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Day's Eye 森に捨てられたデイジー
元捨て子のデイジー、中級魔術師になる
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飛び級後は怒涛の毎日だった。
今までとは違う日々だった。今度は卒業に向けて動かなくてはならなかったので、かなり忙しかった。
周りの6年生も必死で他人のことどころじゃない。私はその中に混じって黙々と勉強していた。5年生の教室にいた時はマーシアさんが毎日絡んでくるお陰で、他の生徒も話しかけられるようになっていたけど、このクラスではそうはいかない。
鬱陶しいなぁと思っていたマーシアさんだが、あれはあれで気を使ってくれていたのかなって思う。今では当初の私のそっけない態度を反省している。
3年間だ。この学校に入学して3年、私は入学当初に夢抱いた魔術師への道へと着実に歩んでいる。それだけ私は努力してきた。
この学校を卒業して中級魔術師として認められてもまだまだ道は続く。私はその先も歩き続け、日々学んでいかなくてはならないのだ。
その先の目標に向けてさらなる努力が必要なのである。
「よし、もっと頑張ろっ」
自分を元気づけるためにつぶやいた発言だったのだが、その声が聞こえたらしい周りの6年生が隈をこさえた死んだ目でこちらを見ていた。
何だその目。化け物を見るかのような目はやめてくれないか。
──月日は流れ、卒業式1ヶ月前には最終学年の卒業試験が行われた。
その試験に不合格になった生徒は追試を受けることとなっており、それでも合格できないものは卒業保留、つまり中級魔術師の資格がもらえないことになる。そのため、6年生は皆死にもの狂いで試験勉強をしていた。
そんな中でも私は余裕そのものだ。
最後の卒業試験でも首席の座を頂き、順位表のトップに飾られた『デイジー・マック』の名を見て、誇らしい気持ちになった。
捨てられた過去の私は死んで、新しく生まれ変わったデイジー・マックは中級魔術師になれたんだ。
きっと独り立ちしたら、もっと辛いことや理不尽と出会うのだろう。
不安じゃないと言えば嘘になる。世界を知るために親元から離れて一人旅なんて漠然とした目的だし、自分が目標達成したあとに燃え尽きてしまいそうで、それが怖いなって思うことだってある。
だけど私はそれ以上にワクワクしていた。
■□■
【卒業生の入場です】
扉が開き、入場の合図とともに卒業生は一斉に講堂へ入場した。講堂内には在校生が勢揃いしており、こちらに視線が集まる。
今日卒業を迎える私は真新しいマントと帽子を被って胸を張って歩いた。
卒業式はこの学校に入学したときと同じで、送辞と答辞は特別塔の生徒が行っていた。入学式では王太子殿下の歓迎の挨拶をぼんやりと眺めていたのだが、まさか私のほうが先に卒業するとは……私の努力の賜物ではあるが感慨深いものがある。
卒業証書と中級魔術師の証であるペンダントの授与儀式に移り変わった。卒業生一人一人名前を呼ばれ、壇上でペンダントを首にかけてもらうのだ。その時、ペンダントの持ち主であるという紐付けの儀式も行われることになっている。
このペンダントが不正に利用できないように、持ち主とペンダントの個体認識させるのだ。
「デイジー・マック!」
ペンダントを手ずから掛けてくれるのは今までお世話になった先生方なのだが、私が名前を呼ばれた時、そこにいたのはファーナム嬢だった。
彼女は優雅に微笑むと、ケースの中にきれいに納められていた中級魔術師のペンダントを持ち上げたので、私は頭を垂れた。
「下級生だったのに、あっという間に先輩になってしまったわね」
そっと掛けられたペンダントは小さいものなのに、何故かずっしり重く感じた。ファーナム嬢はペンダントの翠石に手をかざすとブツブツと呪文を唱え始めた。
