紫陽花の下に眠る君

曇天に隠れた青空

5.

「社長は今精神的に参ってるんです！！恋人が自分のせいで自殺したのなら、誰だって責任を感じるでしょう！！それを私たちがなんとか支えているのに、あなたはどうしてそんな社長を壊してしまうようなことをするんですか！！！」

それはぼんやりと意識が戻った斗真が聞いた台詞だった。
酷く怒ったような木崎の声。…あぁ、最近は木崎を怒らせてばかりかもしれない。

「あぁ…悪かったって思ってる。案外平気そうに見えたから」

「社長はそういう人なんです！！周りには弱みを見せないから…だから…」

「おい泣くなって、俺が悪い奴みたいだろ」

「くそ、こんな男の前で泣くなんて…」

気づけばどこか仲良さそうに2人が話をしていて、斗真はついふふっと声を漏らしてしまう。
その瞬間、傍で言い合いをしていた2人の視線がこちらを向いた。

「おい、今笑ったよな」

「私は先生を呼んできます！！いいですか、絶対に社長を困らせないでくださいね！！！」

涙を見せないようにするためなのか、物凄い速さで部屋を出ていく木崎。
そんな様子を見て、斗真はやっぱり面白くて口端が緩んでしまった。

「タイミングが良いところで目が覚めちゃったな」

「あぁ、あんたのおかげで説教も短く済んだわ。…おい、体の調子は？」

「なんだろう、ぐっすり眠れたみたいですっきりしてる」

「丸々一日爆睡してたからな。まぁ、なんかあったら医者に見てもらえば良いんじゃねぇの？」

そんなとき、斗真は帰り支度を始める夏樹のことが気になった。

「うちにいくのか？コンシェルジュには話を通してやるから、1人でも入れると思うけど…」

「いや、別にあんた意外にも家に入れてくれる奴はいるよ。それに、俺は欲求不満なの。女のとこで色々発散してくるわ～」

そう言って後ろ姿で手を振って去っていく夏樹。
そんな姿に、斗真はちくりと胸が痛んだ。



…辞めよう。自覚してはいけない。
こんな気持ち、理解してはいけない。

「海利…許してくれ…」

おかしな話だ。
苦しむ海利を見て、こんな風になった海利の責任を取れるのは自分しかいないと思っていた。
海利が死んだ責任は自分が取らなきゃいけないと思っていたし…ましてや、海利の兄に恋愛感情を持つなんて酷い話だ。

だから無理やり蓋をする。
こんな感情は捨てるべきだと、何度も何度も自分に言い聞かせた。

「海利、やっぱり俺は酷い男だな…」

そう言って斗真は、海利とお揃いの結婚指輪を静かになぞった。