金の野獣と薔薇の番

むー

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本編

6月 ②

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気がつくとそこはベットの上だった。

「ん……あれ……」
「如月くん、起きた?気分はどう?」

物音に気づいた女性がカーテンを少し開けて声を掛けてきた。
白衣を着ているので保健医らしいその人は、オレが起きたことを確認して近づいた。

「あ、はい。大丈夫です」
「頭痛や吐き気とか……本当にない?」

保健医は体温計を渡しながらもう一度確認を取ってきた。
体温計を脇に挟み、少し考える。

「特にないです」

ピピピピと検温の終了の音がして、体温計を抜いて返す。

「37.2度。うーん、ちょっと高めだけど、顔色も悪くなさそうだし大丈夫ね」
「はい」
「じゃあ、薬を用意するから帰る準備して」

そう言うと保健医は出ていった。
ベットの傍にある籠には、オレのカバンと見慣れぬカーディガンが畳まれて置かれていた。
カーディガンからは薄ら薔薇の香りがした。

「先生、このカーディーー」
「あ、準備できたわね。そこに座って」

丸椅子に座ったオレに保健医は薬袋を渡し説明を始めた。

「こっちが抑制剤ね。はじめは軽めのものにしてるから。朝起きてすぐ飲んだら、そこからは4時間おきに飲むように。飲んで具合が悪くなったら飲むのを止めてすぐ私のとこに連絡するように。あ、連絡先はココね。薬の効きが悪い時もよ。ここにいるアルファは生徒だけでなく教員もいるから、薬が切れて何かあったら教員の人生も終わっちゃうからね」

この他に緊急抑制剤や熱があるから解熱剤も処方された。
捲し立てるように説明されたが、薬袋の中に説明書きがあると言われてホッとした。

「とりあえず、明日は様子見で休むように」
「えー」
「えーじゃない。これが本格的な発情期だったらあと3日は延長だからね」
「うぇぇ、授業付いていけない」
「そこは担任に相談しなさい」

保健医はベータで、すっごくサバサバした人だった。

「あーあと身体を冷やさないように、そのカーディガン羽織っていきなさい」
「これオレのじゃない」
「じゃあ、九条くんのね。熱があるんだから着て帰りなさい。それに、そんなの後で洗って返せばいいんだから、ね」
「あ……はい」

観念してカーディガンに袖を通す。
オレには大きすぎてダボダボになるカーディガンからは薔薇の香りがし、抱きしめられているような錯覚がしてまた体が少し熱くなった。

「ぷっ、なんか大人の服を着てる子供みたいね」
「なっっ、子供ってーー。このカーディガンの持ち主がデカすぎるんだよ」
「ふははっ、まあまあそんなにカッカしないの。熱上がるわよ」

もうすでに上がってるっつーの。
フーフーしながらもらった薬をカバンに突っ込んで保健室の出口に向かう。

「あーそのカーディガンの持ち主、3-Aの九条皇貴だからね」
「はいはい。ありがとうございました。失礼します」

「真面目ーあははっ」と保健医の笑い声が聞こえたが、あえて無視して扉を閉める。

昇降口を出ると空はすでに夕暮れに染まっていた。

その日帰ってから土日を含め、オレは部屋から一歩も出ずに過ごした。
食事は部屋に届けられ一人で食べるという味気ない日々を過ごした。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

この学園の寮は、α寮、β寮、Ω寮と棟が分けられている。
アルファとオメガは1人一部屋、ベータは2人一部屋を充てがわれている。
それぞれ部屋はワンルーム構造で、バス・トイレ・キッチンが付いていて、家具や家電機器まで揃っている。
洗濯機なんて乾燥機付き。
料理を作りたい場合は朝に購入リストを提出すれば帰宅時にもらえるシステムだ。
もちろん、お金はかかるけど。
その代わり、外出はそれなりに厳しい。
アルファ・ベータは比較的緩めで外出届を出せば割とアッサリ承認されるのに対し、オメガは発情期の周期、前回の発情期の時期とその期間、誰と会う等、届出への記載箇所が多く、提出しても承認されないこともあると入寮時の説明で言われた。

オメガは人口の割合も一番低いし、更に男のオメガなんて女のオメガより少なく絶滅危惧種だ。
おまけに男のオメガは優秀なアルファを産むと言われているから、学園の庇護は厚い。
ただし、全オメガの庇護は無理なため、庇護されるにはそれなりの学力が伴わないといけない。
そのため、1学年のオメガの人数が限られている。
オレはたまたま空いていた1枠に入れてここにいる。
そして、今必死こいて勉強をしてる。

あの発情は結局、本格的な発情期にはならなかった。
でも近いうちに始まるだろうと週明け訪れた保健室で保健医に言われた。

それまでになんとか授業に追いつかないと、来年の春にはここを追い出されてしまう。

ううっ、頭が痛くなってきた……。


__________________

4/21 微修正
明日明後日→明日
※2021年カレンダーを参考に作成しているため
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