金の野獣と薔薇の番

むー

文字の大きさ
9 / 78
本編

8月 ② side Khoki

しおりを挟む
あの熱が忘れられない。

放たれるフェロモンは官能的なのにとても心地よくて、熱い吐息ごと唇を塞ぐと頭が痺れるくらい気持ち良かった。
苦しそうな様子に唇を離すと荒い呼吸で酸素を求めて吸い込むのに、息も整わない内に首の後ろに回した腕を引き寄せて「もっと、もっと」と涙を浮かべて強請る唇にまた引き寄せられて塞ぐ。
何度も何度もそうした。

あんなこと初めてだった。
最後までしなかったのも初めてだった。

いつもの俺なら、相手のことなんて気遣うことはせず、好き勝手にやっていた。
相手も気持ち良く喘いでいるから、気にする必要はないから。

あの後、気を失った結季に俺の精液を口移しで飲ませると発情期が落ち着いた。
服を整えてから保健室に運び、後のことを保健医に任せた。

結季はそのまま夏休みが入るまで休んだらしい。
終業式の日、廊下で保健医に呼び止められ、結季があの時飲んだ薬が欲しいとしつこく聞かれたけどないと答えたと教えてくれた。
そりゃ言えるわけないよな。


そのまま夏休み入り、俺も実家に帰省しているため、始業式まで結季に会えない。

休み中、俺と会いたいと連絡してくるヤツはいたが、俺は別に会わなくても平気だった。
のに、結季に会えないことは、すごくもどかしかった。
声が聞きたいなんて……。
こんなことなら、連絡先くらい交換しておくべきだったと今更ながら後悔した。


「お兄ちゃん、プール行こ」

9つ下の妹がノックもせずに部屋に入ってきた。
妹とは半分だけ血が繋がっている。
母親と再婚相手の間にできた子だ。
義父は血の繋がらない俺を実の子供として育ててくれている。
だから、本当の父親について知りたいとは思うことはなかった。
いや、再婚する前から知りたいとは思っていなかった。

妹は俺の顔を覗き込みながら「行こう」と腕を引っ張る。
妹は人と違う俺の瞳に気にする様子もなく覗き込んだ。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

子供の頃に発現したこの瞳は、暫くコンタクトで誤魔化していた。

中学に上がると、俺は声を掛けてきた女に誘われてセックスを覚えた。
アルファである俺は、どこに行っても男女問わず誘われて、相手に誘われるまま望む行為をした。
そんな日々を過ごしていると、毎日のコンタクト脱着が煩わしくなり、裸眼で出掛けるようになった。
好奇の目で俺を見る人が増え、前より誘われることが増えた。
皆、俺の金のこの瞳がコンタクトだと思ってよく似合うと褒めてくれたが、裸眼と気付く人はいなかった。

試しに裸眼だと教えたことがあった。
だけど怯えた目をされたから、すぐ冗談だと言った。
それ以来、この瞳が裸眼だということを俺から言うことはなくなったし、褒められても聞き流すようにした。

家族は俺の瞳を見ても全く動じない。
至って普通だ。
それは、俺にとって一番ありがたい事だった。


高校に上がると、より声を掛けられることが増えた。。
ある日、オメガの男に誘われてホテル行くとその男が発情期に入った。
発情期のオメガとの行為は何度かあったが、なぜか俺にはそのフェロモンで理性を失うことはなかった。
その日も俺は至っていつも通りにオメガの男を抱いた。すると男は何を勘違いしたのか、項を噛んで欲しいと何度も強請ってきた。
いつもは聞き流していたが、耳元でキャンキャン騒がれイライラした。遂に男を黙らせるため項ではなく肩を噛んだ。
すると、男の発情期は止まった。
それからは、面倒くさいオメガの発情期に遭遇した時は身体のどこかを噛むようになった。


だが、あの日の結季には効かなかった。
それどころか、俺は初めてオメガのフェロモンに当てられた。


結季は俺が出会った人の中では、全てが想定外の男だった。
俺の瞳について聞くことはせず、「目が綺麗」と言い嬉しそうに顔を寄せてきた。

そして、発情期の熱に翻弄された結季の「お星さまみたいだ」の言葉に、遠い昔の記憶を思い出させた。

俺は結季のことをもっと知りたくなった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「お兄ちゃーん」

俺の悩みなんて妹は気にも留めない。

俺は支度をして茶色に見えるコンタクトを着けると、妹に手を引かれ市民プールに行った。

夏休みは、あと半月以上残っている。

長いな…。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「呪いを解くには毎日可愛いと言ってください」と嘘をついたら、氷の聖騎士様が本気で口説きにかかってきました

たら昆布
BL
間違って呪われた青年と呪いを解除したい騎士の話 番外編はその友達たちの話

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀
BL
産まれた時から一緒の二人は、距離感バグった幼馴染。 そんな『幼馴染以上恋人未満』の二人が、周りから「え? あれでまだ付き合ってないの?」と言われつつ、見守られているお話。 オメガバースですが、Rなし全年齢BLとなっています。 (ほんのりRの番外編は『麻紀の色々置き場』に載せてあります) 番外編やスピンオフも公開していますので、楽しんでいただけると嬉しいです。 11/15 より、「太陽の話」(スピンオフ2)を公開しました。完結済。 表紙と挿絵は、トリュフさん(@trufflechocolat)

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

処理中です...