音に気づいた女性がカーテンを少し開けて声を掛けてきた。
白衣を着ているので保健医らしいその人は、オレが起きたことを確認して近づいた。
「あ、はい。大丈夫です」
「頭痛や吐き気とか……本当にない?」
保健医は体温計を渡しながらもう一度確認を取ってきた。
体温計を脇に挟み、少し考える。
「特にないです」
ピピピピと検温の終了の音がして、体温計を抜いて返す。
「37.2度。うーん、ちょっと高めだけど、顔色も悪くなさそうだし大丈夫ね」
「はい」
「じゃあ、薬を用意するから帰る準備して」
そう言うと保健医は出ていった。
ベットの傍にある籠には、オレのカバンと見慣れぬカーディガンが畳まれて置かれていた。
カーディガンからは薄ら薔薇の香りがした。
「先生、このカーディーー」
「あ、準備できたわね。そこに座って」
丸椅子に座ったオレに保健医は薬袋を渡し説明を始めた。
「こっちが抑制剤ね。はじめは軽めのものにしてるから。朝起きてすぐ飲んだら、そこからは4時間おきに飲むように。飲んで具合が悪くなったら飲むのを止めてすぐ私のとこに連絡するように。あ、連絡先はココね。薬の効きが悪い時もよ。ここにいるアルファは生徒だけでなく教員もいるから、薬が切れて何かあったら教員の人生も終わっちゃうからね」
この他に緊急抑制剤や熱があるから解熱剤も処方された。
捲し立てるように説明されたが、薬袋の中に説明書きがあると言われてホッとした。
「とりあえず、明日は様子見で休むように」
「えー」
「えーじゃない。これが本格的な発情期だったらあと3日は延長だからね」
「うぇぇ、授業付いていけない」
「そこは担任に相談しなさい」
保健医はベータで、すっごくサバサバした人だった。
「あーあと身体を冷やさないように、そのカーディガン羽織っていきなさい」
「これオレのじゃない」
「じゃあ、九条くんのね。熱があるんだから着て帰りなさい。それに、そんなの後で洗って返せばいいんだから、ね」
「あ……はい」
観念してカーディガンに袖を通す。
オレには大きすぎてダボダボになるカーディガンからは薔薇の香りがし、抱きしめられているような錯覚がしてまた体が少し熱くなった。
「ぷっ、なんか大人の服を着てる子供みたいね」
「なっっ、子供ってーー。このカーディガンの持ち主がデカすぎるんだよ」
「ふははっ、まあまあそんなにカッカしないの。熱上がるわよ」
もうすでに上がってるっつーの。
フーフーしながらもらった薬をカバンに突っ込んで保健室の出口に向かう。
「あーそのカーディガンの持ち主、3-Aの九条皇貴だからね」
「はいはい。ありがとうございました。失礼します」
「真面目ーあははっ」と保健医の笑い声が聞こえたが、あえて無視して扉を閉める。
昇降口を出ると空はすでに夕暮れに染まっていた。
その日帰ってから土日を含め、オレは部屋から一歩も出ずに過ごした。
食事は部屋に届けられ一人で食べるという味気ない日々を過ごした。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
この学園の寮は、α寮、β寮、Ω寮と棟が分けられている。
アルファとオメガは1人一部屋、ベータは2人一部屋を充てがわれている。
それぞれ部屋はワンルーム構造で、バス・トイレ・キッチンが付いていて、家具や家電機器まで揃っている。
洗濯機なんて乾燥機付き。
料理を作りたい場合は朝に購入リストを提出すれば帰宅時にもらえるシステムだ。
もちろん、お金はかかるけど。
その代わり、外出はそれなりに厳しい。
アルファ・ベータは比較的緩めで外出届を出せば割とアッサリ承認されるのに対し、オメガは発情期の周期、前回の発情期の時期とその期間、誰と会う等、届出への記載箇所が多く、提出しても承認されないこともあると入寮時の説明で言われた。
オメガは人口の割合も一番低いし、更に男のオメガなんて女のオメガより少なく絶滅危惧種だ。
おまけに男のオメガは優秀なアルファを産むと言われているから、学園の庇護は厚い。
ただし、全オメガの庇護は無理なため、庇護されるにはそれなりの学力が伴わないといけない。
そのため、1学年のオメガの人数が限られている。
オレはたまたま空いていた1枠に入れてここにいる。
そして、今必死こいて勉強をしてる。
あの発情は結局、本格的な発情期にはならなかった。
でも近いうちに始まるだろうと週明け訪れた保健室で保健医に言われた。
それまでになんとか授業に追いつかないと、来年の春にはここを追い出されてしまう。
ううっ、頭が痛くなってきた……。
__________________
4/21 微修正
明日明後日→明日
※2021年カレンダーを参考に作成しているため
「ん……あれ……」
「如月くん、起きた?気分はどう?」
物音に気づいた女性がカーテンを少し開けて声を掛けてきた。
白衣を着ているので保健医らしいその人は、オレが起きたことを確認して近づいた。
「あ、はい。大丈夫です」
「頭痛や吐き気とか……本当にない?」
保健医は体温計を渡しながらもう一度確認を取ってきた。
体温計を脇に挟み、少し考える。
「特にないです」
ピピピピと検温の終了の音がして、体温計を抜いて返す。
「37.2度。うーん、ちょっと高めだけど、顔色も悪くなさそうだし大丈夫ね」
「はい」
「じゃあ、薬を用意するから帰る準備して」
そう言うと保健医は出ていった。
ベットの傍にある籠には、オレのカバンと見慣れぬカーディガンが畳まれて置かれていた。
カーディガンからは薄ら薔薇の香りがした。
「先生、このカーディーー」
「あ、準備できたわね。そこに座って」
丸椅子に座ったオレに保健医は薬袋を渡し説明を始めた。
「こっちが抑制剤ね。はじめは軽めのものにしてるから。朝起きてすぐ飲んだら、そこからは4時間おきに飲むように。飲んで具合が悪くなったら飲むのを止めてすぐ私のとこに連絡するように。あ、連絡先はココね。薬の効きが悪い時もよ。ここにいるアルファは生徒だけでなく教員もいるから、薬が切れて何かあったら教員の人生も終わっちゃうからね」
