120 / 209
Day‘s Eye 魔術師になったデイジー
貴族籍の離脱
しおりを挟む
扇子で口元を隠した貴婦人がほほほ、と軽やかに笑い声を立てた。
「──申し訳ございません、折角の申し出ですが、うちの可愛いアステリアを人身御供に差し出すのはご辞退申し上げますわぁ」
「…私の妃は不満なのかな? いずれはこの国で最も高貴な女性になれるというのに」
予想はしてたけど、ハルベリオン陥落作戦での戦果を評されて、私を王太子妃に、という話がシュバルツ王国議会で上がったそうだ。つまり婚約話の白紙撤回を撤回にするというメチャクチャな話だ。
それでラウル王太子殿下から直々に呼び出されて事務的な婚約話を持ちかけられたけど、同席していた母上が笑顔でお断り申していた。
ラウル殿下から不満かと聞かれたが、逆にどんな魅力があるのか聞きたい。
別の女に夢中な男の元へ嫁いで、義務と我慢を強いられる人生なんか地獄だろう。私は高貴な女性になりたいと思ったことなんて一度もないし、いくら金と権力と名誉があってもそんなのゴメンである。
「普通に嫌ですね。変わらず白紙撤回のままですよ。お断りします」
母上と同じく、きっぱりお断りすると、ラウル殿下は「傷ついたな」と苦笑いしていたが、本人も内心ではホッとしてるんじゃなかろうか。
彼の心を射止めている大巫女……サンドラ様は根っこが男性不信だから…まぁ、頑張れとしか。頼まれても応援はしないけど。面倒だし。
「それで? この私との婚約話を蹴って君はどうするんだ?」
ラウル殿下は野暮なことを聞く。私はニッコリ笑って言ってやった。
「私はエスメラルダの人間ですから。私の根っこは村娘のデイジー・マックなんです」
私は貴族ではなく、平民に戻る決心をしたのだ。
ハルベリオン陥落作戦において武勲をあげた私は、エスメラルダとシュバルツ両国から個人名で多額の褒賞金を頂いた。マントにつけるメダルなども貰ったので試しにつけてみたが、移動中にチャカチャカ動いて邪魔そうなので、専用の入れ物にそっと戻した。
褒賞金は庶民としてなら立派な家を建てられるくらいの大金だ。これは後々の生活に必要になるだろうから大切にとっておく。
それでもって改めて国所属の魔術師にならないかとか、いい縁談があるんだが、というお話をいくつも頂いたが、私はそのどれもキッパリお断りした。
特に縁談は殺到して、そのどれにも私の持つ魔術師としての血や、富と名声を欲しがっている、そういう下心しか感じなかった。
評判の美男子とか旧家出身の男性から熱烈な手紙を貰っても、言葉を一度も交わしていないため不気味に感じた。やたらめったら容姿を賛美されたが、ときめく訳もなく、ただ怖い。不気味すぎた。どこで見てたの…とゾッとした。
こんなんでも返事しなきゃいけないのだろうか…なんて返すの?
