バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ

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普通科の彼女と特進科の彼。

パン、あたためますか?

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 ホットスナックの入れ替えをしていると、レジに人影が見えたので、私は素早くレジに戻った。

「お待たせしました、いらっしゃいませ!」

 笑顔でいらっしゃいませを言うと、目の前の客は目を丸くしていた。
 そして私もその顔に見覚えがあって、怪訝な顔をしてしまう。

「「あ」」

 早朝6時前のお客さんは、食パン一袋を持ったイケメンだった。お昼寝の妨害をした挙げ句に人を変人呼ばわりした特進科のイケメンがなぜここに……

「お前、普通科の」

 私は商品のバーコードをスキャンしながら問いかけた。

「パンあたためますかー」
「あたためねーよ、これ食パンだろうが」

 あと袋もいらない。と言ったイケメンは千円札を出してきた。

「…お前のバイト先ってここだったんだ?」
「まぁね、そっちこそ、このマンションの住民なの?」

 マンション下にこのコンビニは入っているが、このマンションは分譲も賃貸もめちゃくちゃ高いと聞く。コンビニに来るお客さんもお金持ってそうな人ばかりで、客層もいい。店員に暴言吐く客が少ないって他のコンビニ勤務経験のある人が言っていた。
 ここに住んでいるということはこのイケメン、金持ちなのか。特進科の生徒っぽいから賢いのは当然のこと、顔は芸能人ばりの美形で高身長、親が金持ちってとんだ勝ち組だな。

「親の持ってるマンションの内の1つ。学校が近いからこっちに住んでる」

 わぁ、サラリと吐き出されたお金持ち発言である。

「じゃあ一人暮らしなんだ」

 お釣りを渡すと、イケメンは首を横に振った。

「いや、姉貴と一緒に住んでる。これも姉貴に買ってこいって言われて買いに来た」
「へぇ」

 先日の印象からしててっきり女性にあまり優しくない人なのかなぁと思っていたけど、お姉さんには優しいみたいだ。

「お前は? 何時から働いてんだよ」
「朝5時からだよ」
「マジか…」

 このイケメンがここに住んでいるのに今まで会わなかったのがすごい。まぁ会ったとしても知り合いじゃないからどこの誰だかわかんないだろうけどさ。
 同じ学校でも科が違えば見知らぬ人同然である。

「今日は8時まで働くよ」

 法律で高校生は朝5時から夜の22時まで働けるのだ。ギリギリまで働いて登校するのさ!

「…遅刻するぞ?」

 見た目によらず真面目なイケメンに指摘されたが、私は鼻で笑ってやる。

「特進科みたいに0時間目なんて存在しないからねー。平気でーす」

 私が普通科にいるのはそのためだ。特進科は7時30分から朝課外の0時間目が始まるが、普通科は8時40分までに行けば間に合うのだ。
 この差は大きいぞ。


■□■


 1学期末テストの順位表が出たとのことだったので、私は帰る前に掲示板を見に行った。
 上に特進科、下に普通科の上位100位までが貼り出されている。私は普通科トップに自分の名前が輝いているのを見て息を吐き出した。
 良かった。今回も成績維持できて。

「すごいな、トップじゃん」
「あ、イケメン」
「……俺の名前知らないの?」

 横からイケメンがヌッと現れたのでびっくりして、心のなかで呼んでいる呼び名がスルッと口から飛び出してしまった。
 知ってるよ、「ユウキ君」って呼ばれていたよね。 

「ユウキ君は何位だった?」
「23位」

 すごいな、特進科で23位か。中々いい成績じゃないか。
 特進科の順位表の23位を探して、【悠木夏生】という名前を見て首を傾げた。
 ユウキって下の名前じゃないのか。

「…ゆうき、なつお?」
「なおだよ、悠木ゆうき夏生なお。よく読み間違われる」

 こりゃ失礼。
 悠木君は読み間違いされたのをあまり気にしていないようだ。掲示板の順位表を右から左に流し見して、「なぁ」と呟く。
 どうやら私に話しかけているようなので、首を動かす。

「なんで頑なに普通科にいるんだ? 特進科行けばいいのに。進学に有利になるぞ」

 彼の問いかけに私は肩をすくめた。
 進学は大事だよね、わかっている。だけど私にだって私が定めた目標があって、自分が一番動きやすいルートを選んでいるのだ。

「だって特進科じゃバイトできないもん」

 バイトするために校則のゆるいこの公立校に来たのに意味がなくなるじゃないか!
 私立はバイト禁止な所も多いし、他の公立に通うにもバイトするためだけに偏差値を下げるわけにもいかなかった。自分レベルの偏差値の別の公立校を目指すとなると今度は通学が大変になる。
 私にはこの学校の普通科が丁度いいのだ。

「バイトって…そんなに金に困ってんの?」

 公立校なんだから私立みたいに学費が馬鹿高いわけじゃないだろ、って悠木君が突っ込んでくるが、そういう話ではないのだ。
 だが親しくもない相手に私がバイトする理由を語るのもはばかられる。なので私は口を閉ざして回答を控えた。

「森宮さん、ちょっといいかね」

 背後から掛けられた声に、隣にいた悠木君のほうが先に反応した。
 私は「またか」と少しばかりげんなりした気分になったが、表情を装って振り返る。見よ、接客業のバイトで培った営業スマイルを!
 後ろにいたのは特進科のクラスの担任の先生と学年主任の先生だ。入学して何度も声を掛けられたからしっかり顔を覚えているぞ。渋る私も頑固だけど、あんたらも大概諦めが悪いと思わないか。

「普通科クラス1位おめでとう。入学して以降慢心することなく成績維持に努めているようだね」
「ありがとうございます。学業は学生の本分ですから」

 バイトを反対されたくないから、頑張っているだけなんだよ。とは口には出さない。
 にこ、と愛想よく笑顔を向けておく。

「それでだね、森宮さん、特進科のテストを受けてみないか?」

 えぇ…嫌だぁ面倒くさい……
 私の鉄壁の営業スマイルが少し引きつった。

「いえいえそんな私にはとてもとても……前にも何度かお話しましたが、私は普通科から離れる気はありません」

 どうせ先生たちも実績を作って、一人でも多くいい大学に進学させたいだけなんだろう。
 悪いが私は先生たちの評価のために動く気はサラサラないぞ。

「…うちの高校ではバイトは禁止ではないが、できれば君には学業に専念してほしいと思っているんだよ」

 そこに学年主任の先生が口を挟んできた。
 禁止じゃないのになんでだよ。生徒の自由でしょうが。落第点とってるわけじゃないんだからいいでしょ、別に。

「うちにはお金がなくて、母が病気で寝たきりに…」
「えっ」

 私がよよよ…と泣いたふりをしていると、悠木君がハッとした顔で反応していた。
 ……ピュアかよ。そんな百戦錬磨みたいな顔して簡単に信じちゃうのか。そんなピュアで君はやっていけるの?

「嘘をつくんじゃない。お母さんは隣町の総合病院で元気に看護師してるじゃないか。この間も耳の遠いうちの婆さんに大声で話しかけてたぞ」

 しかし学年主任の先生は騙せなかった。

「あ、先生のお母様が入院してるんでしたっけ…じゃあ父が…」
「親父さんは今日の朝、会社前で元気よくラジオ体操して、先生に気づくと挨拶してきたぞ」

 ……この高校は私のお姉ちゃんの母校という事もあって、両親と顔見知りなんだった。こんなところで弊害が出るとは……

「うちには多額のローンがあと15年残ってて」
「ローンなら先生もある! それは親御さんの借金だろうが。話をそらそうとくだらん嘘を付くんじゃない」

 くっそぅ、ごまかせないか…
 察してくれよ、私は特進科に入るのを断ってるんだってば。別に特進科が悪いわけじゃないよ、ただ私にとってバイトができなくなるのは痛手なんだ。収入が減ったら貯金ができなくなるでしょうが!

 ──キーンコーンカーンコーン……
 チャイムが鳴った。
 私ははっとして腕時計に目を落とす。時間は15時40分を示している。
 ──マズイ。

「バイトなんでお先に失礼します!」
「あっこら森宮! 待ちなさい話はまだ…!」

 いくら話し合いを重ねても私の意志は変わらない。
 それよりも今日もガッツリ稼がなきゃ!

 先生の呼び止める声を背にして、私は急いでバイト先へと向かったのであった。
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