金の野獣と薔薇の番

むー

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本編

11月 ③

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「ゆいちゃん、魔導士様のお迎えがきたよ」
「あ、はーい」

皇貴先輩の提案で、昨日の午後から、オレと瑠可の休憩の際、アルファの生徒会役員が迎えにきてくれることになった。
昨日は、午後の休憩のお迎えで現れた司祭姿の生徒会長に教室は騒ついた。

ちなみに、今日のお昼休憩のお迎えは魔導士姿の生徒会長だ。
先輩たちのクラスの出し物って…?

「生徒会長のクラスの出し物は何ですか?」
「謎解きゲームですよ」
「謎解きゲームで魔導士って…」
「これはクラス委員長の気分です」

3-Aの方々は成績優秀なだけでなく、ちょっと個性の強い方が多いようだ。

「あの、生徒会長。少し校内を回りたいんですが…」
「どこか行きたいところがあるのですか?」
「折角の学園祭なので、少しぐらい楽しみたいなって」

今女の子の格好してるし、上目遣いでお願いしたらいけるかなって試してみると、生徒会長は無表情のまま顎に拳を当てて少し考えた。

「わかりました。ではまずウチのクラスに行きましょう」

意外にアッサリと承諾してくれた。
いや、少しぐらい動揺してくれても…。


「あれ?望月、休憩じゃ?」
「ああ。皇貴は?」
「今、客の相手してる」

RPGに出てきそうな格好の生徒が何箇所かに分かれて接客をしていた。

「如月くん、これを」
「何ですか?」

スタンプカードと『ヒントカード』と書かれたカードを3枚渡された。
謎解きゲームの挑戦者に配られているもののようだ。

「折角なのでチャレンジしてみませんか?⭐︎がついているポイントで謎を解くとヒントカードが1枚貰えますよ」

壁に貼られた説明には制限時間内に7つの謎を解くと願いごとを一つ叶えてくれるというもので、謎解きはやったことないがちょっと面白そうだった。

「やってみたいです」
「レベル1はココだよ。おいで」

手招きする神父の元に行くと、改めて簡単にルールを説明してくれ、レベル1の謎カードを渡された。
始めてみると、面白くて夢中で解いていたら、最後の謎まで辿り着いた。
この段階で、ヒントカードは手持ち分も途中の謎解きでゲットした分も無くなっていた。
7つ目の謎は暗幕の奥にあったが、その前に2人並んでいた。
既に30分も経っていたため移動したかったけど、生徒会長が見当たらずとりあえず列に並んだ。


「「あ…」」

順番を待って暗幕の中に入ると、そこにいた人物に驚いた。

「ゆう…じゃなくて、ゆいちゃんだったな。お前も参加してたのか」
「最後の番人は先輩なんですね。魔王か何かですか?」
「魔王じゃねぇよ。これでも一応キング。何人かと交代でやってるけどな」

全身黒でマントを羽織った姿は、どう見ても魔王だ。
「ほらよ」と渡された謎カードを読む。
最終問題だけあって、さっぱりわからない。
腕時計を見ると、アレから10分経っていていて、このまま謎解きしていたら他の場所を回ることができない。

「先輩…ギブ」
「はぁ?諦めんの早すぎ。ヒントカードは?」
「そんなもの、ここに来る前に使い切りましたよ。時間ないんでギブアップします」
「おい」

立ち上がろうとすると手首を掴まれ、訳がわからないと言わんばかりの顔で見られる。

「残りの時間で校内回りたいのでこれで失礼します」
「昨日、危ない目にあっといて?」
「生徒会長にお願いしているので大丈夫ですよ」

心配そうな顔を向ける皇貴先輩にそう言うと、逆に手首を引っ張られた。

「駄目だ」
「ええっ」
「謎が解けなかったお前には罰ゲームを受けてもらう」

最初の説明ではそんな話聞いていない。

「そ、そんなルールにーー」
「今決めた。魔王なんだろ、俺は?」

魔王はニヤリと笑って立ち上がり、オレの手首を掴んだまま暗幕の外に出た。

「佳都」

さっきまで見当たらなかった生徒会長がいて、心得たとばかりに頷いた。

「ちゃんと時間までに彼を送り届けてくださいね」
「わかってる。行くぞ」

手を引かれ教室を出る前に後ろを振り返ると、生徒会長は薄ら微笑んでいた。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

とりあえずお腹が空いていたので、外の屋台で片手で食べれそうなものを買って食べた。
学生主導だけど、ちゃんとプロの人が指導している食べ物は美味しかった。
棒に巻きついたお好み焼きみたいなやつは、モチモチしててかなりお腹が満たされた。

「ほら」
「え、ありがとうございます」

皇貴先輩から苺と葡萄が交互に刺さった飴を渡された。
パリパリとした食感と中から溢れる葡萄の果汁が美味しい。

「スッゲー美味そうな顔してんな」
「本当に美味しいんだもん」

フッと笑われて恥ずかしくてプイッとそっぽを向いたら、グイッと串を持つ手首を掴まれた。

「ん、マジで美味い」
「あっ、苺まだ食べてないのになんで食べるんですか」

まだ食べていない苺を食べられて思わず怒ったら、今度はブハッと笑われた

「怒んのそこかよ」
「えっ?……あ…」

恥ずかしくなって俯いた。
こんなのバカップルのやり取りだ。
恥ずかしすぎてバクバクと残りを一気に食べたが、もう顔が上げられそうにない。

「ああ、もう時間だな。行くぞ」
「……はい」

ごく自然に手を繋がれたオレは、消え入りそうなくらい小さい声で返事をして、皇貴先輩に手を引かれて教室へ戻った。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

「ゆいちゃん、可愛いね。俺とデートしない?」
「楓兄、ウザイ」
「もう楓、揶揄わないの!でも本当に可愛いわね」
「最早、別人だね」

午後に来場した家族に散々弄られ、ガックシと肩を落とす。

「あれ、腕どうした?」
「えっ腕?アレいつの間に?」

オレの左腕に小さな切り傷が出来ていて血が滲んでいた。
義母に絆創膏を貼ってもらいながらどこで切ったのか考えるが全く思い当たらない。

「あれ、ゆいちゃんも怪我したの?」
「も、って?」
「うん、るーもちょっと切っちゃった。もう血は止まったんだけどね」

オレと同じように腕の傷を見せる。
義母が絆創膏をもう一枚取り出して瑠可の傷口に貼ると「わぁ、ありがとうございます」とお礼を言った。

「ゆう、昨日今日で何か変わったことはあったか?」
「ううん、ないよ」

義父が少し怖い顔をして聞いてきたが、すぐ笑顔に戻った。

「そうか、なら良い。ゆう、次の休憩の時にみんなで写真を撮ろう」
「この格好で?」
「「もちろん」」

義父の提案に顔を引き攣らせるオレに対し、義母と義兄が声を揃えて応えた。

その後、休憩に入ったオレは、父兄面会用の別室で黒猫中華メイド姿で家族と集合写真を撮った。
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