それを兄上に相談したら、彼は笑顔で焼却炉に連れて行ってくれた。つまり燃やせということらしい。手紙の束はその日のうちに灰となり、煙となって空高く霧散したのである。
どんなに素敵な条件であったとしても、私の気持ちは揺らがない。
どんなに説得されようと、心は決まってるのだ。
私は自分が選んだ道を再出発するのだと。
シュバルツを去る前に、魔術師として活動をしていた際使用していたフォルクヴァルツ城下町の臨時店舗を閉鎖しようとしたのだが、以前私に教えを乞うた学生たちがこの跡地を引き継ぎたいと言い出した。私の代わりに市民へ薬を提供したいと言うのだ。
彼らからは「いつでもお帰りをお待ちしております」と言われた。
途中の道でも、市場でお店をやっている領民が果物をくれたり、できたてのお菓子をくれたりと……私は貴族位を捨てて、この地を離れようとしているのに、領民たちは親しげに声を掛けてくる。皆、以前と変わらず私を姫様と慕ってきた。
私はそれが不思議でならなかったのだが、私付きだったメイドが「皆、姫様の幸せを第一に願っているのですよ」と耳打ちしてきた。
私がここで過ごした期間は1年もない。そこまで慕われる理由はないと思うのだが、やっぱり因縁の相手をとっ捕まえて倒したのが効いたのかな。
いつでも帰っていい、と言われるとなんだかホッとする。息苦しくて怖い場所だったはずのフォルクヴァルツが愛おしく感じてきた。
■□■
出立する前に戦勝祝賀会とやらに参加するようにと命じられ、私はシュバルツの王宮に呼び出されていた。
…私はエスメラルダの魔術師として戦地へ向かったのでこのパーティに呼ばれる覚えはないのだが、王太子命令なので無視できなかった。……パーティ開きすぎだろう、年に何回開くんだよ。
私は王侯貴族たちの視線が集まる中で陥落作戦での働きを評価され、王様直々にお言葉を頂いた。それをありがたく受け取る。
参列する貴族たちからの無遠慮な視線に晒されていた。こころなしか、以前は侮蔑を含んでいた視線が一変して、畏怖と…尊敬っぽい眼差しが送られるようになった。それでも私は誰にも話しかけなかったけども。
貴族と関わるとろくなことがない、それは今でも私の教訓なのである。どうせ縁談とか持ちかけられるから、必要以上に彼らとは話したくないのだ。
「アステリア様」
少し前までは耳慣れない単語の羅列だったが、ここ最近は自分のもう一つの名前だと受け入れられるようになった。その名に反応して振り返ると、後ろにエドヴァルド氏が立っていた。
なんだか随分懐かしく感じる。私の身の回りの変化が起きたのは、この人の必死の出張依頼を受けたことから始まった気がするなぁ…。それが良かったのか悪かったのか、今ではわからないけども。
「本当に、貴族籍を抜けられるのですか?」
その言葉に私は目をパチリと瞬きした。
私の口から言わずとも、どこからか貴族ネットワークで伝わってるのかもしれない。貴族からしてみたら異様な決断に見えるのだろう。
私としては元に戻るだけなんだけど。
「はい」
私が迷いなく頷くと、エドヴァルド氏の瞳が小さく揺れたように見えた。
「一旦、育った村に帰って、育ててくれた家族に顔を見せに行ってきます。その後はエスメラルダのどこかで家を借りて……自由気ままに魔術師としてのんびり暮らしていきたいと思います」
ぶっちゃけなんにも計画していない。
村に私の居場所はもうないかもしれないので、どっかの町で家を借りることも考えている。この際旅を再開してもいいかも。
とはいっても、自分の立場的にあんまり派手に動かないほうがいいだろうから…それはほとぼりが冷めてからだな。
私は高等魔術師だ。自分ひとり満足に食べられるくらい余裕で稼げる。身につけた知識と経験を活用して薬屋でも構えるのも悪くないと思うんだ。
ビルケンシュトックの時みたいな店と家が一体化した物件借りて、楽しくのんびり商売をするのだ。休日には図書館でたくさん本読んだり、還らずの森へ採集に行ったり…。
ルルやメイとジーンたちとのーんびり森の中をキャンプするのだ。ご飯に鹿を捕まえて、それで……想像するだけで楽しみである……
私は口元を緩めてひとりでムフフと笑っていた。それを見ていたエドヴァルド氏はなぜだか寂しそうな笑みを浮かべていた。
「……私の妻になってほしいとお願いしたら、考えてくださるでしょうか」
「えっ?」
私は耳を疑った。
妻になってほしい?
何を言っているんだ。私は貴族の生活が身に合わないから平民に戻るのだぞ。
「あなたは魔なしの私を蔑むことはありませんでした」
エドヴァルド氏の言葉に私は閉口した。
蔑む…ねぇ。私は魔法の才能のない獣人に囲まれて育って、偶然魔力に恵まれた庶民たちと学んできたから価値観が異なる。…環境が物を言ったんだ。
私が特別なわけじゃない、きっと。
たまたま差別意識を持っていない相手に出会ったから、特別視してしまっているだけだろう。
「あなたには母の命を助けていただいた。賢く努力家で根の優しい、身も心も美しいあなたに私は」
「私の手は血で汚れています。……優しい人間はそんな事しません」
彼の言葉を遮るように私は否定した。
少なくとも私は戸惑っていた。全くこれっぽっちも意識していなかった相手に求婚されるとか誰が想像できるだろうか。
「……そんな、自分を卑下なさらないでください。あなたは貴族として、魔術師として国民を守ったのです。私はそんなあなたを尊敬しております」
彼のその気持ちはきっと救われたことによる、一時的な好意であって、劣情を含んだ恋情とかではないと思う。
そう思って彼の求婚をなかったことにしようと思ったけど、エドヴァルド氏は私の手を取って手の甲に口付けを落とす。
恭しく贈られたそれに私は固まる。
彼の榛色の瞳が私を撃ち抜く。
──あぁ、彼の瞳は嘘をついていない。本気だ。
……彼のひたむきな想いを断ることに心苦しくなったが、私はそっと彼の手をほどいて「ごめんなさい」と謝った。
この人はいい人だ。貴族特有の傲慢さがない謙虚な人だ。だけど…
「…心に決めた人がいるんですね。私では駄目ですか?」
その言葉に私は秘密がバレてしまったかのようにドキッとした。
バカみたい。──あいつには運命の番がいるってのにね。
あの日の祭りの晩にあいつを受け入れていたら、何かが変わっていたのだろうか。今そんな事考えてもどうしようもないのに。
今更会いに行ったって、自分が傷つくだけかもしれないのに。
──でも、それでも良かった。
私が再出発するその時には、私が会いたいと願う相手に会いたいのだ。もう私を好きじゃなくてもいい。ただ見送ってほしい。それだけでいい。
私は何も言わず、苦笑いを浮かべた。
エドヴァルド氏はそれだけで私の気持ちを察して、おとなしく身を引いてくれた。
あいつが心にいるのに、他の男性の手を取るなんて真似、私には出来ないのだ。
「──申し訳ございません、折角の申し出ですが、うちの可愛いアステリアを人身御供に差し出すのはご辞退申し上げますわぁ」
「…私の妃は不満なのかな? いずれはこの国で最も高貴な女性になれるというのに」
予想はしてたけど、ハルベリオン陥落作戦での戦果を評されて、私を王太子妃に、という話がシュバルツ王国議会で上がったそうだ。つまり婚約話の白紙撤回を撤回にするというメチャクチャな話だ。
それでラウル王太子殿下から直々に呼び出されて事務的な婚約話を持ちかけられたけど、同席していた母上が笑顔でお断り申していた。
ラウル殿下から不満かと聞かれたが、逆にどんな魅力があるのか聞きたい。
別の女に夢中な男の元へ嫁いで、義務と我慢を強いられる人生なんか地獄だろう。私は高貴な女性になりたいと思ったことなんて一度もないし、いくら金と権力と名誉があってもそんなのゴメンである。
「普通に嫌ですね。変わらず白紙撤回のままですよ。お断りします」
母上と同じく、きっぱりお断りすると、ラウル殿下は「傷ついたな」と苦笑いしていたが、本人も内心ではホッとしてるんじゃなかろうか。
彼の心を射止めている大巫女……サンドラ様は根っこが男性不信だから…まぁ、頑張れとしか。頼まれても応援はしないけど。面倒だし。
「それで? この私との婚約話を蹴って君はどうするんだ?」
ラウル殿下は野暮なことを聞く。私はニッコリ笑って言ってやった。
「私はエスメラルダの人間ですから。私の根っこは村娘のデイジー・マックなんです」
私は貴族ではなく、平民に戻る決心をしたのだ。
ハルベリオン陥落作戦において武勲をあげた私は、エスメラルダとシュバルツ両国から個人名で多額の褒賞金を頂いた。マントにつけるメダルなども貰ったので試しにつけてみたが、移動中にチャカチャカ動いて邪魔そうなので、専用の入れ物にそっと戻した。
褒賞金は庶民としてなら立派な家を建てられるくらいの大金だ。これは後々の生活に必要になるだろうから大切にとっておく。
それでもって改めて国所属の魔術師にならないかとか、いい縁談があるんだが、というお話をいくつも頂いたが、私はそのどれもキッパリお断りした。
特に縁談は殺到して、そのどれにも私の持つ魔術師としての血や、富と名声を欲しがっている、そういう下心しか感じなかった。
評判の美男子とか旧家出身の男性から熱烈な手紙を貰っても、言葉を一度も交わしていないため不気味に感じた。やたらめったら容姿を賛美されたが、ときめく訳もなく、ただ怖い。不気味すぎた。どこで見てたの…とゾッとした。
こんなんでも返事しなきゃいけないのだろうか…なんて返すの?