するとエスメラルダの国石である翠玉の埋め込まれたペンダントが碧く輝き始め、その明かりが私の身体を照らす。
「デイジー・マックを中級魔術師として、ここに認める」
あたたかい力が石から流れ込んできた。なるほど、こうして術者とペンダントのつながりが生まれるのか…
「あなたはこれで立派な中級魔術師よ」
未来の王太子妃となるファーナム嬢自らが、私に紐付けの儀式を執り行ってくれるとは思わず、私は驚いていた。だけどそれ以上に嬉しかった。
「──いいえ、私が目指すのはもっと上なので」
中級魔術師で満足するわけがない。
すぐに上級魔術師になってみせる。そうしていずれは……
「そうだったわね、あなたのこれからを応援しているわ」
先日、魔法庁へのお誘いを素気なく断ったというのにファーナム嬢は以前と同じく、変わらない反応で私の前途を応援してくれた。
なので私は彼女に敬意を表して、魔術師の礼をしてみせる。
私は中級魔術師となった。ひとつ、目標を叶えた。
これが私の、デイジー・マックの魔術師としてのスタートだ。
「デイジィィ…卒業おめでとう、授与式めちゃくちゃカッコよかったよぉ」
卒業式典が終わると、そのまま立食パーティが始まった。
式典で緊張して喉が乾いていた私は飲み物を貰いに行ってたのだが、背後からカンナにガバッと抱きつかれた。もう、飲み物が溢れたらどうするんだ…新品のマントなんだぞこれ。
呆れた顔で振り返ると、カンナが顔をグジュグジュにして泣いていた。
「おめでとう…」
カンナが私に差し出すそれはデイジーの花束だ。持っていたグラスをテーブルに置いて、花束を両手で受け取った。
「ありがと」
「寂しいよぉ、先に卒業しちゃうのやだぁ」
カンナはびゃーびゃー泣きながら私に抱きついてきた。仕方がないので抱き返して彼女の背中をポンポンと叩いてやる。
まるで甥っ子のぐずりをなだめているような気持ちになる…おいおいカンナはいくつなんだ…。泣きすぎだろう、永遠の別れってわけじゃないのに。
「手紙ちょうだい。今度の休暇にはうちに遊びにおいでよ。カンナなら歓迎するよ」
なにもない村だけど、自然は豊かだよ。村近くの町には宿もあるから宿泊先には困らない。
「うん! 手紙いっぱい送るから絶対返事ちょうだいね! デイジー卒業おめでとう!」
「ありがとう」
何度おめでとうを言うのか。鬱陶しいけど、嬉しい。カンナらしくて憎めない。
カンナから力いっぱい抱きつかれていて剥がれないので、泣き止むまでしたいようにさせておく。身動きがとれないけど…
「はい、私からもお祝い」
カンナをくっつけた私の目の前に新たな花束が差し出された。今度は色とりどりのいろんな花が組み合わされた花束である。
「ありがとうございます、マーシアさん」
短い期間だったが、彼女にもなんだかんだ世話になったな。彼女に貰った薬図鑑は旅先にも持っていくつもりである。
「良い知らせを待ってるよぉ。デイジーならすぐに叶えそうだけど」
「もちろんです。私は自由業の高等魔術師として高給取りに成り上がってみせますよ」
私は彼女とにやりと笑いあった。
彼女の卒業と私の目標どっちが先か…1年間じゃ流石に無理があるかな。…いや、不可能を可能にするそれもまた一興だ。
「卒業式に野望話!? デイジーの向上心は相変わらずだね!」
別れを惜しんで泣いていたくせに顔を上げたカンナは元気に叫んでいた。
相変わらずって…3年同じ部屋で過ごしたのに今更じゃないのか。…そもそもカンナは私のことどころじゃないと思う。
「カンナは留年しないようにね」
「そうだよぉ、もうデイジーは助けてくれないんだから、カンナは早く学期末テストに向けて勉強すべき」
私とマーシアさんの冷静な返しに対して、カンナはビクッと肩を揺らす。紅茶色の瞳にはまたじわじわと涙が滲み出したではないか。
「…やだぁぁデイジーいかないでぇぇ、マーシアさんでもいい、たすけてぇぇ」
それは無茶な話である。
マーシアさんも期末試験前だし、次は6年になるから忙しい立場なんだぞ、先輩に迷惑かけるんじゃない。
