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異世界での最後の夜はいつもと変わらず終わろうとしていた。
が、昼寝をしすぎたオレは眠れずにいた。
大きな窓を開け庭に出て空を見上げると、大きな月が輝いていた。
月の光を浴びるように眺めているとフワッと空気が動くのを感じた。
振り返ると白いシャツと黒のパンツとラフな服装のイチゴくんが、オレの目の前にゆっくりと降りてきた。
「歩夢先輩、こんな夜更けにどうしました?」
「イチゴくんこそ、なんでまだ起きてんの?」
歩み寄るイチゴくんの目の下には薄らと隈ができていて、少し眠そうな顔をしている。
「仕事を片付けていました」
「仕事溜めたちゃったのか?」
「ぁ……まあ……」
歯切れの悪い回答に首を傾げるが、すぐその理由に気がついた。
「ごめんっ……それ、オレのせいだな」
「ちっ、違います」
「違わない」
断言するとイチゴくんは口をつぐんだ。
治療のため、はじめてかけられた魔法の副反応でオレは食事以外はずっと眠っていた。
そして、目を覚ますと必ず傍にイチゴくんがいた。
たぶん、仕事を後回しにしてずっと傍にいてくれたから、こんな夜更けにその仕事をしていたんだと思う。
「なあ、最後の夜だし、ちょっとだけ話しないか?」
イチゴくんが眠いのをわかっていた。
……けど、どうしても今話がしたいと思った。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「歩夢先輩から話がしたいなんてはじめてですね」
オレの部屋に戻りソファーに並んで座るや否や、イチゴくんが嬉しそうな声を上げた。
「そ、それは、いつもイチゴくんがグイグイくるからだろ。つか、眠いのにごめんな」
「いいんです。今とても嬉しいから、眠気なんてどこかに行ってしまいました」
イチゴくんな首を横にブンブン振るとまた嬉しそうに笑った。
そんな隈を作ってのそのセリフは不眠症を疑われるぞ、と言いたくなったがグッと堪えた。
「あのさ」
「はいっ」
「プッ、グイグイきすぎ……。あのさ、昨日はありがとな」
面と向かってお礼を言うのがちょっと恥ずかしくてつい横を向いてしまった。
「…………」
ん?
なんで無言?
チラッとイチゴくんの顔を盗み見ると、不思議そうに首を傾げていた。
「えっ?えっ?なんで首傾げんの?」
「だって、歩夢先輩は僕に巻き込まれて誘拐されて殺されかけたんですよ。むしろ、何故、僕を怒らないんですか?」
「怒る、って……」
「さあ、汚い言葉で僕を罵ってくださいっ。グーで殴って下さっても構いませんっ。僕は喜んで受け入れますから。さあっ!さあっ!」
「ちょっ、ちょっーー」
腕を広げて迫られて、オレ、ちょっと引いた。
それでも、あまりにしつこくて頭にチョップをかますと、頭をさすりながら嬉しそうに笑った。
とんだ、ドMだな。
「オレはちゃんとお礼言いたかったのに……。イチゴくん、茶化すなよ」
「茶化したつもりはないです。事実ですし」
今度はイチゴくんがプイッと顔を横に向けた。
「そーれーでーもっ、お礼の言葉もちゃんと受け入れろよ」
イチゴくんの頬をバチンッといい音をさせて両手で挟みこっちを向かせて怒ると、それに驚いたのか目を大きく開いて「はひ」と返事をした。
「よろしい。あとさ……」
オレの手が離れた頬をさすりながら首を傾げるイチゴくんの目を見て口を開く。
「イチゴくんはさ……オレの事、女にするつもりだった?」
イチゴくんの目が、またゆっくり大きく見開いた。
が、昼寝をしすぎたオレは眠れずにいた。
大きな窓を開け庭に出て空を見上げると、大きな月が輝いていた。
月の光を浴びるように眺めているとフワッと空気が動くのを感じた。
振り返ると白いシャツと黒のパンツとラフな服装のイチゴくんが、オレの目の前にゆっくりと降りてきた。
「歩夢先輩、こんな夜更けにどうしました?」
「イチゴくんこそ、なんでまだ起きてんの?」
歩み寄るイチゴくんの目の下には薄らと隈ができていて、少し眠そうな顔をしている。
「仕事を片付けていました」
「仕事溜めたちゃったのか?」
「ぁ……まあ……」
歯切れの悪い回答に首を傾げるが、すぐその理由に気がついた。
「ごめんっ……それ、オレのせいだな」
「ちっ、違います」
「違わない」
断言するとイチゴくんは口をつぐんだ。
治療のため、はじめてかけられた魔法の副反応でオレは食事以外はずっと眠っていた。
そして、目を覚ますと必ず傍にイチゴくんがいた。
たぶん、仕事を後回しにしてずっと傍にいてくれたから、こんな夜更けにその仕事をしていたんだと思う。
「なあ、最後の夜だし、ちょっとだけ話しないか?」
イチゴくんが眠いのをわかっていた。
……けど、どうしても今話がしたいと思った。
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オレの部屋に戻りソファーに並んで座るや否や、イチゴくんが嬉しそうな声を上げた。
「そ、それは、いつもイチゴくんがグイグイくるからだろ。つか、眠いのにごめんな」
「いいんです。今とても嬉しいから、眠気なんてどこかに行ってしまいました」
イチゴくんな首を横にブンブン振るとまた嬉しそうに笑った。
そんな隈を作ってのそのセリフは不眠症を疑われるぞ、と言いたくなったがグッと堪えた。
「あのさ」
「はいっ」
「プッ、グイグイきすぎ……。あのさ、昨日はありがとな」
面と向かってお礼を言うのがちょっと恥ずかしくてつい横を向いてしまった。
「…………」
ん?
なんで無言?
チラッとイチゴくんの顔を盗み見ると、不思議そうに首を傾げていた。
「えっ?えっ?なんで首傾げんの?」
「だって、歩夢先輩は僕に巻き込まれて誘拐されて殺されかけたんですよ。むしろ、何故、僕を怒らないんですか?」
「怒る、って……」
「さあ、汚い言葉で僕を罵ってくださいっ。グーで殴って下さっても構いませんっ。僕は喜んで受け入れますから。さあっ!さあっ!」
「ちょっ、ちょっーー」
腕を広げて迫られて、オレ、ちょっと引いた。
それでも、あまりにしつこくて頭にチョップをかますと、頭をさすりながら嬉しそうに笑った。
とんだ、ドMだな。
「オレはちゃんとお礼言いたかったのに……。イチゴくん、茶化すなよ」
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今度はイチゴくんがプイッと顔を横に向けた。
「そーれーでーもっ、お礼の言葉もちゃんと受け入れろよ」
イチゴくんの頬をバチンッといい音をさせて両手で挟みこっちを向かせて怒ると、それに驚いたのか目を大きく開いて「はひ」と返事をした。
「よろしい。あとさ……」
オレの手が離れた頬をさすりながら首を傾げるイチゴくんの目を見て口を開く。
「イチゴくんはさ……オレの事、女にするつもりだった?」
イチゴくんの目が、またゆっくり大きく見開いた。
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