16 / 312
本編
乙女ゲームでよくあること。だけど実際は傷害とか殺人未遂だよ。
しおりを挟む中間テストを終えた生徒たちはテストのことなんて忘れたかのように文化祭の準備に勤しんでいた。
例に漏れず私もである。
現実逃避とも言えるが楽しむときは楽しむ。これ鉄則だ。
お化け屋敷をする我がクラスはお化け屋敷のセットや仕掛けの他に自前でお化けの衣装を準備する必要がある話はしていたかと思う。
私は沢渡君とおそろい…というか同じ作品に出てくるお化けのコスプレをすることにした。まぁそれは文化祭当日のお楽しみだが準備は着々と進んでいた。
確かヒロインちゃんはブラッディナースで山浦くんが狼男なんだよね。
文化祭の準備期間にもゲームイベントがある。
ヒロインちゃんが誰のルートに行っているのかは未だに不明だが、この期間中にヒロインちゃんが階段から転落する事故が起き、そこで助けた相手が攻略相手となるのだ。
正直ヒロインちゃんは誰も攻略する気はないんじゃないかなとは感じてるんだが…こればっかりはわからない。
それはそうとお化け屋敷のセットだ。
暗幕を教室に張り巡らしただけでは全く怖くないので限られた資金、学生の力で作れる範囲で小道具を精一杯作成中だ。
特にお化け屋敷のテーマは決まっておらず、貞○が出てきそうな井戸があるかと思えば墓地(何故かキリスト式)があったりする。いろいろ混じっているため、小道具制作も担当別に分けられている。
私はなんの因果なのかヒロインちゃんと幼馴染の山浦大志と同じチームであった。
「あ。ペンキがない」
「私買ってこようか」
「一人で大丈夫か?」
「へーきへーき。いってきまーす」
ホームセンターは徒歩圏内にあるから三十分くらいで戻れるかな? と考えながら同じく準備をしているたくさんの生徒の間をすり抜け、私は下駄箱に向けて階段を降りていた。
「田端さーん待って! お金大丈夫? ていうか私も行こうか?」
私の後を追いかけてきたのかヒロインちゃんが声をかけてきた。私は階段を降りかけていた足を止めて振り返る。
私が上を見上げたその時、丁度階段を登っていた女子生徒がヒロインちゃんとすれ違おうとしていた。女子生徒の肩がヒロインちゃんにぶつかり、そして…
スローモーションのようにゆっくりと、本橋花恋の体はバランスを崩した。
(…あれ、これどっかでみたような)
「きゃ…!」
「…! あぶな…!!」
ヒロインちゃんが階段から転落してる。これはイベントだ!
周りに攻略対象がいないとかそういう問題は今の私の頭にはなかった。
私は手すりを右手でしっかり握ったまま、左腕を広げる。落下してくるヒロインちゃんを抱きとめるつもりで。
──ドサッ!!
私はなんとか踏ん張りきってヒロインちゃんを受け止めたのだが、私の左腕はピキリと鋭い痛みが走った。
「い゛っ…!」
私はその痛みに目をギュッと瞑り、歯を食いしばって痛みを堪える。
やばい、これ痛めたかも。
「…っ、田端さん!? ごめんね大丈夫!?」
「ヒ……本橋さんは怪我ない?」
「私は大丈夫! 田端さんは」
「大丈夫だよ」
やせ我慢である。
私はジワジワ痛みが強まっていく左腕を右手で庇いながら笑みを作ってヒロインちゃんの無事を確認する。
すると気の所為かヒロインちゃんは頬を赤くして目を潤ませていた。怖かったのかな?
ここでやり取りしてても仕方ないので、ヒロインちゃんは教室に戻るように促して私は保健室へ寄り道することにした。
ヒロインちゃんとぶつかったのは山浦大志の彼女真優ちゃんだった。ヒロインちゃんを庇おうとしたその時、振り返った彼女の顔を私は確認した。
あの一瞬、真優ちゃんがヒロインちゃんの肩にわざとぶつかっていたように見えた。
(…気のせいかな。)
階段から落とすなんて殺人未遂で訴えられても仕方ないことだ。本当にするわけがない
真優ちゃんは嫉妬深いところはあるみたいだけどそんなひどい事する子じゃない。
きっと事故だ。
そうに決まってる。
私は自分にそう言い聞かせながら、保健室の扉を引いた。
あ。そういえばここの養護教諭も攻略対象だった。女性不信気味のめんどくさい攻略対象。
私が扉を開けると彼はゆっくりと振り返る。
落ち着いた雰囲気で大人の魅力がたっぷりの彼の名は眞田達彦。現在27歳のはずである。
銀縁の細めの眼鏡の奥には涼やかな瞳がある。唇は薄めで…なんと言うんだろうこういうの塩顔というのだろうか。
とにかく私は攻略対象を観察しに来たわけではないので、声を掛けることにした。
「失礼します。すみませんちょっと腕を捻りました」
「腕? ちょっとここ座って診せてみなさい」
丸椅子に座るよう促され、座ると左腕を差し出した。先生が患部に触れるとその手は冷たくてぎょっとした。眞田先生…末端冷え性なの?まだ外はけっこう暑いと思うんだけど。
そんなくだらないことを私が考えてるなんて思いもしないだろう眞田先生は私の怪我の様子を確認して訝しげにした。
「どうしてこうなったんだ?」
「あー…ちょっと階段から転落してる人を受け止めました。そしたらこう…ピキッと」
「どんな状況でそうなったか知らんが、あまり無茶はするんじゃない。多分今夜腫れるぞ」
グニッと患部をピンポイントに押された私は「う゛ひぃっ」と変な悲鳴を上げた。
(怪我人に何すんだこいつ! …あ、こいつそういえばサド気質だったっけ…)
私はプルプルと痛みを堪えていた。
眞田先生は私の腕に湿布を貼ると剥がれないようにネットガーゼを装着してくれる。
ねぇ手当にさっきの拷問は必要ありましたか?
なんで私は痛い目に遭わせられたの?
いろいろ不満はあったが手当はしてくれたのでお礼は言う。人として当然のことだからね。
「ありがとうございます。どの位で治りますか」
「二週間は見ておいたほうがいい。できるなら整形外科で診てもらったほうがいいかもな」
「ウッス。ありがとうございました」
私はペコリと頭を下げて保健室を後にした。
そして予定通りホームセンターに行って足りないペンキを買い足すと極力左手は使わぬように持って帰った。
片手で持つと結構重い…あ、でも筋トレになるかもとくだらないことを考えながら自分の教室の前に到着した。
中では大騒ぎとなっており、私の眼の前に広がっていたのは修羅場だった。
なんと私達のチームが鋭意作成していた看板が白く染まり台無しになっていた。
そしてその前では二人のカップルが言い争い、その側でヒロインちゃんがオロオロ。クラスメイトは遠巻きに野次馬をしていた。
「真優! お前っなんてことを!」
「だって! この女が!!」
「本橋はクラスメイトだって言ってるだろ!」
「嘘つき! 夏祭りの日もそうだったし、さっきもベタベタしてたじゃない!!」
「だから誤解だって!」
「怪我して学校来なくなれば良かったのに!」
山浦くんと真優ちゃんはクラスの真ん中で痴話喧嘩をしていた。
看板を白くした犯人は真優ちゃんらしい。
あぁ、真優ちゃんはヒロインちゃんに対して嫉妬してるのか。それでどうして看板に白いペンキをかけてるの? 作ってるのヒロインちゃんだけじゃないんだけど? 本気で意味がわからないんだけど。
さっきの階段でのこともさ、わざとなわけ? わざと、怪我をさせようとしたの?
…そう…そっかぁ…
私はそんな事を考えつつ、別のことも考えていた。白く染まった看板を見て悲しくなったのだ。
(…けっこう、力作だったんだけどなぁ…)
私はこの看板にかなり力を入れていた。文化祭の出し物の顔である看板だ。時間をかけて作成し、後もう少しで完成というところだったのだ。
(怪我はするし、努力は無駄になるし…私、何してんだろ…)
無意識に唇を噛んでいた。
私は右手に持っていた重いペンキを乱暴に床に置いた。ゴン! といい音を響かせたそれに驚いたクラスメイト達が注目した。
私は自分がキレているという自覚はあった。二重三重と怒りが重なって抑えきれなかったんだ。
私の顔を見て渦中のカップルがギクッとしてるけど、そんな事どうでもいい。
私はチッと舌打ちすると、ペンキの缶を足で蹴飛ばした。ゴトン! と鈍い音をさせてペンキ缶は倒れる。
その音に真優ちゃんがビクリと震えたが私はそれすらも苛ついた。
被害者ヅラすんのやめてくれないかな?
「──マジやる気失せるわ…私帰るわ」
「え、」
「痴話喧嘩とか余所でやれっつの。…マジうぜーんですけど」
私はそう毒づいて教室を突っ切る。
自分の鞄が置いてあるところに近づくとモーゼの十戒の如くクラスメイト達が避けてくれたので簡単に鞄を回収できた。
鞄を持ったのでさぁ帰ろ。と思ったけどふと言い残したことがあったので立ち止まってくるりと振り返った。
私は真優ちゃんを思いっきり睨みつけた。
「……人を怪我させる方法使ってんじゃねーよ。あんた、殺人未遂だからね?…巻き込まれる方もたまったもんじゃねーわ」
その言葉に私の左腕に白い湿布が貼られていることに気づいたらしい真優ちゃんは顔色を変えた。
「田端さんっそれっ!」
「じゃーねーさいなら~」
ピシャン!と私は力任せに教室のドアを閉めた。こんな事親にバレたら怒られるけど、私はイライラが収まらずに険しい表情で家に帰ったのである。
その後どうなったのかは知らない。
スマホに着信とかメッセージがたくさん来てたけど全部スルーして私は早々に寝たから。
22
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?
夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。
けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。
思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。
──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……?
※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる