太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

文字の大きさ
62 / 209
Day‘s Eye 魔術師になったデイジー

牙のペンダント

しおりを挟む
 獣人村の村長のお宅にお邪魔して、ここだけの話として旅の最中起きたことを状況説明していると、そのタイミングで伝書鳩が飛んできた。
 私は同席していた村長と副村長にここで開封してもいいか確かめてからその封印を解いた。王太子殿下からの返事である。ここに戻ってくるまでに数回伝書鳩での文通をしているのだが、今回の内容は私の相棒になったルルの話についてだった。

『──ここだけの話だが、ハルベリオン王が不治の病という噂が密かに流れているんだ。それも治療方法のない奇病でね、身体の端からじわじわと腐り落ちるというものなんだ。……以前、君が摘発に協力した事件を覚えているかい? 君の村近くの町に住んでいたあの男のことだよ』

 あの成金のことか。ミアを誘拐して弄ぼうとしたあの男……今は苦役を課せられているはずである。

『彼は違法転売の罪でも裁かれていただろう。薬草を不正に転売流通させていた先が、ハルベリオン宛だったことが判明したんだよ』

 伝書鳩越しの殿下の言葉に、私の元々あった胸騒ぎが更に大きくなった気がした。伝書鳩から流れる声に驚いていた村長たちも神妙な顔をして考え込んでいる。あの事件は村民の記憶に未だ残っているからな…

『それでね、マックさん。これから魔法庁へ向かうって話だったけど、しばらく村で待機しておいてくれるかな』

 お願いに似た命令に私は眉をひそめた。
 待機、だと?

『私も時間を作って君の話と提出する証拠品を確認しに行こうと考えているんだ。来庁日時を指定するから少し待っててほしい』

 そんな、さっさと証拠品提出したら再度旅を続けるつもりだったのに。

『君のことだからさっさと旅に出たいと考えているかもだけどね、もしかしたらハルベリオンの残党がうろついているかもしれないだろう? 少し時間を置くのも大事だと思うよ』

 私の考えなどお見通しとばかりに殿下は見事言い当ててみせた。私はムッとする。私の旅を阻止しようなんて……話なら職員から又聞きすりゃいいのに。


■□■


 思わぬ待機を命じられた私は、村でおとなしく滞在していた。
 暇な時間はもっぱら勉強だ。高等魔術師試験のね。国内の王立図書館に行くくらいなら何も言われないだろう。なにか言われたら流石に怒るぞ。私は赤子じゃないんだ、上級魔術師なんだぞって。
 
 勉強の息抜きがてら、私はとある工場にお邪魔していた。そこは家財用品や武器などを製造加工して、あちこちへ卸している工場である。
 ちなみにここはテオの職場だったりする。私はそこの親方にお伺いを立てて、老ドラゴンの解体と素材の加工をお願いした。

「こりゃあ…見事なドラゴン様だな…」
「1200歳を優に超えてるそうです」
「すげぇ長生きだな」

 広い場所で収納術を解くとでーんと現れた老ドラゴンの亡骸。彼は亡くなったあの時とそう変わらない状態で眠っているように見えた。
 尚、ルルはこの場にはいない。おじいさんの遺体を引き渡す決意はしたと言うが、解体する場面を見たくはないだろう。彼女には甥っ子ハロルドの面倒をみてもらっている。
 老ドラゴンの身体ははじめ、一人で解体するつもりであった。──しかし、無理だった。硬すぎるのだ。お陰で持ってたナイフが折れてしまった。魔法を使うと損壊してしまう恐れもあるので、力自慢の彼らに助けを求めることにしたのである。ここなら解体するための道具もあるはずだから。

「…矢じりか剣による怪我か? こんなんじゃ絶命するまで時間がかかったろうに…」

 中々お目にかかれない立派なドラゴンの亡骸を物珍しそうにペタペタ触っていた親方はドラゴンの身体に残る傷跡をみて同情していた。
 でもな、老ドラゴンも暴れまくって襲撃者すごい死に方してたぞ。自分を害した人間には死を持って贖わせたからその辺りは満足してると思う。

「皮は別にとっておいてもらってもいいですか? 防具に作り変えようと思うんです。牙は一つ立派なのをとっておいてもらって、他は売ってお金にします。それと肉は食用には向かないので、すべてドラゴンの妙薬にします」

 自分の希望を伝えると、親方並びに工員たちは快く依頼を引き受けてくれた。手間賃の基準がわからなかったが、素材の一部を買い取る形で手間賃はなしでいいと言われた。いいのだろうか。実質タダである。
 親方は早速作業に取り掛かろうと、周りにいた工員に指示して大きな…ノコギリ? 2人で使うノコギリみたいな大きな刃物を研がせていた。あれで切るのか…切れるのであろうか。

「ついこの間旅立ったばかりなのに、エライ拾いもんしたな」

 そう言われて私は肩をすくめる。
 私もこんな早く帰ってくる予定はなかったんだ。ルルたちに出会わなければきっと先に進んでいたはずなんだよねぇ…

「お前さんの家族はもちろんだけど、テオの野郎も喜んでるだろうよ。若い娘の一人旅ってんでひどく心配していたからな」
「…えぇ?」

 彼の言葉に私は疑問を抱いてしまった。家族はわかるが、なんでテオ?
 
「お前さんに会いたくて向こうでウズウズしているだろうな。まぁ仕事サボったら居残りにさせるって言ったから、大丈夫だろうけど」

 私に会いたくてウズウズとは……子分が帰ってきて嬉しいのだろうか。
 なんだあいつはサボりの常習犯となっているのか。何歳になっても落ち着きのないやつだな。

「群れの一員と認められたんですかね」

 半笑いで返すと、親方から変な顔をされた。
 おい、何だその顔は。残念なものを見るかのようなその瞳をやめてくれないか。

「……お前さん、賢いのに鈍感だなぁ…」

 鈍感だと?
 そんな事ない。私が鈍感なら今頃森の中で野垂れ死んでいるに違いない。
 ムッとしたが、今から作業をするとのことだったので私は後ろに下がってそれを見学することにした。
 巨体だった老ドラゴンが解体され、肉片へと変わっていく姿を見るとなんともいえない気分になるが、自分も旅中に鹿を捕まえて同じように解体したのでしていることはあんまり変わんないか。元を辿れば同じ生き物だもんね。


 ドラゴンの皮はなめしてもらうことにした。出来上がった後にブーツや防具に加工してもらう予定だ。
 肉部分は私が妙薬に加工する。全部となると大変なので、徐々に作ることとして、使わない分は保存魔法をかけて収納しておく。

 老ドラゴンの爪や牙は一部を手間賃代わりに工場に引き渡し、残りは町にある正規の武器屋に売って路銀にするつもりである。牙ひとつだけでも結構な金額するらしく、買い叩かれないようにと工場の親方が相場を教えてくれた。
 絶滅危惧種だからそりゃあ高いよね…ちょっと引くくらい高価な金額だった。



「ルル、ちょっと」

 庭でチョウチョを追いかけている甥っ子を観察……面倒見ているつもりらしいルルに声をかけると、ヒト型の彼女の首に作ってきたそれを掛けてあげた。
 老ドラゴンの立派な牙1つを加工して、それに頑丈な革紐を通したものだ。ドラゴンに戻っても平気なように紐は長めにしている。ドラゴンにこの風習があるのかは知らないけど、大切なおじいさんの牙だ。喜んでくれると思う。

「……これは」
「牙は魔除けになるんだって。おじいさんがきっとルルを守ってくれるよ」

 ルルは物珍しそうにそれを観察していた。老ドラゴンは長生きしただけあって、使い古された牙を持っていた。ルルのおじいさんはもうこの世にいないけど、牙だけでも彼女の側に、と思って作ったんだけど…
 ルルは牙を手にとってまじまじ見ていたが、ふと何かを思い出した風に顔を上げた。

「…主が身につけているものと同じだな」

 その言葉に私はドキッとする。
 …そうなのだ。管理に困ったテオの乳歯をペンダントにして引っさげてるのだ。別に他意はない。なんとなくである。
 普段は人目につかぬよう、服の下に隠しているが、着替えている時にそれを見られたのであろう。

「主……ありがとう」

 私が視線をさまよわせて動揺しているとは気づいていないのか、ルルは老ドラゴンの牙を握りしめて、泣きそうな顔で笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

【完結】成りすましの花嫁に、祝福の鐘は鳴る?

白雨 音
恋愛
代々、神に仕える一族、モード家の直系の娘は、《聖女の光》を持って 生まれると言われているが、三姉妹の真中、クレアは違った。 《聖女の光》を持たずに生まれたクレアは、不遇の少女時代を送り、 二十歳を迎える頃には、すっかり気弱でお人好しの娘に育っていた。 一方、聖女として頭角を現し始めた妹のロザリーンは、隣国の王から妃にと望まれる。 クレアは妹付きの侍女として、一緒に隣国に行く事になるが、途中、一行は賊に襲われてしまう。 だが、それは王との結婚を望まぬロザリーンの策謀だった___ ロザリーンと間違われ、王宮で手厚く保護されたクレアだったが、 聖女の力が使えないと分かるや否や、王は激怒する。 王を執り成し、クレアの窮地を救ってくれたのは、騎士団長のオーウェン。 だが、その為に、彼は行き場の無い花嫁(クレア)との結婚を命じられてしまう___ 異世界恋愛:短めの長編  ※18禁にしていますが、ささやかなものです。《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

処理中です...