この他に緊急抑制剤や熱があるから解熱剤も処方された。
捲し立てるように説明されたが、薬袋の中に説明書きがあると言われてホッとした。
「とりあえず、明日は様子見で休むように」
「えー」
「えーじゃない。これが本格的な発情期だったらあと3日は延長だからね」
「うぇぇ、授業付いていけない」
「そこは担任に相談しなさい」
保健医はベータで、すっごくサバサバした人だった。
「あーあと身体を冷やさないように、そのカーディガン羽織っていきなさい」
「これオレのじゃない」
「じゃあ、九条くんのね。熱があるんだから着て帰りなさい。それに、そんなの後で洗って返せばいいんだから、ね」
「あ……はい」
観念してカーディガンに袖を通す。
オレには大きすぎてダボダボになるカーディガンからは薔薇の香りがし、抱きしめられているような錯覚がしてまた体が少し熱くなった。
「ぷっ、なんか大人の服を着てる子供みたいね」
「なっっ、子供ってーー。このカーディガンの持ち主がデカすぎるんだよ」
「ふははっ、まあまあそんなにカッカしないの。熱上がるわよ」
もうすでに上がってるっつーの。
フーフーしながらもらった薬をカバンに突っ込んで保健室の出口に向かう。
「あーそのカーディガンの持ち主、3-Aの九条皇貴だからね」
「はいはい。ありがとうございました。失礼します」
「真面目ーあははっ」と保健医の笑い声が聞こえたが、あえて無視して扉を閉める。
昇降口を出ると空はすでに夕暮れに染まっていた。
その日帰ってから土日を含め、オレは部屋から一歩も出ずに過ごした。
食事は部屋に届けられ一人で食べるという味気ない日々を過ごした。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
この学園の寮は、α寮、β寮、Ω寮と棟が分けられている。
アルファとオメガは1人一部屋、ベータは2人一部屋を充てがわれている。
それぞれ部屋はワンルーム構造で、バス・トイレ・キッチンが付いていて、家具や家電機器まで揃っている。
洗濯機なんて乾燥機付き。
料理を作りたい場合は朝に購入リストを提出すれば帰宅時にもらえるシステムだ。
もちろん、お金はかかるけど。
その代わり、外出はそれなりに厳しい。
アルファ・ベータは比較的緩めで外出届を出せば割とアッサリ承認されるのに対し、オメガは発情期の周期、前回の発情期の時期とその期間、誰と会う等、届出への記載箇所が多く、提出しても承認されないこともあると入寮時の説明で言われた。
オメガは人口の割合も一番低いし、更に男のオメガなんて女のオメガより少なく絶滅危惧種だ。
おまけに男のオメガは優秀なアルファを産むと言われているから、学園の庇護は厚い。
ただし、全オメガの庇護は無理なため、庇護されるにはそれなりの学力が伴わないといけない。
そのため、1学年のオメガの人数が限られている。
オレはたまたま空いていた1枠に入れてここにいる。
そして、今必死こいて勉強をしてる。
あの発情は結局、本格的な発情期にはならなかった。
でも近いうちに始まるだろうと週明け訪れた保健室で保健医に言われた。
それまでになんとか授業に追いつかないと、来年の春にはここを追い出されてしまう。
ううっ、頭が痛くなってきた……。
__________________
4/21 微修正
明日明後日→明日
※2021年カレンダーを参考に作成しているため
22
あなたにおすすめの小説
あなたの家族にしてください
秋月真鳥
BL
ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。
情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。
闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。
そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。
サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。
対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。
それなのに、なぜ。
番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。
一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。
ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。
すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。
※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。
※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~
一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。
そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。
オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。
(ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります)
番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。
表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる