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■第四章 橋を架ける

第二話 追跡

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 森で見かけた小人、ロータス族を追って僕ら三人はやってきたが、周りを見回しても姿はない。

「ダメです、アッシュ様、気配を見失いました」

 ギルが剣を構えたまま、残念そうに言う。

「そうか」

「ねえ、ちょっと! 出て来なさいよ、ロータス族!」

 レニアが大きな声で呼ぶが、森の奥深くに声が微かに反響するだけだ。
 何も出てこない。
 
「もう。どうしようか、アッシュ」

「そうだな……ちょっと見てくれ、ここにまだ新しい足跡がある」

 僕は地面の腐葉土を注意深く観察し、小さくへこんだ足跡を見つけた。
 さきほどロータス族が立っていた場所だ。

「あ! じゃあ、この足跡を追いかけていけばいいわね」

「そうだけど、そう簡単にいくかな」

「ええ? 行くわよ」

 だが、普通の人間より小さく、軽い彼らの足跡はすぐに途切れてしまって、どこに行ったか分からなくなる。

「ダメ! こっちじゃないわ。足跡が消えてる!」

「こっちもダメです。続く足跡が見つかりません」

「仕方ないな。いったん、村へ戻ろう」

「諦めるわけじゃないわよね?」

「もちろん。今、対策を考えてるところ。というか、思いついちゃったな」

「さすが、アッシュね」

「消える足跡を、追いかけられる方法ですか? 犬は連れてきていませんし……」

 ギルも良い方法を思いついてくれたが、犬は連れてきていなかった。匂いでモンスターの警戒にも役立ちそうだし、今度、王都やラピュドーラ領に戻ることがあれば、犬を連れていくことにしよう。

 代わりに僕が作り始めたのは、木の鳥だ。
 伸び縮みするビッグカラムシの蔦をその木製の薄い翼につなぎ、魔石で反応するように調整する。

「よし、できた」

 僕はその鳥を飛ばしてみる。

「ば、馬鹿な……さっきまで木だったのに、命を吹き込んだのですか!?」

 ギルが大袈裟に驚いたが。

「まさか。僕はそんなことはできないよ。ちょっと機械仕掛けで動くようにしただけさ」

「えぇ……?」

「ギル、こんなことでいちいち驚いてたら、アッシュが本気モードで作ったら、あなた腰を抜かしちゃうわよ?」

「ううむ、しかし、生きているようにしか見えませんよ、この鳥は。しかも飛んでる」

「そりゃ、生きてる鳥そっくりに作ったからね。飛べるさ」

「やっぱり命を吹き込んでるじゃないですか」

「そうじゃないってば」

 動物の生きた肉と、木はやはり違う。木は硬いし、しなることはあっても、自分からは動かない。この鳥は魔石から発せられる魔力を使って、反応させているだけなのだ。

 精密な鳥を作れば作るほど、生命の神秘を感じずにはいられない。
 どうやって食べ物を胃で消化し、血肉としているのか。
 どうやって体を動かしているのか。
 謎だらけだ。

「――アッシュ、アッシュってば」

「ああ、ごめんごめん、ちょっと考え事をしてた」

 レニアの呼ぶ声に自分が没頭していることに気付いた僕は思考を普通に戻す。

「そうやって人が呼んでも気付かないくらい、ぼーっとするの、アッシュの良くない癖よ?」

「そうだね。じゃ、明日、この鳥を使って、ロータス族を見つけよう。空からの目なら、見つけられるかもしれない」

「なるほど」「いいわね!」

 翌日、木の鳥を飛ばし、ロータス族を探させる。
 すぐに反応があり、鳥が森の上空で周回運動を始めた。

「あそこだ。ギル、尾行はできそうかい?」

「お任せ下さい。あの鳥がいれば、追いかけられます」

 頼もしい言葉だ。

「向こうに気付かれないよう、距離をおいてあとを追おう。そうすれば、彼らの家が分かるかも」

「アッシュ、突き止めて、どうするの?」

「僕が話をしてみるつもりだよ」

「アッシュ様、それは危険では?」

「んー、攻撃してこない人達なら、大丈夫だと思うよ」

「あまり気は進みませんが、話をされるというのでしたら、自分もお供します」

「うん、よろしく。さすがに、ウッドゴーレムじゃ、向こうも怖がっちゃうだろうし」

「そうね。あれ、いつ見ても目が不気味だもの。目をつけたら良いのに」

「いやー」

 実は一度目をつけて試したことはあるのだが、余計に不気味になった。
 不思議なことに人間に似せれば似せるほど、ちょっとした表情の違いが際立つのだ。ま、今はゴーレムを使わないからどうでもいい。ギルが護衛なら大丈夫だ。
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