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Day‘s Eye 魔術師になったデイジー
閑話・姉狼【メイ視点】
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わたしは狼。
父母と兄弟たちと一緒に森の中で暮らしていた。以前までは母のお乳でお腹を膨らませていたが、牙が発達してからは肉も口にするようになった。両親が獲ってくれた獲物の肉を食べたり、その辺に生えている体にいい草を食んだり。
わたしの頭の中は常に獲物のことと、外敵のこと、安心して眠れる場所、水場のある場所のことばかり。
その他のことに意識なんか向くはずもなかった。わたしたち狼が中心の世界で、他の生き物はその他大勢。他のことはどうでもよかった。
わたしたちはまだまだ幼い。父母の庇護がなくては生きてはいけない。だから父母も絶対に側から離れないようにって厳命していた。
……なのに、末の弟がどっかに消えた。
あのバカ、どうせ虫かなにかに興味湧いてどっかに迷い込んだのだろう。心配せずとも、腹が空けば帰ってくるはずだ。
兄弟の中で一番最後に生まれて、身体が小さいからと母が甘やかすからあんな甘ったれ小僧になったんだ。
しかし、弟は帰ってこなかった。
心配で夜中も寝ずにあちこちを探していた母狼は一晩ですっかりげっそりやつれてしまっていた。
ウロウロしては遠吠えで末息子を呼ぶ。その声の切なさに、父狼が母をなだめるように寄り添うが、母の不安は解消されない。
仕方ないので一家総勢で弟の捜索をすることになった。
弟のせいで昨晩から何も食べてない。腹が減ってイライラする。どうせあのノーテンキな弟はそのへんで昼寝でもしてるに違いない。心配せずとも大丈夫だろうに…
捜索は夜になっても行われた。
あの弟がこんな遠くまで移動してるとは思えないが、母はこっちに絶対にいると訴えて先陣を切る。仕方ないのでわたしたちは後ろをついていく。
わたしは空腹も相まって相当イライラしていた。
夜の闇が支配した森の中にうっすら明かりが灯されている場所があった。そこからふわわんとどこからかいい匂いが漂ってきたので鼻を鳴らした。空にゆらゆらと煙がたなびき、火の気配がした。
何があるんだろう。その場所に引き寄せられるようにして近づくと、そこには森では見ない生き物の姿があった。
あれは確か人間。二足歩行の雌だ。
だけど人間は滅多に森の中に足を踏み込まないはず。珍しい……
このニオイの発生源はあの人間から…こちらに背を向けているので何をしているのかはわからないが、とても美味しそうな匂いがする…!
これはなんだ…芳しい……不思議な匂いもするのに、よだれが止まらない…
お腹すいた…!
「はい冷めた。食べていいよ」
「きゅん! ガウ!」
その間抜けな声に母の耳がピクリと動いた。気配を消さずにガサガサ音を立てて歩いていると、「ピィエェェ」と警戒する草食獣の鳴き声が聞こえてきた。そのせいで人間が周りを警戒して辺りを見渡し始めた。
母狼は構わずに草をかき分けて姿を表した。そして、やっと見つけたとばかりに尻尾をパタパタ揺らしていた。
「キャウ!」
奴もそうだ。うまそうなものを口に咥えた末弟は呑気な顔をしてこちらに近づいてきた。
どこいってたのー? とノーテンキに問いかけてくる末弟を見ているとどんどんイライラが増幅してきたので、ヤツの横っ面を殴っておく。
「キャインキャイン!」
その拍子に美味そうな肉がヤツの口からこぼれ落ちたので、それを分捕ってやる。
じゅわりと口の中に広がる肉の味。いつもの肉とは違う。食感が違う……うまい…。
もぐもぐ食べていると、末弟が泣きながら人間のもとに吹っ飛んでいった。人間に手懐けられたか…愚かな弟狼め。わたしは情けないぞ。
わたしが味わうように食べていたからか、他の弟妹が分けてくれとわたしの口周りをペロペロ舐めてきた。絶対にやらなかったが。
まぁその後わたし達も人間からの施しをしっかり受け取ったのだがな。
火で炙るとこんなにうまくなるんだな。残念ながらわたしには火を操れないので日常で肉を焼いて食べるのは無理だ。
弟は人間と別れるのを惜しんでいた。
人間からは「人間は危険だ、もう近づくな」と言い聞かせられていたようだが、あの人間だけは違う、また会えたらいいなとこれまたノーテンキなことを言っていた。
どうせもう二度と会わないだろう。
わたしはそう思っていた。
だけど再び会った。
わたしはその人間に生命を救われた。
急に襲いかかってきた魔獣によって無様に死ぬのだと思っていたのに、人間の不思議な力のおかげで回復した。
弟の言う言葉の意味がわかった。この人間は違う。
色々与えてくれたのに、見返りも求めずに立ち去ろうとするのだ。
──そうだ、森の奥深くで魔獣になにか施している人間の姿を見たことがある。
確か、「眷属の契約」だと言っていた。
親兄弟と違う時を生きる、特別な狼になって人間…主と共に生きるのだ。わたしが死ぬのは主が死んだ時。そして主に契約を切られた時のみ。
それでも構わない。
命を救われただけでなく、弟を保護してもらったこともある。一飯の礼もある。
わたしは誇り高き狼。恩を忘れたりはしないのだ。なにかお返しをせねばならない。
それに確信していたのだ。
わたしはいつかこの人間の役に立てる。きっと、ね。
父母と兄弟たちと一緒に森の中で暮らしていた。以前までは母のお乳でお腹を膨らませていたが、牙が発達してからは肉も口にするようになった。両親が獲ってくれた獲物の肉を食べたり、その辺に生えている体にいい草を食んだり。
わたしの頭の中は常に獲物のことと、外敵のこと、安心して眠れる場所、水場のある場所のことばかり。
その他のことに意識なんか向くはずもなかった。わたしたち狼が中心の世界で、他の生き物はその他大勢。他のことはどうでもよかった。
わたしたちはまだまだ幼い。父母の庇護がなくては生きてはいけない。だから父母も絶対に側から離れないようにって厳命していた。
……なのに、末の弟がどっかに消えた。
あのバカ、どうせ虫かなにかに興味湧いてどっかに迷い込んだのだろう。心配せずとも、腹が空けば帰ってくるはずだ。
兄弟の中で一番最後に生まれて、身体が小さいからと母が甘やかすからあんな甘ったれ小僧になったんだ。
しかし、弟は帰ってこなかった。
心配で夜中も寝ずにあちこちを探していた母狼は一晩ですっかりげっそりやつれてしまっていた。
ウロウロしては遠吠えで末息子を呼ぶ。その声の切なさに、父狼が母をなだめるように寄り添うが、母の不安は解消されない。
仕方ないので一家総勢で弟の捜索をすることになった。
弟のせいで昨晩から何も食べてない。腹が減ってイライラする。どうせあのノーテンキな弟はそのへんで昼寝でもしてるに違いない。心配せずとも大丈夫だろうに…
捜索は夜になっても行われた。
あの弟がこんな遠くまで移動してるとは思えないが、母はこっちに絶対にいると訴えて先陣を切る。仕方ないのでわたしたちは後ろをついていく。
わたしは空腹も相まって相当イライラしていた。
夜の闇が支配した森の中にうっすら明かりが灯されている場所があった。そこからふわわんとどこからかいい匂いが漂ってきたので鼻を鳴らした。空にゆらゆらと煙がたなびき、火の気配がした。
何があるんだろう。その場所に引き寄せられるようにして近づくと、そこには森では見ない生き物の姿があった。
あれは確か人間。二足歩行の雌だ。
だけど人間は滅多に森の中に足を踏み込まないはず。珍しい……
このニオイの発生源はあの人間から…こちらに背を向けているので何をしているのかはわからないが、とても美味しそうな匂いがする…!
これはなんだ…芳しい……不思議な匂いもするのに、よだれが止まらない…
お腹すいた…!
「はい冷めた。食べていいよ」
「きゅん! ガウ!」
その間抜けな声に母の耳がピクリと動いた。気配を消さずにガサガサ音を立てて歩いていると、「ピィエェェ」と警戒する草食獣の鳴き声が聞こえてきた。そのせいで人間が周りを警戒して辺りを見渡し始めた。
母狼は構わずに草をかき分けて姿を表した。そして、やっと見つけたとばかりに尻尾をパタパタ揺らしていた。
「キャウ!」
奴もそうだ。うまそうなものを口に咥えた末弟は呑気な顔をしてこちらに近づいてきた。
どこいってたのー? とノーテンキに問いかけてくる末弟を見ているとどんどんイライラが増幅してきたので、ヤツの横っ面を殴っておく。
「キャインキャイン!」
その拍子に美味そうな肉がヤツの口からこぼれ落ちたので、それを分捕ってやる。
じゅわりと口の中に広がる肉の味。いつもの肉とは違う。食感が違う……うまい…。
もぐもぐ食べていると、末弟が泣きながら人間のもとに吹っ飛んでいった。人間に手懐けられたか…愚かな弟狼め。わたしは情けないぞ。
わたしが味わうように食べていたからか、他の弟妹が分けてくれとわたしの口周りをペロペロ舐めてきた。絶対にやらなかったが。
まぁその後わたし達も人間からの施しをしっかり受け取ったのだがな。
火で炙るとこんなにうまくなるんだな。残念ながらわたしには火を操れないので日常で肉を焼いて食べるのは無理だ。
弟は人間と別れるのを惜しんでいた。
人間からは「人間は危険だ、もう近づくな」と言い聞かせられていたようだが、あの人間だけは違う、また会えたらいいなとこれまたノーテンキなことを言っていた。
どうせもう二度と会わないだろう。
わたしはそう思っていた。
だけど再び会った。
わたしはその人間に生命を救われた。
急に襲いかかってきた魔獣によって無様に死ぬのだと思っていたのに、人間の不思議な力のおかげで回復した。
弟の言う言葉の意味がわかった。この人間は違う。
色々与えてくれたのに、見返りも求めずに立ち去ろうとするのだ。
──そうだ、森の奥深くで魔獣になにか施している人間の姿を見たことがある。
確か、「眷属の契約」だと言っていた。
親兄弟と違う時を生きる、特別な狼になって人間…主と共に生きるのだ。わたしが死ぬのは主が死んだ時。そして主に契約を切られた時のみ。
それでも構わない。
命を救われただけでなく、弟を保護してもらったこともある。一飯の礼もある。
わたしは誇り高き狼。恩を忘れたりはしないのだ。なにかお返しをせねばならない。
それに確信していたのだ。
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