それを兄上に相談したら、彼は笑顔で焼却炉に連れて行ってくれた。つまり燃やせということらしい。手紙の束はその日のうちに灰となり、煙となって空高く霧散したのである。
どんなに素敵な条件であったとしても、私の気持ちは揺らがない。
どんなに説得されようと、心は決まってるのだ。
私は自分が選んだ道を再出発するのだと。
シュバルツを去る前に、魔術師として活動をしていた際使用していたフォルクヴァルツ城下町の臨時店舗を閉鎖しようとしたのだが、以前私に教えを乞うた学生たちがこの跡地を引き継ぎたいと言い出した。私の代わりに市民へ薬を提供したいと言うのだ。
彼らからは「いつでもお帰りをお待ちしております」と言われた。
途中の道でも、市場でお店をやっている領民が果物をくれたり、できたてのお菓子をくれたりと……私は貴族位を捨てて、この地を離れようとしているのに、領民たちは親しげに声を掛けてくる。皆、以前と変わらず私を姫様と慕ってきた。
私はそれが不思議でならなかったのだが、私付きだったメイドが「皆、姫様の幸せを第一に願っているのですよ」と耳打ちしてきた。
私がここで過ごした期間は1年もない。そこまで慕われる理由はないと思うのだが、やっぱり因縁の相手をとっ捕まえて倒したのが効いたのかな。
いつでも帰っていい、と言われるとなんだかホッとする。息苦しくて怖い場所だったはずのフォルクヴァルツが愛おしく感じてきた。
■□■
出立する前に戦勝祝賀会とやらに参加するようにと命じられ、私はシュバルツの王宮に呼び出されていた。
…私はエスメラルダの魔術師として戦地へ向かったのでこのパーティに呼ばれる覚えはないのだが、王太子命令なので無視できなかった。……パーティ開きすぎだろう、年に何回開くんだよ。
私は王侯貴族たちの視線が集まる中で陥落作戦での働きを評価され、王様直々にお言葉を頂いた。それをありがたく受け取る。
参列する貴族たちからの無遠慮な視線に晒されていた。こころなしか、以前は侮蔑を含んでいた視線が一変して、畏怖と…尊敬っぽい眼差しが送られるようになった。それでも私は誰にも話しかけなかったけども。
貴族と関わるとろくなことがない、それは今でも私の教訓なのである。どうせ縁談とか持ちかけられるから、必要以上に彼らとは話したくないのだ。
「アステリア様」
少し前までは耳慣れない単語の羅列だったが、ここ最近は自分のもう一つの名前だと受け入れられるようになった。その名に反応して振り返ると、後ろにエドヴァルド氏が立っていた。
なんだか随分懐かしく感じる。私の身の回りの変化が起きたのは、この人の必死の出張依頼を受けたことから始まった気がするなぁ…。それが良かったのか悪かったのか、今ではわからないけども。
「本当に、貴族籍を抜けられるのですか?」
その言葉に私は目をパチリと瞬きした。
私の口から言わずとも、どこからか貴族ネットワークで伝わってるのかもしれない。貴族からしてみたら異様な決断に見えるのだろう。
私としては元に戻るだけなんだけど。
「はい」
私が迷いなく頷くと、エドヴァルド氏の瞳が小さく揺れたように見えた。
「一旦、育った村に帰って、育ててくれた家族に顔を見せに行ってきます。その後はエスメラルダのどこかで家を借りて……自由気ままに魔術師としてのんびり暮らしていきたいと思います」
ぶっちゃけなんにも計画していない。
村に私の居場所はもうないかもしれないので、どっかの町で家を借りることも考えている。この際旅を再開してもいいかも。
とはいっても、自分の立場的にあんまり派手に動かないほうがいいだろうから…それはほとぼりが冷めてからだな。
私は高等魔術師だ。自分ひとり満足に食べられるくらい余裕で稼げる。身につけた知識と経験を活用して薬屋でも構えるのも悪くないと思うんだ。
ビルケンシュトックの時みたいな店と家が一体化した物件借りて、楽しくのんびり商売をするのだ。休日には図書館でたくさん本読んだり、還らずの森へ採集に行ったり…。
ルルやメイとジーンたちとのーんびり森の中をキャンプするのだ。ご飯に鹿を捕まえて、それで……想像するだけで楽しみである……
私は口元を緩めてひとりでムフフと笑っていた。それを見ていたエドヴァルド氏はなぜだか寂しそうな笑みを浮かべていた。
「……私の妻になってほしいとお願いしたら、考えてくださるでしょうか」
「えっ?」
私は耳を疑った。
妻になってほしい?