勉強目的だった魔法魔術学校の短くて濃い3年間の学園生活。
私は当初の目的以上に大切なものを得られた気がする。
私はきっと3年前よりも大きく成長できたと思うんだ。
今までとは違う日々だった。今度は卒業に向けて動かなくてはならなかったので、かなり忙しかった。
周りの6年生も必死で他人のことどころじゃない。私はその中に混じって黙々と勉強していた。5年生の教室にいた時はマーシアさんが毎日絡んでくるお陰で、他の生徒も話しかけられるようになっていたけど、このクラスではそうはいかない。
鬱陶しいなぁと思っていたマーシアさんだが、あれはあれで気を使ってくれていたのかなって思う。今では当初の私のそっけない態度を反省している。
3年間だ。この学校に入学して3年、私は入学当初に夢抱いた魔術師への道へと着実に歩んでいる。それだけ私は努力してきた。
この学校を卒業して中級魔術師として認められてもまだまだ道は続く。私はその先も歩き続け、日々学んでいかなくてはならないのだ。
その先の目標に向けてさらなる努力が必要なのである。
「よし、もっと頑張ろっ」
自分を元気づけるためにつぶやいた発言だったのだが、その声が聞こえたらしい周りの6年生が隈をこさえた死んだ目でこちらを見ていた。
何だその目。化け物を見るかのような目はやめてくれないか。
──月日は流れ、卒業式1ヶ月前には最終学年の卒業試験が行われた。
その試験に不合格になった生徒は追試を受けることとなっており、それでも合格できないものは卒業保留、つまり中級魔術師の資格がもらえないことになる。そのため、6年生は皆死にもの狂いで試験勉強をしていた。
そんな中でも私は余裕そのものだ。
最後の卒業試験でも首席の座を頂き、順位表のトップに飾られた『デイジー・マック』の名を見て、誇らしい気持ちになった。
捨てられた過去の私は死んで、新しく生まれ変わったデイジー・マックは中級魔術師になれたんだ。
きっと独り立ちしたら、もっと辛いことや理不尽と出会うのだろう。
不安じゃないと言えば嘘になる。世界を知るために親元から離れて一人旅なんて漠然とした目的だし、自分が目標達成したあとに燃え尽きてしまいそうで、それが怖いなって思うことだってある。
だけど私はそれ以上にワクワクしていた。
■□■
【卒業生の入場です】
扉が開き、入場の合図とともに卒業生は一斉に講堂へ入場した。講堂内には在校生が勢揃いしており、こちらに視線が集まる。
今日卒業を迎える私は真新しいマントと帽子を被って胸を張って歩いた。
卒業式はこの学校に入学したときと同じで、送辞と答辞は特別塔の生徒が行っていた。入学式では王太子殿下の歓迎の挨拶をぼんやりと眺めていたのだが、まさか私のほうが先に卒業するとは……私の努力の賜物ではあるが感慨深いものがある。
卒業証書と中級魔術師の証であるペンダントの授与儀式に移り変わった。卒業生一人一人名前を呼ばれ、壇上でペンダントを首にかけてもらうのだ。その時、ペンダントの持ち主であるという紐付けの儀式も行われることになっている。
このペンダントが不正に利用できないように、持ち主とペンダントの個体認識させるのだ。
「デイジー・マック!」
ペンダントを手ずから掛けてくれるのは今までお世話になった先生方なのだが、私が名前を呼ばれた時、そこにいたのはファーナム嬢だった。
彼女は優雅に微笑むと、ケースの中にきれいに納められていた中級魔術師のペンダントを持ち上げたので、私は頭を垂れた。
「下級生だったのに、あっという間に先輩になってしまったわね」
そっと掛けられたペンダントは小さいものなのに、何故かずっしり重く感じた。ファーナム嬢はペンダントの翠石に手をかざすとブツブツと呪文を唱え始めた。
するとエスメラルダの国石である翠玉の埋め込まれたペンダントが碧く輝き始め、その明かりが私の身体を照らす。
「デイジー・マックを中級魔術師として、ここに認める」
あたたかい力が石から流れ込んできた。なるほど、こうして術者とペンダントのつながりが生まれるのか…
「あなたはこれで立派な中級魔術師よ」
未来の王太子妃となるファーナム嬢自らが、私に紐付けの儀式を執り行ってくれるとは思わず、私は驚いていた。だけどそれ以上に嬉しかった。
「──いいえ、私が目指すのはもっと上なので」
中級魔術師で満足するわけがない。
すぐに上級魔術師になってみせる。そうしていずれは……
「そうだったわね、あなたのこれからを応援しているわ」
先日、魔法庁へのお誘いを素気なく断ったというのにファーナム嬢は以前と同じく、変わらない反応で私の前途を応援してくれた。
なので私は彼女に敬意を表して、魔術師の礼をしてみせる。
私は中級魔術師となった。ひとつ、目標を叶えた。
これが私の、デイジー・マックの魔術師としてのスタートだ。
「デイジィィ…卒業おめでとう、授与式めちゃくちゃカッコよかったよぉ」
卒業式典が終わると、そのまま立食パーティが始まった。
式典で緊張して喉が乾いていた私は飲み物を貰いに行ってたのだが、背後からカンナにガバッと抱きつかれた。もう、飲み物が溢れたらどうするんだ…新品のマントなんだぞこれ。
呆れた顔で振り返ると、カンナが顔をグジュグジュにして泣いていた。
「おめでとう…」
カンナが私に差し出すそれはデイジーの花束だ。持っていたグラスをテーブルに置いて、花束を両手で受け取った。
「ありがと」
「寂しいよぉ、先に卒業しちゃうのやだぁ」
カンナはびゃーびゃー泣きながら私に抱きついてきた。仕方がないので抱き返して彼女の背中をポンポンと叩いてやる。
まるで甥っ子のぐずりをなだめているような気持ちになる…おいおいカンナはいくつなんだ…。泣きすぎだろう、永遠の別れってわけじゃないのに。
「手紙ちょうだい。今度の休暇にはうちに遊びにおいでよ。カンナなら歓迎するよ」
なにもない村だけど、自然は豊かだよ。村近くの町には宿もあるから宿泊先には困らない。
「うん! 手紙いっぱい送るから絶対返事ちょうだいね! デイジー卒業おめでとう!」
「ありがとう」
何度おめでとうを言うのか。鬱陶しいけど、嬉しい。カンナらしくて憎めない。
カンナから力いっぱい抱きつかれていて剥がれないので、泣き止むまでしたいようにさせておく。身動きがとれないけど…
「はい、私からもお祝い」
カンナをくっつけた私の目の前に新たな花束が差し出された。今度は色とりどりのいろんな花が組み合わされた花束である。
「ありがとうございます、マーシアさん」
短い期間だったが、彼女にもなんだかんだ世話になったな。彼女に貰った薬図鑑は旅先にも持っていくつもりである。
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「もちろんです。私は自由業の高等魔術師として高給取りに成り上がってみせますよ」
私は彼女とにやりと笑いあった。
彼女の卒業と私の目標どっちが先か…1年間じゃ流石に無理があるかな。…いや、不可能を可能にするそれもまた一興だ。
「卒業式に野望話!? デイジーの向上心は相変わらずだね!」
別れを惜しんで泣いていたくせに顔を上げたカンナは元気に叫んでいた。
相変わらずって…3年同じ部屋で過ごしたのに今更じゃないのか。…そもそもカンナは私のことどころじゃないと思う。
「カンナは留年しないようにね」
「そうだよぉ、もうデイジーは助けてくれないんだから、カンナは早く学期末テストに向けて勉強すべき」
私とマーシアさんの冷静な返しに対して、カンナはビクッと肩を揺らす。紅茶色の瞳にはまたじわじわと涙が滲み出したではないか。
「…やだぁぁデイジーいかないでぇぇ、マーシアさんでもいい、たすけてぇぇ」
それは無茶な話である。
マーシアさんも期末試験前だし、次は6年になるから忙しい立場なんだぞ、先輩に迷惑かけるんじゃない。
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