太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

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Day's Eye 森に捨てられたデイジー

転送術と雑念

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 長期休暇に入る少し前のある休日、私はビーモント先生から呼び出された。
 なんだろうと思って朝から職員室に出向くと、先生は途中の仕事を簡単に片付けて「実技場に行くぞ」と言ってきた。言われるがまま実技場に入ると、誰もいない。完全に貸切状態であった。

「今日はお前に転送術のやり方を教えようと思ってな」

 転送術は本来5年で習う実技だ。私はキョトンとして先生を見上げた。

「まだ早いかと思ったんだが、お前は生徒の中でも一番家が遠いからな。しかも辺境だ。出来ることなら自分の身を守るために身に着けておいて損はない」

 なるほど。
 ここ最近北のハルベリオンがきな臭くなってきた。うちの村はハルベリオンとの境なので、有事の際に逃げられるように教えてくれるのだろう。……だけどそれって村の家族を見捨てて逃げるみたいでなんかやだな。

「3年に飛び級するから忙しいだろうがな、多分マックなら長期休み前に転送術を身につけられると思うんだ」

 私が複雑な心境に陥ってるとは知らないビーモント先生が転送術について書かれた紙を手渡してきた。かんたんな図解と解説の書かれたそれを見て、私は目を細めた。
 前回の帰省でグラナーダの女性が助けを求めてきたときに馭者のおじさんが転送術を使うのを目の前で見ていたが、この術を行う際は呪文の詠唱とともに、着地点の座標を合わせる必要がある。私は書物でしか転送術の知識がないので、座標って言われると色々と考え込んでしまいそうになる。

「わかりやすくいえば感覚だ。慣れたら座標を意識せずに飛べる。これは魔法陣による転送術とも似通ってる。術者の意志で飛ばす形になるから」

 先生曰く「どこに飛びたいかを意識することを忘れないこと」なのだそうだ。飛ぶ際に雑念が入ると、思ってもみなかった場所に飛んでしまう恐れがあるからということ。転送術というのは時空を歪めて無理やり移動する手段なので、1つ間違えると大事になるのだ。

 ちなみに結界の範囲内にはどう頑張っても侵入できない。この学園全体には結界が張られているので、学校に入るならばその目前に座標を合わせてそこから正門を経由して入場許可をもらわなきゃならない。
 しかしもうすでに結界内に入っていたら話は別だ。結界内から外には出られないけど、結界内を自由に転送術で移動することは出来る。

「試しにあそこまで飛んでみるか」

 練習がてら試しに近場を移動してみようということで、この実技場内の隅から隅への移動を試みた。

「…時空を司る元素たちよ、我の望む場所へ転送させよ」

 実技場の向こうの壁を想像して、呪文を唱える。するとふわっと身体が浮遊する感覚がして、私は目を閉じた。そして次の瞬間、足の裏に地面の感触がした。

「おっ、行けたな。じゃあ何度か繰り返してみろ」

 はじめての転送術だが、うまくいったようである。反復練習とばかりに先生がもっとやれと指示してきた。何度か同じ文言を呟いては場所を移動していく。

「うん、いいんじゃないか? じゃ、次はもう少し遠い場所に行くか。さっきまでいた職員室の前の廊下まで飛んでみろ」

 職員室前か。誰かに目撃されて怒られたりしないかな。まぁその時はビーモント先生にやれと言われたと言い訳すればいいか…
 私は職員室を思い出し、呪文をつぶやこうとした。

「そういえばさー特別塔で今日討論会ってのが行われてるらしいよー」
「なにその討論会って」

 なのだが、実技場の外から人の話し声が聞こえて来たため、私の集中力が途切れた。
 …何、討論会って。私も知りたい。
 いやいや、いかんいかん。職員室、職員室に飛ばしてくれ。

「時空を司る元素たちよ、我の望む場所へ転送させよ」

 再び浮遊感。私はこのまま職員室前に移動する。
 ものすごく、その討論会ってのが気になるけど、特別塔の話だ。私には関係ない、そうだ。
 これがいわゆる雑念か。私が身を持って納得したのは、一般塔とは基本的な作りの違う建物内に着地してしまった後であった。
 私が着地したのが人気のない場所なら良かった。
 目の前には明らかに育ちの違う方々がずらりと揃っており、私は全身冷や汗をかいた。

 なるほど、失敗したのね。

 なにかの集まりらしく、講堂に集まっているが……もしかして例の討論会ってやつですか…

「おや、マック君どうしたんだね?」

 呆然としている私に声を掛けてきたのは顔見知りのフレッカー卿である。
 どうしたんだね、って見たらわかるでしょ、誤って侵入しちゃったんだよ。
 見てる見てる。突然現れた村娘の姿を眉をひそめて見てくる貴族様方…特別塔には入ってはいけない決まりを思い出した。
 私にとって貴族様は得体のしれない権力者だ。きっと村娘なんてそのへんのドブネズミみたいな扱いをするに違いない。フレッカー卿がたまたま変人なだけで、世間一般的な貴族様は間違いなく権力主義なのだ。自分の首がちょんぱーされる未来を想像してしまい、ガバッと勢いよく頭を下げた。

「着地地点を間違えました。失礼しました」

 謝罪すると、私はもう一度呪文を唱える。
 いかんいかんいかん。雑念を取り払わねば…!
 強く実技場を念じていると、次は目的地に到着したので、私はホッと肩をなでおろした。

「飛べたか?」
「座標を間違えたみたいで…」
「距離が離れると難しかったか?」

 そうじゃないけど、そういうことにしておこう。
 集中力が必要だな。だけど使いこなせないこともない。練習あるのみだ。
 何度か挑戦してみたら、なんとなくコツを掴んで来た。

「マックは連続で転送しても平気そうだな」

 私を監督していたビーモント先生の言葉に私は疑問を浮かべた。何が平気だというのだ?

「転送術は魔術師単体で使ったとしても、術の特性上、繰り返し使用すると体力を削がれるんだ。ここまで使って普通に立っていられるのは恐らくマックの場合、生まれ持った魔力の容量が多いんだろう」

 人それぞれ魔力の大きさは異なる。ビーモント先生の見立てでは、私は生まれつき魔力が強いのだろうと。その割には魔力発現の兆しが全く見られなかったけどね。
 先生が転送術やれって言うから練習していたのに後出しみたいに言われても困惑します。

「先生、私他にも独学で学んだ呪文があるんですけど見てもらえますか?」
「おう、いいぞ」

 まぁいい、気を取り直そう。
 本来授業で習うはずだったが、飛び級の関係で習えなかった範囲の呪文を唱えて先生に見てもらう。ちょいちょい指摘や改善点を受けながら、私は日暮れまで呪文を唱え続けたのである。


■□■


「デイジー、私のこと忘れないでねぇ」

 修了式を終え、長期休暇に入るため、乗合馬車に揺られていると、相変わらずウザ絡みするカンナが横から抱きついてきた。

「忘れろったって休み明けにまた会うでしょ。同じ部屋なんだから」
「そうだったーえへへ」

 私だけは飛び級で3学年に上がる。寮の部屋は基本的に同じ学年の生徒と組み合わされるのだが、私はこのままカンナと同室になる。
 たとえ学年が異なろうとも、カンナと私は同室者なので避けようと思っても避けられない関係なのだ。別に避けるつもりはないけども。
 カンナはそれが嬉しいのかすぐにご機嫌になった。喜怒哀楽の激しい子である。

 入学してあっという間に1年が過ぎた気がする。
 次は3年次飛び級。フレッカー卿に借りた3年生用の教科書を使って長期休暇中もしっかり勉強するつもりだ。
 私は目標の魔術師へと着々と近づいていっている。目指せ高給取り、なろう高等魔術師! 拳を握って自分を奮い立たせていると、カンナがなんともいえない目をしてこっちを見てくる。
 あれでしょ、また怖い顔で笑ってるっていうんでしょ。いいじゃないのよ、野望に燃えたって。

「ていうかデイジー…なんで葉っぱを大量に持って帰るの?」

 それ家族へのお土産なの? と私の荷物の一部を見てカンナが渋い顔をしている。ただの葉っぱじゃないぞ。これは薬になる葉っぱだ。カンナははじめての薬学以来、薬学が苦手になってしまったらしい。
 
「私の兄さんの奥さんがおめでたなの。だからお祝い金捻出するために、薬を作って近くの町で売ろうと思って」

 ついこの間、おめでたのお手紙が届いたばかりだ。なので材料を問屋で仕入れてきた。自分の故郷近くの町にも問屋さんはあるけど、品揃えが不安なので、王都の問屋さんで購入してから帰省することに決めたのである。

「赤ちゃんかぁ! 獣人ってなかなか赤ちゃん出来ないらしいからお兄さん嬉しいだろうねぇ!」
「そうだね」
「獣人の赤ちゃんって可愛いんだろうなぁ!」

 どういうわけなのか獣人は子どもができにくい。原因はよくわからないけど。やっぱり人間とは構造が異なるんだろうね。
 そのため獣人たちは子どもを物凄く大切にする。孤児院に獣人が少ないのはそういうことなのだろう。人間である私はポイ捨てされちゃうし、世の中って不公平だよね。
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