何を言っているんだ。私は貴族の生活が身に合わないから平民に戻るのだぞ。
「あなたは魔なしの私を蔑むことはありませんでした」
エドヴァルド氏の言葉に私は閉口した。
蔑む…ねぇ。私は魔法の才能のない獣人に囲まれて育って、偶然魔力に恵まれた庶民たちと学んできたから価値観が異なる。…環境が物を言ったんだ。
私が特別なわけじゃない、きっと。
たまたま差別意識を持っていない相手に出会ったから、特別視してしまっているだけだろう。
「あなたには母の命を助けていただいた。賢く努力家で根の優しい、身も心も美しいあなたに私は」
「私の手は血で汚れています。……優しい人間はそんな事しません」
彼の言葉を遮るように私は否定した。
少なくとも私は戸惑っていた。全くこれっぽっちも意識していなかった相手に求婚されるとか誰が想像できるだろうか。
「……そんな、自分を卑下なさらないでください。あなたは貴族として、魔術師として国民を守ったのです。私はそんなあなたを尊敬しております」
彼のその気持ちはきっと救われたことによる、一時的な好意であって、劣情を含んだ恋情とかではないと思う。
そう思って彼の求婚をなかったことにしようと思ったけど、エドヴァルド氏は私の手を取って手の甲に口付けを落とす。
恭しく贈られたそれに私は固まる。
彼の榛色の瞳が私を撃ち抜く。
──あぁ、彼の瞳は嘘をついていない。本気だ。
……彼のひたむきな想いを断ることに心苦しくなったが、私はそっと彼の手をほどいて「ごめんなさい」と謝った。
この人はいい人だ。貴族特有の傲慢さがない謙虚な人だ。だけど…
「…心に決めた人がいるんですね。私では駄目ですか?」
その言葉に私は秘密がバレてしまったかのようにドキッとした。
バカみたい。──あいつには運命の番がいるってのにね。
あの日の祭りの晩にあいつを受け入れていたら、何かが変わっていたのだろうか。今そんな事考えてもどうしようもないのに。
今更会いに行ったって、自分が傷つくだけかもしれないのに。
──でも、それでも良かった。
私が再出発するその時には、私が会いたいと願う相手に会いたいのだ。もう私を好きじゃなくてもいい。ただ見送ってほしい。それだけでいい。
私は何も言わず、苦笑いを浮かべた。
エドヴァルド氏はそれだけで私の気持ちを察して、おとなしく身を引いてくれた。
あいつが心にいるのに、他の男性の手を取るなんて真似、私には出来ないのだ。
20
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
【完結】成りすましの花嫁に、祝福の鐘は鳴る?
白雨 音
恋愛
代々、神に仕える一族、モード家の直系の娘は、《聖女の光》を持って
生まれると言われているが、三姉妹の真中、クレアは違った。
《聖女の光》を持たずに生まれたクレアは、不遇の少女時代を送り、
二十歳を迎える頃には、すっかり気弱でお人好しの娘に育っていた。
一方、聖女として頭角を現し始めた妹のロザリーンは、隣国の王から妃にと望まれる。
クレアは妹付きの侍女として、一緒に隣国に行く事になるが、途中、一行は賊に襲われてしまう。
だが、それは王との結婚を望まぬロザリーンの策謀だった___
ロザリーンと間違われ、王宮で手厚く保護されたクレアだったが、
聖女の力が使えないと分かるや否や、王は激怒する。
王を執り成し、クレアの窮地を救ってくれたのは、騎士団長のオーウェン。
だが、その為に、彼は行き場の無い花嫁(クレア)との結婚を命じられてしまう___
異世界恋愛:短めの長編
※18禁にしていますが、ささやかなものです。《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる