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勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。
おしべとめしべがという単純な話ではない。
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学校の夏期講習で毎日教師たちとおかしな攻防戦を繰り広げていたが、普通科の講習日程が終わったため、私はバイトに精を出す日々を送っていた。先生たちの圧力なんて知るもんか。
ちなみに特進科は夏期講習の日程がまだ続いている。夏休みなんて存在しないんじゃないかってくらい本当に大変なことである。
「いらっしゃいませー。あ、悠木君」
自動ドアが開く音が聞こえたのでお出迎えの挨拶をすると、そこには学校の制服姿の悠木君がいた。
「今日も夏期講習? こんな時間まで?」
「いや、学校の後に塾の短期集中講座に行ってた」
「わぁ、大変」
「森宮に言われたくない」
学校の後にさらに塾。うちの学校ではそんなの珍しくともなんとも無いが、ずっと勉強だと頭おかしくなりそうにならないだろうか。
「私はこうしてバイト挟んで勉強してるから平気だよ」
「俺にはお前の生活のほうがハードに見えるけどな」
まぁたまに息切れ起こすこともあるけどね。でも目標のためなので頑張れるのさ。これが特進科所属ならもうすでに過労で倒れていただろうけどね…
「お客さん、どれにしましょう」
「スタミナ丼と豚汁、それとこれ」
メニュー表をさらっと見ただけであっさり注文を決めた悠木君はペットボトルのお茶を店頭備え付け冷蔵庫の棚から持ってきた。
「ありがとうございます。オーダーでーす! スタミナ1、豚汁1でーす!」
厨房に向けてオーダーをかけると、ちゃちゃちゃとレジ操作して代金を請求する。
「これはお前に。帰り気をつけろよ」
「おぉ、ありがとう」
お茶は私への差し入れでくれるそうだ。相変わらず気の利く男である。
注文の品が出来上がるまで、少々時間がかかるので悠木君には店内で待ってもらった。
「悠木君、バイト本当に大丈夫? 学校はともかく塾の方は…」
「バイト入る日は学校も塾も予定入ってないから平気」
本人がそう言うなら大丈夫なんだろうけど……貴重な休みをバイトに費やしてもいいのだろうかと私は心配になる。
私の働く姿に憧れたらしい悠木君は私より一足遅れて海の家のバイトでバイトデビューを果たすことになった。
夏休み前に海の家のオーナーと一対一で面接した悠木君はひと目見た瞬間即決されたのだという。現金なことに売上に貢献してくれそうだからという理由で。確かに去年とても貢献してくれたよ。たこ焼き屋台前に座るだけで女性客が入れ食い状態だった。その実績があるからそこは保証できる。
しかし悠木君にたこ焼き売りというのが似合わなくてそのへんが心配なんだけど。憧れのバイトとか無いのかな。かっこいいバイトしたいとか、楽に働きたいとか……ほんっと洒落にならんくらい暑くてきついよ? と説得したけど悠木君の気持ちは変わらなかったんだよね。
「お前こそ俺がいない間、気をつけろよ」
悠木君も私のスタート日に合わせてバイト入りしたかったらしいけど、夏期講習の関係で数日遅れてのバイト入りになるのだ。
悠木君のその言葉に私は疑問を抱く。私はバイト経験者だからなにも心配することなんて無いはずなんだけど…?
「気をつけるってどういう意味?」
「そりゃ海だから…」
あぁ、なるほどと合点がいった私はうなずいた。
「大丈夫だよ、基本海には入らないから」
「そうじゃなくて…ほら、ナンパとか」
ごにょごにょと言いにくそうに彼が口にした単語に、私は目を丸くしてしまう。
ナンパ。…私が?
「それこそ平気だよ、悠木君じゃあるまいし!」
人のことよりも自分のことだろう。私は君のほうが心配だよ。歩くだけで逆ナンされるくせに人の心配している場合じゃないだろう。
私が笑い飛ばすと、悠木君はムッとした顔をしていたが、私は何も間違ったことは一つも言ってないと思うんだな。
■□■
「美玖、ちょっといいかな」
自分の部屋の机に向かって夏休みの課題を片付けていた私に、真面目な顔をしたお姉ちゃんが声をかけてきた。
どうしたんだろうと勉強椅子をくるりと回転させて後ろを向いた。お姉ちゃんは部屋に入ってくるとフローリングの上に敷いているラグの上に正座して、「ここに座りなさい」と命じる。
なんだろう……何か怒らせることでもしただろうかと困惑しながらお姉ちゃんと対面する形で正座すると、お姉ちゃんは深呼吸をしながらレジュメっぽいものを差し出してきた。
「お母さんからお願いされて私から大切な話があります」
お母さんから…? 困惑しながら、姉から手渡されたレジュメに私は目を疑ってしまった。
「海の家のバイトに悠木君も入ってるんだよね。交際には反対じゃないけど、お約束してほしいの。必ず避妊をすることを」
「…………。いや、そもそも交際していないから」
レジュメには夏の間の青少年の性の乱れについての統計と堕胎割合などがまとめられており、クラリとめまいがしそうになった。
なんで悠木君とバイトすることが交際になって避妊に結びつくのか……
「美玖、お姉ちゃんは真面目に話してるの。聞きなさい」
「……」
否定するもお姉ちゃんはカッと目を開いて私に圧力をかけてくる。仕方ないので私は口を閉ざす。真面目に聞かないと怒られそうな気がしたのだ。──最近私を鈍感だとディスる友人たちと同じ匂いを感じ取った。
「それがお互い同意の元、避妊をした上ならお姉ちゃんも何も言わない。でもみんながみんなそういうわけじゃないの、ひと夏の過ちで堕胎する女子高生が居るのも事実なの!」
そう言って私に手渡したレジュメの次のページをめくってあるアンケート結果のまとめを見せてきた。
「これ見て、大学の講義の資料なんだけど…多くは彼氏に嫌われたくないから、もしくは不同意のもと力づくで行われた避妊なし行為の結果望まない妊娠が起きているの」
ずずいとレジュメを顔の前に出されたが、私は近眼ではないのでそんなに近づけられると逆に文字が読みにくい。
「ほらたまにニュースで見るでしょう? 赤ちゃんをトイレで出産して遺棄したり殺したりする事件は定期的に起きているの…」
お姉ちゃんはぐっと自分のことのように苦しげに顔を歪めて、瞳をうるうるさせていた。
「堕胎はね、赤ちゃんを殺すだけでなく、母体もひどく傷つくの。心も傷つくんだ。男はスッキリするだけで、泣くのはいつも女性なんだよ!」
お、おう…そうね……。
うちの学校でも去年の2年女子が妊娠したとかで自主退学したとかそんな噂を聞いたことがある。それが真実かはわからないけど、中高生の妊娠は問題化しているって話は聞くよ。
でも私、経験ないしそれ以前に……
「あのね、私と悠木君は友達なの。ありえないよ」
そんな避妊とか言って彼を警戒したら悠木君に失礼だと思うの。よりどりみどりで女に不自由しない悠木君だよ? 私に手を出すほど飢えてないと思うんだな。
ガッと肩に痛みを感じた。お姉ちゃんに両肩を握りしめられたのだ。
「美玖、どんなに誠実な相手でもね、男なんだよ。異性愛者なら異性に欲情するものなの!」
顔を近づけたお姉ちゃんの目がマジすぎて私は今度こそ声が出なくなった。…姉の口から欲情なんて生々しい単語聞きとうなかった。
彼女は後ろ手に何かを手に取ると、私の手の上にそっと某ファンシーキャラの可愛らしい箱を乗せてきた。…なにこれ、お菓子かなにか…? ホットケーキ食べてる熊が描かれた箱…。柄は10種類と書かれていて…
「もしもそういう雰囲気になったらちゃんと避妊してもらうんだよ…」
避妊。
その言葉に私は箱をサッとひっくり返した。そして後ろの注意書きを見て頭痛がしてきた。これ、避妊具じゃないか……。
お姉ちゃんはなんでこんな物持ってるのと聞きたくなったが、これ以上この話を引っ張るのは私がいたたまれない。その場ではおとなしく受け取り、お姉ちゃんが退出した後にそれを机の引き出しに押し込んで鍵を掛けて何も見なかったことにした。
こんなものバイト先に持っていけるわけがないでしょう…! 欲求不満みたいじゃないか!
私は今日バイト先で遭遇した悠木君を思い出して、首を横にふる。
──ないない。悠木君に限ってそんなことが起きるわけがない。同じ部屋で寝起きするわけでもないし。
……性教育なら学校で習ったことあるし、友達が話す経験談で知っているから無知ってわけでもないのに、大げさすぎる。お母さんにまでそんな心配されているとかすごく複雑なんだけど。
明日の朝にでもお母さんに悠木君との関係を否定しておかなくては。
私はどっと疲れた気がして、フラフラとベッドに潜り込んだ。明日から2週間たこ焼きを焼いて売り歩く住み込みバイトが始まる。
バイトに集中せねば。私はお金のために働くのだから。
ちなみに特進科は夏期講習の日程がまだ続いている。夏休みなんて存在しないんじゃないかってくらい本当に大変なことである。
「いらっしゃいませー。あ、悠木君」
自動ドアが開く音が聞こえたのでお出迎えの挨拶をすると、そこには学校の制服姿の悠木君がいた。
「今日も夏期講習? こんな時間まで?」
「いや、学校の後に塾の短期集中講座に行ってた」
「わぁ、大変」
「森宮に言われたくない」
学校の後にさらに塾。うちの学校ではそんなの珍しくともなんとも無いが、ずっと勉強だと頭おかしくなりそうにならないだろうか。
「私はこうしてバイト挟んで勉強してるから平気だよ」
「俺にはお前の生活のほうがハードに見えるけどな」
まぁたまに息切れ起こすこともあるけどね。でも目標のためなので頑張れるのさ。これが特進科所属ならもうすでに過労で倒れていただろうけどね…
「お客さん、どれにしましょう」
「スタミナ丼と豚汁、それとこれ」
メニュー表をさらっと見ただけであっさり注文を決めた悠木君はペットボトルのお茶を店頭備え付け冷蔵庫の棚から持ってきた。
「ありがとうございます。オーダーでーす! スタミナ1、豚汁1でーす!」
厨房に向けてオーダーをかけると、ちゃちゃちゃとレジ操作して代金を請求する。
「これはお前に。帰り気をつけろよ」
「おぉ、ありがとう」
お茶は私への差し入れでくれるそうだ。相変わらず気の利く男である。
注文の品が出来上がるまで、少々時間がかかるので悠木君には店内で待ってもらった。
「悠木君、バイト本当に大丈夫? 学校はともかく塾の方は…」
「バイト入る日は学校も塾も予定入ってないから平気」
本人がそう言うなら大丈夫なんだろうけど……貴重な休みをバイトに費やしてもいいのだろうかと私は心配になる。
私の働く姿に憧れたらしい悠木君は私より一足遅れて海の家のバイトでバイトデビューを果たすことになった。
夏休み前に海の家のオーナーと一対一で面接した悠木君はひと目見た瞬間即決されたのだという。現金なことに売上に貢献してくれそうだからという理由で。確かに去年とても貢献してくれたよ。たこ焼き屋台前に座るだけで女性客が入れ食い状態だった。その実績があるからそこは保証できる。
しかし悠木君にたこ焼き売りというのが似合わなくてそのへんが心配なんだけど。憧れのバイトとか無いのかな。かっこいいバイトしたいとか、楽に働きたいとか……ほんっと洒落にならんくらい暑くてきついよ? と説得したけど悠木君の気持ちは変わらなかったんだよね。
「お前こそ俺がいない間、気をつけろよ」
悠木君も私のスタート日に合わせてバイト入りしたかったらしいけど、夏期講習の関係で数日遅れてのバイト入りになるのだ。
悠木君のその言葉に私は疑問を抱く。私はバイト経験者だからなにも心配することなんて無いはずなんだけど…?
「気をつけるってどういう意味?」
「そりゃ海だから…」
あぁ、なるほどと合点がいった私はうなずいた。
「大丈夫だよ、基本海には入らないから」
「そうじゃなくて…ほら、ナンパとか」
ごにょごにょと言いにくそうに彼が口にした単語に、私は目を丸くしてしまう。
ナンパ。…私が?
「それこそ平気だよ、悠木君じゃあるまいし!」
人のことよりも自分のことだろう。私は君のほうが心配だよ。歩くだけで逆ナンされるくせに人の心配している場合じゃないだろう。
私が笑い飛ばすと、悠木君はムッとした顔をしていたが、私は何も間違ったことは一つも言ってないと思うんだな。
■□■
「美玖、ちょっといいかな」
自分の部屋の机に向かって夏休みの課題を片付けていた私に、真面目な顔をしたお姉ちゃんが声をかけてきた。
どうしたんだろうと勉強椅子をくるりと回転させて後ろを向いた。お姉ちゃんは部屋に入ってくるとフローリングの上に敷いているラグの上に正座して、「ここに座りなさい」と命じる。
なんだろう……何か怒らせることでもしただろうかと困惑しながらお姉ちゃんと対面する形で正座すると、お姉ちゃんは深呼吸をしながらレジュメっぽいものを差し出してきた。
「お母さんからお願いされて私から大切な話があります」
お母さんから…? 困惑しながら、姉から手渡されたレジュメに私は目を疑ってしまった。
「海の家のバイトに悠木君も入ってるんだよね。交際には反対じゃないけど、お約束してほしいの。必ず避妊をすることを」
「…………。いや、そもそも交際していないから」
レジュメには夏の間の青少年の性の乱れについての統計と堕胎割合などがまとめられており、クラリとめまいがしそうになった。
なんで悠木君とバイトすることが交際になって避妊に結びつくのか……
「美玖、お姉ちゃんは真面目に話してるの。聞きなさい」
「……」
否定するもお姉ちゃんはカッと目を開いて私に圧力をかけてくる。仕方ないので私は口を閉ざす。真面目に聞かないと怒られそうな気がしたのだ。──最近私を鈍感だとディスる友人たちと同じ匂いを感じ取った。
「それがお互い同意の元、避妊をした上ならお姉ちゃんも何も言わない。でもみんながみんなそういうわけじゃないの、ひと夏の過ちで堕胎する女子高生が居るのも事実なの!」
そう言って私に手渡したレジュメの次のページをめくってあるアンケート結果のまとめを見せてきた。
「これ見て、大学の講義の資料なんだけど…多くは彼氏に嫌われたくないから、もしくは不同意のもと力づくで行われた避妊なし行為の結果望まない妊娠が起きているの」
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「ほらたまにニュースで見るでしょう? 赤ちゃんをトイレで出産して遺棄したり殺したりする事件は定期的に起きているの…」
お姉ちゃんはぐっと自分のことのように苦しげに顔を歪めて、瞳をうるうるさせていた。
「堕胎はね、赤ちゃんを殺すだけでなく、母体もひどく傷つくの。心も傷つくんだ。男はスッキリするだけで、泣くのはいつも女性なんだよ!」
お、おう…そうね……。
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でも私、経験ないしそれ以前に……
「あのね、私と悠木君は友達なの。ありえないよ」
そんな避妊とか言って彼を警戒したら悠木君に失礼だと思うの。よりどりみどりで女に不自由しない悠木君だよ? 私に手を出すほど飢えてないと思うんだな。
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「美玖、どんなに誠実な相手でもね、男なんだよ。異性愛者なら異性に欲情するものなの!」
顔を近づけたお姉ちゃんの目がマジすぎて私は今度こそ声が出なくなった。…姉の口から欲情なんて生々しい単語聞きとうなかった。
彼女は後ろ手に何かを手に取ると、私の手の上にそっと某ファンシーキャラの可愛らしい箱を乗せてきた。…なにこれ、お菓子かなにか…? ホットケーキ食べてる熊が描かれた箱…。柄は10種類と書かれていて…
「もしもそういう雰囲気になったらちゃんと避妊してもらうんだよ…」
避妊。
その言葉に私は箱をサッとひっくり返した。そして後ろの注意書きを見て頭痛がしてきた。これ、避妊具じゃないか……。
お姉ちゃんはなんでこんな物持ってるのと聞きたくなったが、これ以上この話を引っ張るのは私がいたたまれない。その場ではおとなしく受け取り、お姉ちゃんが退出した後にそれを机の引き出しに押し込んで鍵を掛けて何も見なかったことにした。
こんなものバイト先に持っていけるわけがないでしょう…! 欲求不満みたいじゃないか!
私は今日バイト先で遭遇した悠木君を思い出して、首を横にふる。
──ないない。悠木君に限ってそんなことが起きるわけがない。同じ部屋で寝起きするわけでもないし。
……性教育なら学校で習ったことあるし、友達が話す経験談で知っているから無知ってわけでもないのに、大げさすぎる。お母さんにまでそんな心配されているとかすごく複雑なんだけど。
明日の朝にでもお母さんに悠木君との関係を否定しておかなくては。
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